「認知機能が衰えやすい人」が無意識に言っている〈2文字のNGワード〉(ダイヤモンド・オンライン)
10/10 8:01 配信
実は、認知機能が衰えやすい人、つまり認知症になりやすい人の会話スタイルには“共通点”があった――。延べ1万人超の会話を分析してきた理化学研究所革新知能統合研究センターのチームディレクターで、『脳が長持ちする会話』の著者である大武美保子氏は、「ありがちな話し方、聞き方が脳神経ネットワークのトラブルを招く」と警鐘を鳴らす。どんな話し方が脳の老化を招くのか。「脳の健康度」をアップする効果的な方法とは。大武氏に話を聞いた。(ライター 西川敦子)● 「最近、物覚えが悪くなった」 中年期に気になる脳の健康 「最近、物覚えが悪くなった気がする」「将来、親のように認知症になるかも」――。 中年期に入ると気になってくるのが、脳の健康だ。脳の状態は体と違い、外側からはなかなかわからない。しかし、「実はあるものを観察すると見えてきます」と理化学研究所革新知能統合研究センターチームディレクターの大武美保子氏は打ち明ける。 「あるものとは『会話』です。これまでの脳科学の研究から、日常会話には認知機能の状態が反映されていることがわかっています。 脳と会話の関係は、いわばハードウエアとソフトウエアのようなもの。スマホが故障していれば、アプリもうまく動きませんよね。会話がスムーズに進まなくなったら、脳の健康を見つめ直したほうがいいでしょう」 例えば、次のような現象が起きてはいないだろうか。 ・ 人や物の名前が出てこず、「あれ」「それ」が増える ・ 話の途中で言葉に詰まる ・ 物事をうまく説明できない ・ 喋っているうち、何を話そうとしていたのか忘れてしまう ・ 同じ話を何度も繰り返してしまう 誰しも多少は心当たりがあるかもしれないが、頻発しているようであれば注意したほうがよさそうだ。
さらに大武氏は、「会話スタイルで脳の健康度が変わる」とも指摘する。
「頭をあまり使わずにすむ一方的な会話ばかりしていると、認知機能が衰えやすくなります。 普段、『喋りたいことを勝手に喋る』『他人の話にしっかり耳を傾けない』『質問しようとせず、聞き流す』といったコミュニケーションをしていないか、振り返ってみてください」 会話は互いに球を打ち合うテニスに似ている。相手がどんな球を打ってくるかわからないからこそ、テニスは難しい。 だが、一方的な会話をしている人にとって、ネットの向こうに対戦相手はいない。勝手に球を打つだけのプレイだからさほど難しくないはずだ。● ありがちな会話スタイルが 脳をサボらせる 頭を使わない会話をしているとき、脳では何が起きているのだろう。 脳は基本的に省エネモードだ。脳の重量は体重の2%程度であるにもかかわらず、脳の神経細胞が消費するエネルギーは全身の20%を占めているからである。 人のいない部屋の電気を消すように、脳も使わない神経細胞にはエネルギー、つまり血液中の糖分を出し渋る。 通常、神経細胞は刺激を受けると電気信号を発生して、ほかの神経細胞に情報を伝達する。だが、エネルギー不足の神経細胞は電気信号を発生しなくなり、神経ネットワーク自体が“通行止め”状態となる。 やがて、反応の悪い神経細胞や死滅した神経細胞が増えると、神経ネットワークは“通行止め”から“閉鎖”へと移行してしまう。 次のような会話スタイルは「頭を使わない会話」の典型例だ。定着していれば、神経ネットワークにさまざまなトラブルが生じる可能性がある。 武勇伝好きタイプ 何かといえば過去の手柄話や著名人との親交などを自慢する。毎度同じ話を聞かされ、周囲がうんざりしていてもおかまいなし。 話題どろぼうタイプ 相手が言いかけた話を最後まで聞かず、途中で話題をさらって自分の話を始めてしまう。 無反応タイプ 他人の話を積極的に聞いていない。「ふーん」「へー」ととりあえず相槌を打っているが、実は聞き流して別のことを考えている。知らない言葉が出てきても質問しない。 とりあえず否定タイプ
必ず相手の話を否定する。口癖は「そうじゃなくて」「っていうか」。
● 日常会話で “脳のメモ帳”を使い倒そう はたして、自分の脳は大丈夫だろうか――。 心配になってきた人も安心してほしい。大武氏によると、老廃物がたまったりして脳が物質的に老化したとしても、認知機能そのものは、日常会話である程度保つことが可能だという。 「重力のない宇宙にいる宇宙飛行士は、筋トレをしないと筋肉が減ってしまうといいます。脳も同じ。手遅れになる前に日々、会話で鍛え直しましょう。 脳は身体の中で筋肉の次に可塑性(再構築する力)が高いとされます。頭を使って会話をすれば、神経細胞同士の接続部、シナプスも強化され、新たな神経ネットワークが形成される可能性があります」 「頭を使う会話」をおおまかに説明すると以下の通りとなる。 話す:身近な出来事を思い出しながら言語化し、相手が理解できるよう工夫して話す聞く:相手の話を聞きながら内容を整理し、気になることを覚えておいて質問する 簡単なようでいて、やってみるとなかなか難しい、と大武氏。同時に複数の作業をこなさなければならないため、高度な認知機能が必要となるからだ。 このとき鍛えられる脳の働きの一つが、「ワーキングメモリ」である。一時的に記憶した情報から必要な情報を引っ張り出したり、不要な情報を捨てたりする機能だ。いわば“脳のメモ帳”といったところだろうか。 「会話を通して、相手の話や最近の体験といった“メモ”を頻繁にチェックすることが、脳の機能を保つ重要なカギとなります」● 質問時に封印したい 2文字のNGワード 具体的にどんな点に気をつけると脳に負荷をかけられるのだろう。大武氏にポイントを挙げてもらった。 (1)「聞く:話す」の時間配分は「6:4」に 年を取って認知機能が落ちてくると、人の話を聞くのが苦手になる。自分と異なる視点や思考回路を理解しようとすると、複雑な脳の処理が必要になるからだ。普段から話すことより聞くことに力を入れ、あえて脳に負荷をかけるようにしたい。 (2)「次に何を話そうか」を「何を質問しようか」に
相手が話しているとき「次に何を話そうか」と考えていると、聞くことがついおろそかになる。意識を「質問したいこと」に向けると聞くことに集中できる。質問を重ねることで会話がさらに深まっていく。
(3)「なぜ」を禁句に ストレートに答えを引き出す「なぜ」ではなく、「いつから」「誰と」「どこで」などを使い、具体的な質問をする。 例えば、自転車通勤している同僚に「なぜ電車を使わないんですか」ではなく、「いつから自転車通勤を始めたんですか」と聞けば、「3年前、親友が自転車を譲ってくれて……」などと語ってくれるかもしれない。 さらに質問を繰り返していけば、相手の人となりや人生が見えてくる。質問しながら洞察力、思考力を駆使しよう。 (4)最近の話をする 昔話ではなく、最近の出来事を語る。 新しい体験や発見、驚きなどを話題にすると、「覚える(記銘)」→「覚えておいて(保持)」→「思い出す(想起)」という3つの記憶の機能を強化できる。常にアンテナを立ててネタを探しておき、アウトプットすることを心がけたい。 (5)固有名詞+数字を駆使する 記憶機能が高い人ほど、体験を具体的に語れることが過去の研究からわかっている。 例えば、旅行で城めぐりをしたのであれば、「天守閣に登ってみたら楽しかった」で終わらせるのでなく、城の名前や築いた大名などの「固有名詞」、天守閣の高さといった「数字」を添えて話すといい。 (6)笑いを仕込む 相手を笑わせる工夫をする。恰好のネタが失敗談だ。 ちょっとしたドジやミスなど、ささやかな“やらかしエピソード”を披露してみる。コントなどを見てお笑いのテクニックやアドリブに学ぶのもいい。 柔軟な発想力、話の構成力、状況判断力、瞬発力を磨くと、脳の神経ネットワークの可塑性も高まる。● 常識にしがみつくと 脳は老化で衰えていく 脳の老化による認知機能低下の予防を目指し、2007年から大武氏が提唱してきた会話法が「共想法」だ。大武氏が代表を務める特定非営利活動法人ほのぼの研究所が参加者を募り、実践・普及してきた。約18年間にわたる参加者数はのべ1万人超に上る。 やり方は簡単だ。
3〜6人のグループを作り、それぞれ持ち寄った写真や話題について、話し手と聞き手が交互に会話する。制限時間付きで「話す」「聞く」「質問する」「答える」の4プロセスを進めるため、誰かが喋りすぎたり、聞きっぱなしになったりすることがない。
「会話内容を分析した結果、共想法に続けて参加した人は言葉をすらすら取り出すとき用いられる認知機能、『言語流暢性』が向上していることがわかりました。言語流暢性は、いわば認知機能のバロメーター。放っておくと加齢とともに衰えてしまいます」 そうなる前に言語流暢性を高めておけば、冒頭のような“困った現象”は起きにくくなるだろう。 「共想法そのものを真似しなくてもいい。会話の習慣を変えることで、脳の神経ネットワークを再構築し、認知機能の底上げができる可能性がある」と大武氏。 その際、先述のポイントに加え、ぜひ意識したいのが「常識にしがみつかないこと」だ。 「常識は国によって違いますし、業界、組織ごとに異なりますよね。時代を経て変わることもしばしばです。人によっては正反対ということもある。この事実を忘れ、『自分は常識的な人間だ』と思い込んでいると、他人の視点を想像できなくなってしまいます」 「到底、共感できない」と思っている他人の価値観も、その人の視点をイメージすることならばできるかもしれない。メガネをかけ替えるようにいろいろな相手の視点を想像し、視点の背景にある立場や状況に思いを馳せる――。 心理学の世界で「パースペクティブテイキング」と呼ばれるこの能力こそ、脳の老化対策における最大の武器、と大武氏は語る。会話を通して多様な考え方を知り、新しい視点として取り入れることで脳の可塑性は高まっていくはずだ。 「相手の視点を見るメガネ」をかけて話を聞き、「最近の話題」を語る。頭に負荷をかけながら会話し、日々、脳を育て直していきたい。
おおたけ・みほこ/理化学研究所革新知能統合研究センター チームディレクター、NPO法人ほのぼの研究所 代表理事・所長。ロボット工学者、認知症予防研究者、博士(工学)(東京大学)。2児の母。認知症を予防する会話支援手法「共想法」を開発。理化学研究所にて認知症予防のためのAI・ロボット研究をチームメンバーと共に推進。文部科学大臣表彰「若手科学者賞」、人工知能学会「現場イノベーション賞」、ドコモ・モバイル・サイエンス賞社会科学部門「選考委員特別賞」などを受賞。主な著書に『脳が長持ちする会話』(ウェッジ)、『介護に役立つ共想法』(中央法規出版)『Electroactive Polymer Gel Robots』(Springer)など。
ダイヤモンド・オンライン
最終更新:10/10(金) 8:01