宇宙移動を倍速に。核融合ロケットなら火星まで3カ月で行けるかも
ロケットにも新たなコンセプト登場。
火星に行ってみたいけれど、片道約7〜9カ月という長期移動がネックだと思っていたのですが、もしかするとその飛行時間を半分に短縮できるかもしれません。核融合ロケットを使えば。
これは英スタートアップ企業Pulsar Fusionが先日公開したコンセプト動画なんですが、開発中のエンジンが理論上、秒速500kmという排気速度を実現できれば、宇宙船は時速約52万9000km相当の加速が可能とされており、火星まで3〜4カ月で到達できるかもしれないんですって。
Video: Pulsar Fusion / YouTube現在のロケットはどれくらい速い?
火星探査機「Perseverance(パーサヴィアランス)」を運んだNASAのロケットは、火星までに約7カ月かかりました。これが今の宇宙開発の普通のスピードです。
例えば、現在最も強力な商用ロケットであるSpaceXの「Falcon Heavy」の排気速度は秒速4.5km程度。排気速度とはロケットが後ろにガスを勢いよく噴き出すスピードのことで、ロケットの速さや効率に直結します。
実はこのガスの噴き出す速さには限界があって、どんなにロケットを改良しても、燃費とスピードのバランスを取らなければならないという宿命があります。
でも、Pulsar Fusionが構想する「Dual Direct Fusion Drive(DDFD)」は、その壁を一気に飛び越えるかもしれません。なんと排気速度が秒速500km、つまり約100倍になるというんです。もはや別次元。
排気速度が速いほど、より少ない燃料でスピードを出せるので、「速くて効率のいい宇宙移動」が可能になるというわけです。今はまだ理論段階ですが、実現すれば火星までの移動時間も大きく短縮できる可能性があるんですよ。
100分の1には短縮できないの?
ちなみに排気速度が100倍になるからといって、移動時間が100分の1になるわけではないのは、ロケットがずっと加速し続けるわけではないから。
限られた燃料を使って一定時間だけ加速した後は、そのスピードを維持しながら進み、目的地に近づくと減速しなければなりません。
スピードが速ければ速いほど大きく減速しなければならないし、積載するものの量や重さによっても加速/減速の時間が左右されるでしょう。だから実際の短縮幅は、半分から3分の1くらいが現実的みたい。
ところで核融合ロケットってなに?
核融合というのは、軽い原子核同士がくっついて重い原子核になるときに、ものすごく大きなエネルギーを出す反応のこと。太陽が毎日光と熱を放っているのも、この「核融合」が起きているからなんです。
その太陽の仕組みを、地球のテクノロジーで小型化して、宇宙船のエンジンに使っちゃおうというのが核融合ロケットの発想です。
Pulsar Fusionが開発を目指す「DDFD」というエンジンでは、この核融合で生まれた超高温のプラズマをそのまま噴き出して、宇宙船を前に押し出します。NASAやプリンストン大学なども同様の研究をしていて、燃費のよさ、スピードの速さではトップクラスになる可能性があります。
なんでまだ誰も飛ばしてないの?
それはシンプルに…まだ技術が追いついていないからです。
というのも、地球上でさえ、核融合炉が「使ったエネルギーより多くを生み出す=エネルギー黒字化」の段階にようやく差しかかったところ。そんな状況で、より厳しい条件が揃う宇宙空間に持ち出すとなると、難易度は一気に跳ね上がります。
例えば数百万度にもなるプラズマを安定して制御するだけでも至難の業ですし、それを冷却しながら、安全に閉じ込める仕組みも必要になります。
さらに、燃料供給の方法、中性子などの放射線への防護、そして1度飛ばした機体を繰り返し使うには、耐久性や安全性といった観点でも乗り越えるべき技術的な壁がまだまだあるのが現実です。
ちなみにPulsar Fusionは、「2027年までに宇宙で核融合を実現したい」としていますが、これについては専門家の間でも、「かなり野心的すぎるのでは?」と慎重な見方が広がっています。
それでも期待せずにいられない
今すぐに実現するのは難しくても、核融合ロケットがもたらす未来には、やはり大きな期待を抱かずにはいられません。
例えば火星まで半年以内に大量の物資を送り届けられるようになれば、有人探査やコロニー建設といった壮大な構想も、いよいよ現実味を帯びてきます。
さらに核融合ロケットの高い推進力と燃費のよさは、小惑星の採掘や深宇宙への望遠鏡の輸送、軌道上インフラの構築といった、これからの宇宙経済の核心を担うようなプロジェクトにも応用できる可能性を秘めています。
実際、Pulsar Fusionは1機あたりの価格を約7000万ドル(約100億円)と見込んでいますが、それでも軌道物流や科学ミッションなどに投入すれば、1〜2年で投資を回収できるかもしれないという試算もあるそうです。
コンセプト映像はまるでSF映画の一場面のようですが、具体的な数字と共に語られると、本当に近い将来実現するんじゃないかって感じられてきませんか。火星がまた少し身近な存在になった気がします。