シンガポールが2日間で3人の死刑執行、薬物犯罪で 今年は2003年以降で最多

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画像説明, シンガポールでのマレーシア人の死刑に対する抗議集会(2月、マレーシア・クアラルンプール)

シンガポールは先週、薬物に関する犯罪で男性3人に対する絞首刑を執行した。これにより、同国での死刑執行は今年17件となり、2003年以降で最も多い。

執行は、薬物犯罪に対する死刑制度をめぐる憲法上の異議申し立てが審理される1週間前に行われた。

シンガポールには世界で最も厳しい薬物規制法があり、政府は重大な抑止策として必要だと主張している。薬物犯罪は、東南アジアの他地域で大きな問題となっている。

シンガポールでは、15グラムを超えるジアモルフィン(ヘロイン)、30グラムを超えるコカイン、250グラムを超えるメタンフェタミン、500グラムを超える大麻を密輸した場合、死刑が科される。密輸には、売却、譲渡、輸送、投与といった行為が含まれる。

憲法上の異議申し立てを行った7人の活動家は、同国の死刑の強制が、生命の権利と法の下での平等な保護という憲法上の権利を侵害していると主張している。

憲法には「法律に従う場合を除き、いかなる者も生命または個人の自由を奪われない」と記されている。

シンガポールに本拠を置く人権擁護団体「トランスフォーマティブ・ジャスティス・コレクティブ」は声明で、「シンガポールの野蛮な薬物規制体制は、世界の舞台でますます孤立している」と述べ、薬物犯罪で死刑を執行し続けている国は少ないと指摘した。

シンガポール政府は、死刑を廃止すればより深刻な結果を招く可能性があると主張している。

K・シャムガム内相は今年1月、フェイスブックへの投稿で、死刑廃止による影響には、より重大な犯罪、暴力、薬物関連死、罪のない幼い子どもの死などが含まれると発言。

「政策立案者として、私たちは個人的な感情を脇に置き、大多数の人々を守るために必要なことを行う。シンガポールでより多くの罪のない人々が死ぬ結果を招く一歩を踏み出せば、私たちは自分自身と折り合いをつけることはできない」と記していた。

11月26日と27日に死刑が執行された人には、物流企業で運転手をしていたサミナタン・セルバラジュ死刑囚が含まれていた。同死刑囚は2013年11月21日夜にマレーシアからシンガポールへ301.6グラムのジアモルフィンを運んだとして、有罪判決を受けた。

サミナタン死刑囚は、この日の昼間に自社のトレーラーを運転したが、薬物がシンガポールに持ち込まれた際には運転していなかったと主張した。また、同じ車両を複数の運転手が使用していたと訴えた。

捜査当局は、同死刑囚の署名がある事前記入済みの入国カードを車内で発見。そのうちの1枚には薬物が最終的に見つかった場所のシンガポールの住所が記載されていた。しかし、マレーシア国籍のサミナタン死刑囚は、自分がそれを書いたわけではないと主張した。

裁判官は同死刑囚の訴えを退け、27日に死刑が執行された。

サミナタン死刑囚はこれまで、死刑に対する複数の民事訴訟に関わってきた。2022年には、ほかの死刑囚3人と共に、シンガポールの薬物関連法における特定の推定規定に対し、憲法上の異議申し立てを行った。

シンガポールの現行法では、規定量を超える薬物を所持していた者は、本人が反証しない限り密売人と推定される。

また、違法薬物が発見された場所の鍵を所持している者は、反証されるまで薬物を所持していたと推定される。

しかし同国の最高裁判所は今年8月、この異議申し立てを棄却。法律は「社会の災厄と考えられる問題に対処するためにこのように書かれている」と説明した。

サミナタン死刑囚と他の3人の死刑囚は9月、大統領に恩赦を求める嘆願書を提出したが、こちらも訴えは認められなかった。

シンガポールでは、死刑は殺人や誘拐などの犯罪にも科されるが、薬物関連犯罪への適用が最も批判を集めている。

反対派は、薬物関連犯罪への死刑適用について、主に低所得層など弱い立場の人々が多いコミュニティーから雇われた、下位の密輸業者や運び人を処罰する一方で、首謀者の摘発につながっていないと指摘している。

死刑囚の弁護を務めてきたマーヴィン・チョン弁護士は、「もっと重大な国際犯罪の加害者は死刑に直面しないのに、なぜ殺人や特定の薬物関連犯罪では強制的に死刑にしなければならないのか、その折り合いをつけるのが難しいと感じることがある」と語った。

在シンガポールの欧州連合(EU)代表部は声明で、今回の死刑執行について「死刑の使用が大幅に増加したことを示している」と述べた。

また、「薬物犯罪に死刑を科すことは国際法と両立しない。これらの犯罪は『最も重大な犯罪』の基準を満たしていない」とし、死刑は更生を不可能にすると付け加えた。

一方シンガポール政府は、死刑が同国を世界で最も安全な場所の一つにするのに役立ってきたと主張している。内務省は、死刑は「被害者や社会に最も重大な害を及ぼす犯罪」にのみ適用されると説明している。

内務省が委託した2023年の調査では、回答した国民と永住者2000人のうち約69%が、大量の薬物を密輸したことで有罪となった人物に対しては、死刑が適切な刑罰だと考えていることが示された。

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