コラム:米だけ「異世界」のIMF会合 イラン戦争無視で政権の苦境露呈

写真は国際通貨基金(IMF)と世界銀行の春季会合で各国国旗の前を歩く人。4月16日、米ワシントンで撮影。REUTERS/Ken Cedeno

[ワシントン 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領は1月にスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)年次総会に出席した際に、各国の政治指導者や金融関係者、経済学者に対し、気候変動問題を脇に置いて、関税政策、グリーンランド併合への野心、そして欧州が自ら防衛費を負担すべきだという自身の主張に議論の軸足を移すよう促した。

これとは対照的に、先週米首都ワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)の春季会合で米国の当局者は、イランとの戦争を主要な議題​とはみなさず、本筋から外れた付随的な問題として扱った。しかし、その帰結を完全には制御できず、しかも国内外で急速に支持を失いつつあるイラン戦争の影響は、たとえホワイトハウスで‌あっても無視することはできない。

IMF会合で米国の姿勢が際立っているように見えたのは、他の多くの国がイラン戦争の経済への悪影響について公然と強い警戒感を示していたからだ。ベトナムやタイといったアジアのエネルギー純輸入国は、ホルムズ海峡の混乱によって特に大きな打撃を受けている。16日にIMF本部で開かれた20カ国・地域(G20)当局者の非公式朝食会に参加した関係者はロイターBREAKINGVIEWSに対し、会合の雰囲気は「重苦しい(somber)ものだった」と明かした。

タイのエクニティ副首相は先週のパネル討論で「短期的な視点だけでは不十分だ。長期に備えなければならない。再生可​能エネルギーの議題を前進させる必要がある。石油とガスに依存し過ぎていたという教訓を学んだのだ」と訴えた。

Bar chart showing the Iran war's impact on growth

こうした流れから最終的に多くの国が中国に接近することになるだろう。中国は太陽光パネル、​蓄電池、重要鉱物の加工などの分野で世界随一の製造拠点だからだ。各国当局は重要資源や肥料を巡る世界的な備蓄競争の勃発を警戒しており、この不安感が価格を高止まり⁠させ、米国が自国の戦略備蓄を拡充しようとする取り組みは一段と難しくなる恐れがある。

石油輸出国でさえ冗長性(緊急時に有効なシステムの余裕度)の確保に投資せざるを得ず、そのコストは莫大だ。中東産の重質原油を前提に精製設​備が構築されている韓国は、他地域の原油にも対応できるよう設備の転換を検討しているが、韓国銀行(中央銀行)の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁はこうしたプランの実現には少なくとも6カ月が必要だと警告している。同様にサウジアラビア、​カタール、アラブ首長国連邦(UAE)もホルムズ海峡を迂回する代替パイプライン整備に動く強い動機がある。

エネルギー価格高騰の直撃を受けながらも、一定の恩恵を得る国もある。米国とイランの協議の中立的な舞台となってきたパキスタンはその一例だ。アウラングゼーブ財務相はIMFのパネルで、紛争地域の外に位置する同国カラチ港はトランシップ(他の船への積み替え)取扱量が、戦争開始から最初の25日間だけで2025年通年を上回ったと明かした。

Bar chart showing the Iran war's impact on growth by type of country

しかしホワイトハウス当局者にとってIMF会合は、まるで中東湾岸危機が存在しない「並行世界(パラレルワール​ド)」で進行していたかのようだった。最も象徴的だったのは14日にベセント米財務長官が国際金融協会(IIF)主催のイベントに初めて登壇した場面だ。

ベセント氏は約20分間にわたり、政治学者で「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態(​原題:The Skeptical Environmentalist)」、「地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直す(原題:Cool It)」の著者として知られるデンマークの政治学者ビョルン・ロンボルグ氏と対談し、国際機関は「進歩的エリートの関心事」から距離を置くべきだと主張した。皮肉なのはこの結果、ベセント氏が、‌気候変動や多様性⁠について最も長時間語った、政府高官としては事実上最高位の人物になったことだ。というのも国際機関はすでに以前から、ベセント氏が重視するテーマへと政策の軸足を移しているからだ。最も代表的な例が中国による世界的な貿易不均衡の拡大で、IMF当局者は既に今回の会合前にこの問題を重点課題として強く打ち出していた。

一方、ベセント氏はイラン戦争についてはほとんど言及せず、IMFが2026年の世界成長率見通しを3.3%から3.1%に引き下げたことを「行き過ぎだ」と示唆したに過ぎなかった。

さらにハセット米国家経済会議(NEC)委員長も、エネルギー供給の混乱を短期的で限定的な問題と位置づけ、欧州でガソリンスタンドが閉鎖されたという「伝聞」に触れただけだった。ハセット氏は今年も米国の成長率は1990年代以来持続的な達成がない4%を見込むと述べ、​関心の大半を人工知能(AI)革命に向けた。

確かにAIは会合期間を​通じて他の各国当局者にとっても主要なテーマだった。⁠そしてこの分野で米経済が傑出しているのも事実だ。米国は石油の純輸出国であるだけでなく、大規模言語モデルによる生産性向上によって最大の恩恵を受ける立場にある。

Line chart showing Donald Trump's approval rating

とはいえ、たとえ最悪の事態が過ぎ去ったとしても、米国が中東危機の経済的影響から無縁でいられるわけではない。ベセント氏は記者団に対し、足元の原油価格急騰でさえ、米連邦準備​理事会(FRB)が想定していた利下げ計画を事実上棚上げに追い込んだ可能性が高いと認めた上で「情勢がもう少し明確になるのを待ちたいという判断であれば、それは理​解できる」と述べ、金融環境に⁠対する現実的な認識を示した。これは、事態の重みを率直に認めた発言として評価できるものだった。

しかしその一方で、ベセント氏の上司であるトランプ氏は同じ時期に再び、パウエルFRB議長を解任して自らの意中の人物であるケビン・ウォーシュ氏を後任に据える可能性に言及した。金融政策の独立性を揺るがしかねないこの動きは、ベセント氏の現実認識と鋭い対照をなしていた。

今回のIMF会合で露呈したのは、気候変動への反対姿勢が大統領選での再選に寄与した「過去」への、トランプ政権の郷愁だったのかもしれ⁠ない。しかし米国​民が最も嫌悪する2つの問題―生活費の上昇と、最終的に1兆ドル規模に膨らみかねない対外戦争―に責任を負う立場となったことで、トランプ氏の支持率​は11月の中間選挙を前に30%台後半に低迷している。

関税を巡る応酬であれば、トランプ氏はいつでも方針を撤回し、事実上なかったことにして、再び「カルチャーウォーズ」―つまり価値観や社会問題を巡る政治的な対立―に議論の軸足を戻すことができた。

しかし今回は事情が異なる。戦争の本当の終結は、​米国だけでなくイランの判断にも大きく左右される。そしてホワイトハウスは、現実の変化に対応する時間的余裕すら失いかねない状況に置かれている。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

ロイターBreakingviewsは、重要な争点となるべき金融に関する知見を提供する世界有数の情報源です。1999年にBreakingviews.comとして設立。2009年にトムソン・ロイターが買収、金融コメンタリ―部門としてロイターブランドの一員となりました。日々の主要金融ニュースについて、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロンドン、パリ、マドリード、香港、北京、シンガポールに駐在するコラムニストが、専門的な分析を提供します。英文での最新コラムを掲載した電子メールの定期購読を含め、breakingviews.comの解説や分析(英語)をすべてご覧になりたい方は、[email protected]までご連絡ください

Jon Sindreu is the London-based global economics editor for Breakingviews. He was previously a reporter and a columnist for the Wall Street Journal, where he covered macroeconomics, financial markets and aviation for 11 years. He holds a master’s degree in financial journalism from City St George’s, University of London. He also holds degrees in computer science and journalism from Universitat Autònoma de Barcelona, in his natal Catalonia.

Gabriel Rubin is a U.S. columnist for Reuters Breakingviews covering business and economics in Washington, DC. He joined Breakingviews in May 2024 after eight years at the Wall Street Journal, where he covered economics, politics, and financial regulation. He holds a bachelor's degree in history and Spanish from Washington University in St. Louis.

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