新入社員「Web会議でカメラオンにする必要なくないですか?」 上司のあなたはどう答える?
「でも緊張するんです」 「自宅の背景が見られたくないんです」 こんな理由でカメラオフを選ぶ人も多い。これらの懸念は技術的に解決できる。背景をぼかす機能や、バーチャル背景を使えばいい。 大事なのは「顔出し」が持つ関係性構築の力だ。 信頼関係の構築には「相互開示」が欠かせない。お互いの情報を開示し合うことで関係は深まる。カメラオフは情報の「非開示」を意味する。相手に自分を見せないことは、信頼関係構築の妨げになりかねない。 ある企業の役員は「カメラをオフにする社員は、自分の発言に責任を持っていない」と語った。これは極端な見方かもしれないが、組織の中での顔出しには「責任」の側面もあるのだ。
では、冒頭の質問に上司はどう答えるべきか。私なら次のように答える。 「単に情報を交換するだけなら、確かにカメラオフでも構わないかもしれない。しかし、会議は単なる情報交換の場ではなく、信頼関係を築く場でもある。顔の表情から読み取れる微妙な反応は、言葉だけでは伝わらない。また、多くの人は『見る』ことで情報を理解する。君の表情が見えなければ、発言の真意が伝わりにくくなってしまう。それに、顔を見せ合うことで相互理解が深まり、組織としての一体感も生まれる。だから、できるだけカメラオンで参加してほしい」 Web会議の「カメラオン」は単なる形式やルールではない。人間のコミュニケーションの本質に根ざした重要な要素なのだ。
さて、今回はWeb会議の「カメラオン」問題について取り上げた。ただ、それだけで本コラムは終わらせたくない。最後に私なりの主張も書いておきたい。 私は『脱会議』という書籍の著者である。そもそも会議というコミュニケーションスタイルに肯定的ではない。ムダな会議は組織の生産性を極めて悪くする。つまり、カメラオンが必要かどうか以前に、その会議そのものが必要かどうかは上司にしっかり考えてもらいたいと思う。 交流や信頼関係を築くことも目的であれば、当然「カメラオン」にすべきだろう。しかし、もっと効果的なのはオンラインではなく、リアルに集まることだ。顧客相手ならともかく、同じ職場のメンバーであればリアルで会う。そのほうがはるかに「非言語データ」を相互に開示できる。 もし言語データのみで意見交換をしたいのなら、Slack、Chatworkなどのビジネスチャットのほうが断然効果的だ。チャットのほうが、若い人の発言を引き出しやすい(これはいろんな業界で実施した結果、明らかだ)。 「チャットは慣れていないんで……」などと上司が言い訳するのなら、新入社員から「カメラオンする必要なくないですか?」といわれても何も言い返すことはできまい。単に自分が慣れているコミュニケーションスタイルに新人を合わせようとしているだけなのだから。そんな自分本位の姿勢は、今の時代では支持されない。 現在はマルチメディア、マルチコミュニケーションの時代である。目的やシチュエーション別に合わせられるよう、若い人だけでなくベテラン社員も慣れていかなければならない。
ITmedia ビジネスオンライン
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人間の脳は「顔」に強く反応するよう進化してきた。 赤ちゃんは生後わずか数時間で、人の顔のパターンに特別な関心を示すという研究結果がある。また、私たちの脳には「紡錘状回顔領域(FFA)」という顔認識に特化した部位があるとも言われている。 つまり私たちは「顔」を見ることで、相手の感情や意図を読み取るよう生物学的にプログラムされているのだ。 なぜ営業は顧客のところへ、わざわざ顔を出しにいくのか? そんなの意味がない。電話やメールで十分だと思う人はいるのだが、実際に「顔」を出したほうが成果は安定する。 商売の面白さ、興味深いところは、商品力だけで決定しない点だ。 営業部長だったAさんのエピソードを紹介しよう。彼は毎週のWeb会議で徹底して「カメラオン」を要求した。しかし一人の中堅社員がひと月以上にわたってカメラをオフにしたまま参加し続けた。理由を尋ねると「自宅のプライバシーが気になる」とのことだった。 しかし、ある日その社員がカメラをオンにした途端、会議の雰囲気が大きく変わったという。表情や反応が見えることで、他のメンバーが彼の意見に積極的に応じるようになったのだ。本人もそれを実感し、以後は背景をぼかす機能を使いながらカメラオンで参加するようになった。
人間には、情報を受け取る際に優先的に使う感覚がある。これを「優位感覚」と呼ぶ。これを知ることで、その人がどの感覚に最も敏感に反応するかを把握する手掛かりになる。 1. 視覚優位:視覚による情報が印象に残りやすい 2. 聴覚優位:聴覚による情報が印象に残りやすい 3. 身体感覚優位:触覚や嗅覚、味覚が印象に残りやすい 経営者や権威者はこのうち「視覚優位」が多いという意見がある。なぜなら、常に会社のビジョンを頭に思い描いているからだ。常に未来をイメージして経営している社長や経営陣、幹部は「視覚優位」になりやすいのは当然かもしれない。 だから上位役職者ほど人を集めたがる。統制範囲の原則(1人の管理者が管理できる部下の人数には限界があり、これを超えると管理効率が低下するという原則)の考え方からすれば、20人も30人も会議に呼ぶことで統制がきかなくなるのにもかかわらず、威厳を誇示したい、という無邪気な願望もあるのかもしれない。 「カメラオフでいいじゃないか」と主張する人は、自分が「聴覚優位」だからかもしれない。しかし、会議にはさまざまな優位感覚を持つ人が参加している。多くの参加者が「視覚優位」なら、カメラオフはコミュニケーション効率を下げることになる。