〈AfD支持〉を公言することにためらいが消えた…警察車両が囲むドイツ・マクデブルクの選挙集会で旧東独市民が語る心情
9月4日(金)夜、フランクフルトから電車で州都マクデブルクに到着した。同市人口は25万人に過ぎず、中央駅前は、日本の大方の県庁所在地に比べれば、閑散とした雰囲気。道はだだっ広くて路面電車が走り、ソ連時代に建てられたいわゆる「スターリン様式」の建物も健在で、きれいに改修されてかつての荒廃した感じはもはやないものの、旧東ドイツの雰囲気は今も感じることができる。
同州住人の外国人比率は、ドイツの平均14.9%に比べて半分程度の7.9%だが、それでも駅前には、多数のトルコ、アラブ、アフガン、インド系と思われる若者たち、スカーフをかぶったイスラム教徒の女性、黒人たちが歩いている。今やドイツのどの都会でも見られる日常の風景とさほど違いはない。
駅から歩いて5分ほどのホテルにチェックインすると受付が明らかに移民系の男性だったので、選挙への考え方を聞いてみた。2022年にドイツに来た、シリアで英語教師をしていたというクルド系シリア人難民(35歳)だった。
「ここで外国人だからと言って直接的な脅しを受けたことはないが、求職をしてもよく断られた。理由は言わないが、外国人だからだろう。住民は危険ではないが非友好的で、ドイツ人の知り合いはいない。ただ、差別があるのは世界のどこでもそうだ。変えようがない。AfDは外国人政策に限らず、ウクライナ支援停止など外交政策も間違っている」などと語った。
警察車両が取り巻く最終日のAfD選挙集会
翌朝、ホテルの朝食をとっていると警察車両がひっきりなしに走っていく。選挙戦最終日のAfDの選挙集会が開催される方向だ。
投票日前日のマクデブルクでの集会は、AfDが市中心部からやや南寄りの「AMO文化ホール」で、AfDの伸張を阻止しようとする左派勢力が市中心部の大聖堂前の広場で、それぞれ開催した。
午後1時前、AfDの会場近くに到着すると、周りにはおそらく20台は下らない警察車両が取り巻いている。これまでAfDの党大会が開かれるたびに、反AfD勢力が、党員の会場への接近を阻止するために実力行使をすることが多く、それに備えるためだろう。ただ、今回はすんなりと会場入り口近くまで来ることができた。すかさず黒ずくめの服の警備担当者の男性が近づいてきた。
日本のジャーナリストを名乗り、会場内で取材できないか聞いたところ、私の名前とメディアをスマートフォンに登録して入れるように努力をしてくれたが、結局警察当局から許可が出なかったとのことだった。ただ、ホール前にはすでに数十人の支持者が集まっており、集会が始まるまでの間、話を聞くことができた。
ちなみに、AMO文化ホールは1950年建設の東ドイツ時代の建物で、そこを会場に選んだのも、旧東ドイツの人々の心情に訴える計算があるのかもしれない。
事実、集まっていた支持者の1人は、ここで東ドイツの「成年式」(14歳で東ドイツ国家の一員として認証する式)を受けた思い出の場所と話していた。
「仕事をしている移民は排斥しない」
風が強く、日が照っていたかと思うと瞬く間に陰り、雨粒が落ちてくる。そんな典型的なドイツの天候の中、午後2時の開場を待って、少しずつ列ができ始めた。その中の退職者の女性(65歳)は「なぜAfDを支持するのか」という私の質問に次のように答えた。
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1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。1982年読売新聞社入社。バンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(2015年山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『本音化するヨーロッパ』『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』『移民リスク』など。
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投票日の9月6日(日)は、さわやかな青空が広がる絶好の投票日和だった。ザクセン・アンハルト州都マクデブルクの文化歴史・自然史博物館の建物の一室が投票所の1つになっていたので、許可を得て中に入って写真を撮影し、投票所から出てくる人に投票先などを聞いた。
老夫婦に「単刀直入に聞くが、どの政党に投票したか、なぜか」と話しかけると、男性(73歳)は「単刀直入に答えるが、もちろん、ドイツのための選択肢(AfD)だ。他に何が選択できるというのか。他の政党は二枚舌、ダブルスタンダード、戦争遂行者だ」と断言した。
AfDは極右ではないのか、と聞くと、「極右だ、悪だと放送している公共放送だけ聞いているとそういう見方になる」と言う。マクデブルク近郊で生まれ、東ドイツ時代のハレ大学で農業技術の学位を取り、ラオスで農業開発の援助にも携わったことがある。
「私は世界に開かれた人間だ。技術を持った移民、本当の難民であれば歓迎する。しかし、不法入国しドイツの制度を利用する人間はダメだ」
東ドイツ時代は社会主義統一党(事実上の共産党)の党員だったが、統一後は政治からは離れた。前回連邦議会(下院)選挙からAfDに投票するようになった。現状への不満がAfD支持の動機になっている。
「昨日(選挙戦最終日)の大聖堂前の反AfD集会を見たか。ドイツ国旗を掲げることを禁止していた。とても理解できない」
「ロシアが侵略戦争をしたというのならば、アメリカはアラブやアジアに対して、イスラエルは(パレスチナに対して)何をしたのか。ロシアは平和的な解決を求めてきた。ウクライナ戦争は北大西洋条約機構(NATO)の代理戦争だ。今のドイツは1つの方向に向かおうとしているので黙ってはいられない」
得票率半減…呆然と画面を見つめるCDU支持者
歯科技工士の母(54歳)と大学で生物生態学を学ぶ娘(21歳)にも聞いた。母は社会民主党(SPD)、娘は緑の党に投票したという。両人ともAfDに反対するための「戦略的な投票」であるとともに、娘は気候変動対策を期待してのことだった。
母娘は「AfDは極右政党。人々をお互いに憎しみあうようにし、国を分断する。人種差別的で非人間的な政党で、基本的人権が維持できなくなる。われわれは多様性と開放性に賛成」という意見で一致していた。
話を聞いた中で、政権与党であるキリスト教民主同盟(CDU)に投票したという人はいなかった。
ドイツでは、国政選挙であれ、州議会選挙であれ、午後6時の投票締め切りと同時に公共放送ARD、ZDFが出口調査の結果を放送する。選挙制度は小選挙区の要素が加味されているが基本的には比例代表制で、小党乱立を防ぐため、5%以上の得票率でないと議席を獲得できない「阻止条項」を設けている。開票が進むにつれて、当初から数パーセントの違いが生まれ、得票率5%前後の党は議席獲得の結果がひっくり返ることがある。ただ、大きな傾向は正確である。
開票速報を見守るCDUの「選挙パーティー」は、マクデブルク市内の高級ホテル「マリティム」が会場だった。正面の演台のわきに大型テレビが設置され、参加者には飲み物1杯が無料になる券が配られて、人によってはビールやワインを飲みながら開票結果報道を待った。
午後6時前、州党幹部が並んでモニター画面を見つめる中、TVアナウンサーのカウントダウンの声が流れた。CDUの得票率は、前回2021年選挙の37.1%から18.6ポイント減の18.5%(その後開票が進み最終的には17.2%)。事前の世論調査では20%以上の支持があったからなおさら衝撃的だった。会場の支持者からは声もなく、茫然と画面を見つめるだけだった。
30分ほどしてCDUの選挙戦を率いたスヴェン・シュルツェ州首相が会場に姿を見せ、「この厳しい選挙結果と対峙しなければならない」と苦渋の表情で敗戦の弁を述べた。
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1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。1982年読売新聞社入社。バンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(2015年山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『本音化するヨーロッパ』『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』『移民リスク』など。
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