謎多き高エネルギー現象「高速電波バースト」の発生源が判明
20年近くにわたり、天文学者たちは銀河系の外から届く「高速電波バースト(Fast Radio Burst:FRB)」と呼ばれる現象を観測してきました。これは数msec(msec=1秒の千分の1)しか続かないにもかかわらず、太陽が1年間に放出するよりも多くのエネルギーを生み出すとても強力な電波の閃光です。
宇宙から届いた謎の閃光
しかし、その正体や発生場所はこれまで分かっていませんでした。が、今回ついに史上最も明るいFRBが観測され、その発生源が近くの銀河にあることが突き止められました。
研究者たちは以前から、FRBは中性子星同士の衝突のような、非常に高エネルギーで激しい天体現象によって生じると考えてきました。
しかし、FRBは太陽が1年間に放出するよりも多くのエネルギーを一瞬で放出するにもかかわらず、瞬きするより短い時間で消えてしまいます。そのため、これまで正確な発生源を突き止めることはできませんでした。
研究の共著者であり、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の理学部学部長でもあるBryan Gaensler氏は次のように語っています。
「これまでも多くのFRBを観測していましたが、空のどこで起きているのかについては大まかな情報しか得られていませんでした。
電話で誰かと話しているのに、その人がどの都市や州からかけているのか分からないようなものです。しかし、今では彼らの正確な住所だけでなく、その家のどの部屋から電話をしているのかまで分かるのです」
なお、この研究成果は学術誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されました。
史上最も明るいFRB「RBFLOAT」
今回観測された極めて明るいFRB(正式名称:FRB 20250316A)は、2025年3月におおぐま座の方向から、カナダ・ブリティッシュコロンビア州にある電波望遠鏡「CHIME(Canadian Hydrogen Intensity Mapping Experiment)」によって検出されました。
研究者たちはこれを「史上最も明るい電波フラッシュ(Radio Brightest Flash Of All Time)」を意味する「RBFLOAT」と呼んでいます。このフラッシュは、わずか数msecで太陽が4日間に放出する以上のエネルギーを生み出しました。
この発見は、CHIME本体と、その新たに完成した「アウトリガー」望遠鏡アレイのおかげで可能になりました。カナダから米ウェストバージニア州にまで広がるこの巨大なネットワークは、数カ月前に稼働を開始したばかりで、極めて短時間の明るい電波フラッシュを検出できるほど高感度です。
多くのFRBは数カ月の間に何度も繰り返し観測されますが、RBFLOATは1度のバーストで全エネルギーを放出しました。初観測後に数百時間の追跡観測が行なわれましたが、追加のバーストは確認されませんでした。
天文学者たちは、このバーストを約1億3千万光年先の銀河の外縁部にある、わずか45光年の広がりしかない領域に特定しました。
そこは渦巻銀河の腕の一部で、多くの星形成領域が点在しています。研究によれば、このバーストはその星形成領域の近くで起きたものの、領域の内部ではなかったとのことです。
研究の上級著者でノースウェスタン大学の物理学・天文学教授のWen-fai Fong氏は
「アウトリガー全体が稼働してからわずか数カ月で、私たちの“宇宙のご近所”にある銀河から、これほど明るいFRBを発見できたのは驚くべきことです」
と語っています。
宇宙の謎を解く手がかり
研究チームはさらに、ハワイのケック天文台にある10メートル望遠鏡「Keck II」の分光観測装置「Keck Cosmic Web Imager」を用いて、RBFLOAT周辺の環境を調べました。これには、銀河の星形成率、任意の位置でのガスの総量、その密度といった性質が含まれます。
しかし、この閃光の正確な原因は依然として謎です。チームは、超新星爆発の残骸として残る強力な磁場を持つ中性子星である「磁気星(マグネター)」が原因ではないかと考えています。
研究の共著者で、ノースウェスタン大学大学院生のYuxin “Vic” Dong氏は次のように述べています。
「渦巻銀河の腕は一般的に活発な星形成の場であり、今回のFRBがマグネターによって生じたという説を裏付けています。われわれの非常に高感度なMMT画像を用いた解析では、このFRBは実際には最も近い星形成領域の外にあることが分かりました。
この位置は興味深いもので、本来なら星形成が起きている領域の内部にあるはずです。これは、元となったマグネターが誕生した場所からはじき出されたのか、あるいはその場所の中心から離れた位置で誕生した可能性を示唆しています」
新時代の幕開け
CHIMEのアウトリガーが本格稼働した今、天文学者たちは今後さらに多くのFRBの発生源を毎年特定できると期待しています。それはFRBの正体解明に近づく大きな一歩となるでしょう。
「この成果は転換点を示しています。これまでは謎めいた閃光をただ観測するだけでしたが、今ではそれが正確にどこから来ているのかを見ることができます。
これによって、FRBが死にゆく星や未知の磁気天体、あるいは私たちがまだ想像すらしていない何かによって引き起こされているのかを解き明かす道が開かれるのです」
と、研究著者でマギル大学の博士研究員のAmanda Cook氏は語っています。