米国の「カナダいじめ」は「併合」に発展するか 「我が国は世界の道徳的な指導者」と考える米国民は39%に激減

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 2月15日、ドイツ南部で開かれていたミュンヘン安全保障会議が閉幕した。

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 深刻な相互不信に陥った米欧関係について、ルビオ米国務長官の発言が注目された。再び活力ある同盟関係を望むというルビオ氏の呼びかけに、欧州諸国の首脳は胸をなでおろした。

 第2次トランプ政権発足後初となった昨年の同会議では、バンス副大統領が演説で、欧州が最も懸念すべき脅威はロシアや中国ではなくリベラル的な価値観だと非難した。このため、欧州で米国との同盟関係が危うくなるとの危機感が広まったことは記憶に新しい。

 今年のミュンヘン安全保障報告書は、昨年から今年にかけての米国の外交姿勢を警戒する内容だった。世界はトランプ米大統領が主導する(解体工事用の)破壊球のような時代にあり、数十年にわたり繁栄してきた国際秩序が前例のない緊張にさらされているとの記述が欧州側の懸念を如実に表していた。

実はグリーンランドよりもカナダ

 米国から「三行半」を突きつけられるという最悪の事態は回避できたものの、欧州にとっては、米国がこれまでと同様の“頼りになる同盟国”と判断するのは早計だろう。

ドンロー・ドクトリンの推進

 筆者は1月9日に仏調査企業イプソスが公表した世論調査の結果に注目している。

 それによれば、「米国は世界の道徳的な指導者だ」と回答した米国人の割合は39%にとどまった。2017年は60%だった割合が、過去約10年間で激減した形だ。

 このような民意を踏まえ、トランプ氏はアメリカ・ファーストの安全保障政策「ドンロー・ドクトリン(主義)」を推し進めていくに違いない。

 ドンロー・ドクトリンは、モンロー・ドクトリン(1823年に当時のモンロー大統領が欧州によるアメリカ大陸への干渉を拒否した宣言)に、トランプ氏の名前を合わせた合成語だ。米軍によるベネズエラ空爆やグリーンランド買収の圧力は、ドンロー・ドクトリンの一環だと指摘されている。

 トランプ政権は西半球における安全保障協力に力を入れ始めている。ニューヨークタイムズは、米国防総省が11日にワシントンのホテルで西半球の軍指揮官を集めた会議を開催したと報じた。西半球に領土を持つ34カ国が招待されたという。米国が西半球の軍首脳だけを一堂に集めることは異例のことだ。

 米国は一方で、北大西洋条約機構(NATO)の統合軍司令部の主要な司令官ポスト2つを欧州側に引き渡す意向だと報じられている。

文明間の対立ではなく内部対立

 米国の意図は定かではないが、これまでのように同盟国の意向を尊重するやり方ではなく、自国の利益を全面に出し、同盟国を強引に従わせようとしているのかもしれない。

 思い起こせば、米ハーバード大の政治学者サミュエル・ハンチントン氏は20世紀末、重大な対立は異なる文明間で起きると主張した。21世紀に入ると、米国がアフガニスタンやイラクといったイスラム文明圏で軍事作戦を展開したため、ハンチントン氏の説は正しいとみなされるようになった。

 だが、昨今の国際紛争は、ハンチントン氏の説では説明できない。

 フィナンシャルタイムズ(FT)は昨年12月、「誤りだった文明の衝突」と題する論説記事を掲載した。ハンチントン氏の分類に従えば、ウクライナ戦争は「東方正教会文明」の内部で起きている。中国と台湾の対立も同じ文化圏(中華文明)内の争いだ。

 東方正教圏にありながら西側志向のウクライナ、中国的文化を持ちつつ民主主義を採用する台湾。紛争が起きているのは文明圏内で逸脱が生じている地域だというわけだ。

 FTの説に従えば、昨今の米欧の対立は、ハンチントン氏が言う西欧文明(西方教会に依拠した文明)圏での逸脱だと解釈できる。米国のMAGA(米国を再び偉大に)勢力にとって、現在の欧州は伝統的なキリスト教の教えに背いているということなのだろう。

カナダで強まる米国への警戒感

 米国の「カナダいじめ」が急速に強まっていることも気がかりだ。事の発端は、カナダ首相のマーク・カーニー首相が1月中旬、米国との貿易依存を減らす目的で中国を訪問したことだった。

 トランプ氏はこれに猛反発した。自身のSNSでカーニー氏を“米国の州知事”と呼び、カナダを中国の対米輸出の積み替え港にするなら、カナダのすべての輸入品に100%の関税を課すと恫喝した。西欧文明の一員である隣国が、あろうことか中国にすり寄るのはけしからんということなのだろうか。

 カナダでは米国に対する警戒感が強まっている。

 カナダ紙のグローブ・アンド・メールは1月20日、トランプ氏がカナダ併合を言及する中、カナダ軍は米国の軍事侵攻への対応策を検討していると報じた。カナダは米国に対抗できる軍事力を有していないため、反撃は奇襲などのゲリラ戦術が中心になるという。カナダ軍が米国の軍事侵攻を想定したシミュレーションを行うのは100年ぶりのことだ。

グリーンランドよりもカナダ併合?

 日本ではあまり知られていないが、カナダの建国は米国の南北戦争が契機だった。

 1861年に南北戦争が勃発すると、英国は南部に好意的な中立宣言を発した。そのため、北部では“英領北アメリカ植民地を奪うべし”(カナダ併合論)という議論が沸騰する。

 これに脅威を感じた北アメリカ植民地の住民は、団結して南北戦争の翌々年(1867年)にカナダを建国した。緊張関係は19世紀末まで続いたと言われている。

 トランプ氏は経済手段でカナダを併合するとの考えを示しているが、強硬策に打って出ることはないという見方が一般的だ。だが、過去の経緯にかんがみれば、トランプ政権はグリーンランドよりもカナダの併合を優先課題にしているのではないかと思えてならない。

 独断専行を強める超大国の動向について、今後も最大限の関心を持って注視すべきだ。

藤和彦経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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