トランプ氏、中国尻目にリーダシップ発揮-東南アジアの紛争に介入
トランプ米大統領がタイとカンボジアに発した関税発動の警告が、両国の国境地帯で起きた激しい衝突の終結に寄与した。
武力衝突の阻止に貿易戦争という強硬手段を用いる姿勢をあらためて示すことで、トランプ氏は中国の影響力が及ぶ地域でリーダーシップを発揮した。
カンボジアのフン・マネット首相とタイのプンタン首相代行は28日、停戦合意後の記者会見で握手を交わす前、そろってトランプ氏に謝意を示した。5日間に及んだ今回の戦闘では、少なくとも42人が死亡した。
トランプ氏は数日前に米市場へのアクセスを交渉材料として用い、戦闘の終結を促すとともに、自身を「和平の仲介者」としてアピールしていた。
中国も停戦協議に代表者を派遣したが、米国に比べて目立たない対応にとどまり、経済絡みの利害をちらつかせるようなこともしなかった。中国は一般的に対話の場を設ける以外の形で紛争に介入するのを控える傾向があり、このため、流血を止めた功績はトランプ氏のものとされた。
「トランプ氏はこれを成果と捉えるだろう。彼は和平の仲介者として見られたいと考えている」とチュラロンコン大学(タイ)のティティナン・ポンスディラック教授(政治学)は指摘。「米中という2大超大国が共に関与したことには意義がある。バランスや正当性、実質的な支援が生まれる」と語った。
トランプ氏は26日、タイとカンボジアの首脳に電話。その後、「もし両国が戦っているなら、どちらの国ともいかなる合意を結ぶつもりはない」とソーシャルメディアに投稿した。
両国は、8月1日にも36%の関税が課せられる可能性がある中で極めて状況に直面。インドネシアとフィリピンには19%、ベトナムには20%の関税率が適用される。
トランプ氏は28日、タイおよびカンボジアとの貿易交渉を再開すると発表した。タイのプンタン氏はバンコクに戻った際、トランプ氏と話したと記者団に伝え、「非常に良い結果を得られるだろう。彼は可能な限り多くをわれわれに与えようと最善を尽くしてくれる」と述べた。
トランプ氏は「私は平和の大統領であることを誇りに思う!」と投稿した。
現在の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国であるマレーシアが仲介した停戦合意は、タイとカンボジアの軍関係者が29日に会談した後も維持されているもようだ。
地政学的な目的
トランプ氏と中国の習近平国家主席の対照的な対応は、大国が世界とどう関わるべきかという考え方の違いを浮き彫りにしている。
トランプ氏は貿易関係の再構築に力を入れ、世界最大の消費市場へのアクセスを交渉の切り札とする姿勢を隠していない。今年先に起きたインドとパキスタンの戦闘も、同様の戦術により終結させたと主張している。
こうした「関税による和平」戦略は、関税を地政学的な目的に利用するというホワイトハウスの一連の取り組みの延長線上にある。
トランプ氏は7月上旬、ブラジルに対し50%の関税を課すと警告。2022年の大統領選での敗北後にクーデターを企てたとしてボルソナロ前大統領が起訴されたことを問題視し、起訴取り下げをブラジル当局に迫った。
一方、中国は「内政不干渉」の原則を掲げており、長年にわたり他国の紛争への関与を避けてきた。中国は政治的変革を求めず、融資や開発支援を通じて関係を築くという手法で、新興国を中心とする「グローバルサウス」との外交において米政府との違いを際立たせている。
清華大学(中国)の唐暁陽・国際関係学部長は「中国は地域機構を通じた仲介を望んでいる」と説明。「域外の国が力を使って直接介入する必要はない。それはトランプ氏のやり方であり、中国の通常の外交アプローチと一致しない」と話した。
中国の王毅外相は先週、英国とフランスによる植民地主義の時代に言及し、「この問題の根本原因は過去の欧米列強による植民地支配のレガシーにある」との考えを示した。
原題:Trump Wields Trade Threat to Play Peacemaker in China’s Backyard (抜粋)