「自身の存在を否定されるよう」ネットにあふれるヘイト、対策は
「ヘイトスピーチ解消法」が施行されて6月3日で10年となる。在日外国人の排斥を訴える路上での露骨なヘイトスピーチが減った一方で、インターネット上の差別的な書き込みがなくなる気配はない。
「民族差別をなくす」という当たり前の約束はどこへ行ったのか。対応は十分なのか。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんに聞いた。【聞き手・鵜塚健】
ヘイトスピーチ解消法が施行されて10年。現状は 「日本人ファースト」が生むものは 社会に広がる新たな排外主義
ヘイト解消法10年 効果に限界
在日コリアンが多く住む川崎市の桜本地区では、2013年ごろからヘイトスピーチを伴うデモや街頭宣伝活動が相次ぎ、私も取材してきました。
当初ヘイトスピーチを規制する法はなく、差別に反対する市民らが体を張ってデモを阻止していました。16年にヘイトスピーチ解消法が施行され、4年後には川崎市で刑事罰付きのヘイトスピーチ禁止条例が施行されました。
以降、「死ね」「殺せ」など条例に違反する露骨な発言は減りました。一方で、川崎市で活動をしていた人物が埼玉県川口市などに場所を移し、在日クルド人を攻撃するようになりました。
解消法には罰則がなく、条例は川崎市外では効果がありません。法制度の限界も露呈した10年と言えます。
相次ぐ差別的投稿
私もヘイトスピーチの被害を受けています。
私は日本国籍ですが、在日コリアン2世である父親についてネット上に記事を書いたところ、温かい反応とともに差別的な投稿が相次ぎました。
ヘイトスピーチを受けると、自身のルーツや存在の根幹を否定され、「社会から出て行け」「お前は生きるに値しない」とつきつけられるようです。投稿した人物のうち2人を特定し、東京地裁に提訴しました。
23年6月の地裁判決は人種差別撤廃条約や解消法を引用して投稿の悪質さに触れ、投稿者の男性に33万円の賠償を命じました(もう1件は和解成立)。
ただ、「差別的な表現を用いた侮辱」との指摘にとどまり、差別そのものが違法という判断ではないのが残念です。
提訴したのは、私自身の被害回復よりも、次世代に差別を先送りしたくないとの思いからです。
差別を防ぐために、社会の仕組みとして何が足りないのかを考えてほしいのです。
裁判に伴う心理的、経済的な負担はあまりに大きい。法廷で陳述した時は手が震えました。だから、ほかの被害者に裁判を起こすことは勧めません。
まずは、被害を受けた人が裁判をしなくても、安心して駆け込める人権救済機関が必要です。国連機関からも救済機関の設置を繰り返し求められており、政府は早く決断すべきです。
自分の足場が揺らぐ感覚
判決が一定の抑…