【解説】 故意か偶然か……ロシア無人機によるポーランド領空侵犯 NATOにとっての試練に

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画像説明, ポーランド東部のヴィリキでは、ドローンの1機が民家に損害を与えたとみられる

ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、同国の領空が19回にわたり侵犯され、少なくとも3機のドローンを戦闘機で撃墜したと述べた。撃墜には、オランダのF35戦闘機およびイタリアの早期警戒機の支援があったという。

ロシア政府は、今回の侵入が意図的であったとの非難に反発している。ただし、自国のドローンがポーランドの主権領域を侵犯した事実については否定していない。

ロシアは、「ポーランド領内のいかなる対象も攻撃の計画には含まれていなかった」と発表している。

しかしヨーロッパの当局者らは、今回の行為が偶発的だった可能性を強く否定している。

ドイツのボリス・ピストリウス国防相は「これだけの数のドローンがこの経路で(中略)ポーランド領空を飛行したことが偶然だという証拠は一切ない」と述べた。

イタリアのグイド・クロゼット国防相も一連の出来事について、「挑発と試行」という二重の目的を持った「意図的な攻撃」だったと語った。

ロシアが2022年2月に隣国ウクライナへの全面進攻を開始して以降、ポーランドでは領空侵犯が複数回発生している。しかし、今回の侵入は規模が大きく、ポーランド領内の奥深くまで達したことから、同国政府にも深刻な懸念が広がっている。

トゥスク首相は、ポーランドが第2次世界大戦以来、紛争に最も近づいていると警告した。また、NATO条約第4条の発動を要請した。この条項は、加盟国が安全保障上の脅威について同盟国と協議を開始することを可能にするものだ。

ロシアの動機については、専門家や分析者の間で意見が分かれている。

一部の見方では、今回のドローンのうち数機が、ウクライナ向けの防衛物資や人道支援の主要な物流拠点であるジェシュフ空港の方向へ飛行していたことから、偵察目的だった可能性があるとされている。誘導の不備により、偶発的に領空を侵犯した可能性も指摘されている。

英キングス・コレッジ・ロンドンの防衛研究者であるマリーナ・ミロン博士は「意図を証明することには課題がある」と述べた。

ミロン博士は、GPSの偽装(スプーフィング)がポーランド領空への侵入を引き起こした可能性があると指摘。断片的な情報に基づいて結論を導くことに警鐘を鳴らしている。「(今回の事案が)本来とは異なるものに見えてしまう可能性がある」と、同博士は付け加えた。

しかし、多くの専門家は、比較的多数のドローンがポーランド領空に飛来したことから、今回の攻撃が意図的だったのは明白だと考えている。

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク氏はBBCに対し、「これまでの侵入は単独またはごく少数で、誘導システムの不具合だと説明しやすいものだった」と語った。

リスク・インテリジェンス企業「シビリン」のあるジャスティン・クランプ最高経営責任者(CEO)も、この見解に同意している。クランプ氏は、今回使用されたのは、ロシア製の安価な長距離型ドローン「ゲルベラ」である可能性が高いと述べた。このドローンは、ロシアが強化している「対NATOのグレーゾーン行動」で、防空網をかく乱するおとりとして使用されているという。

クランプ氏は、今回使用されたゲルベラに弾頭が搭載されていなかったことは、脅威性を低く見せると同時に、ロシア側にことの重大性を矮小(わいしょう)化する余地を与えていると指摘した。

ポーランド政府は今後、この事案を精査し、その結果を同盟国と共有する必要がある。

今回の侵入が意図的であったか否かにかかわらず、前例のないこの事案は、NATO加盟国に対して攻撃を仕掛けた場合に西側諸国がどのような対応を取るのか、ロシアに貴重な情報をもたらす機会となったとみられている。多くのヨーロッパの首脳は、ロシアが近い将来そのような行動に出る可能性があると警戒している。

英シンクタンク「チャタムハウス(王立国際問題研究所)」ロシア・ユーラシアプログラムのキア・ジャイルズ上級研究員は、「ロシアの意図にかかわらず、これはヨーロッパとNATOにとっての試練だ」と述べた。

「ロシアは、ヨーロッパの決意、特にポーランドがこの種の攻撃にどれだけ耐えられるかを学ぼうとしている」

ジャイルズ氏は、今回の事案が偶発的であった場合でも、意図的な挑発であった場合でも、ヨーロッパが強い対応をせず非難の表明にとどめるようであれば、ロシアを大胆にさせることになると指摘した。

同氏は、ウクライナ上空の領空を防衛する「空の盾」構想が、西側諸国が空からの脅威を確実に迎撃する意思をロシアに示すことになると述べた。

しかしこの構想には、ヨーロッパ諸国が戦闘機とパイロットを展開する必要があるため、ロシアとの偶発的な衝突への懸念が生じている。この構想は2023年から提案されているものの、これまで実現には至っていない。

今回のポーランドでの事案に対するアメリカの反応が待たれており、注視されている。

アメリカでは、民主党・共和党双方の議員が、事案発生直後に今回の攻撃を非難している。

しかし、ドナルド・トランプ米大統領は11日夜の時点で、ポーランドでの一連の出来事について、ソーシャルメディアで言及したのみだった。「ロシアがドローンでポーランドの領空を侵犯? さあ始まったぞ!」と記したが、それ以上の説明はなかった。

この曖昧な投稿は、ロシアおよび同国のウラジーミル・プーチン大統領との不明瞭な関係性を反映したものとみられている。

過去1カ月の間に、トランプ氏はロシア大統領を歓迎する姿勢を見せる一方で、ロシアがウクライナとの和平に至らなければ制裁を科すと警告するなど、相反する態度を示してきた。

しかし、これらの制裁は今のところ実行されておらず、ロシアによるウクライナへの侵略に対する何らかの「結果」を示唆する警告も、事実上立ち消えとなっている。

ヨーロッパ各国の首脳が団結と強硬姿勢を打ち出そうとする中、トランプ氏の2期目が始まって以降、アメリカの対欧州安全保障への関与に対する懸念が続いている。今回の事案に対するアメリカの次の対応は、ロシア同様、ヨーロッパ諸国に注視されている。

チャタム・ハウスのジャイルズ氏は、「弱腰な姿勢や、結果にこと代償を伴わせないことは、ロシアに対して、さらなるエスカレーションを恐れることなく継続できるという確信を与えることになる」と述べた。

追加取材:マット・マーフィー記者、ポール・ブラウン記者

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