日本の皇位継承が国連勧告を受けるという恥をかかせた元凶…明治時代「男系男子限定」に誘導した人物の名前 女性天皇を求める国民の意思を黙殺する政府には国連に抗議する資格はない
さらに産経新聞は、より激しく反発した。10月31日付一面トップで「皇位継承 不当な干渉」と大きな記事で報じ、翌日の社説「皇位継承への干渉 政府は国連の暴挙許すな」では、ほとんど絶叫調で次のように断罪した。
「抗議と削除要請は当然だが、それだけでは不十分だ。削除に至らなければ、国連への資金拠出の停止・凍結に踏み切ってもらいたい。条約脱退も検討すべきである」
失礼ながら、どこかの政治団体の機関紙を読まされているような気分になる。
法的拘束力をもたない勧告に対して、ここで主張されているような激烈な対応をもし日本政府がとれば、国際社会はいったいどのように受け止めるだろうか。それは果たしてわが国の国益にかなうのか、どうか。
毎日「国会が主体的に議論を」
これに対して、毎日新聞は「女性差別で国連委勧告 根絶に動くのが国の責任」と題する社説を示した(11月6日付)。
そこでは、勧告にある選択的夫婦別姓の導入をおもに取り上げた。その文脈の中で、皇室典範についても以下のように言及している。
「委員会は今回、皇位継承を男系男子に限る皇室典範に言及し、(女性差別撤廃)条約の理念と相いれないとして、改正を勧告した。政府は『国家の基本に関わる事項だ』として抗議したが、安定的な皇位の継承は喫緊の課題である。国会が主体的に議論を進めなければならない」
さらに社説全体を次のように締めくくっている。
「憲法は、条約や国際法規の誠実な順守を求めている。女性の人権を守り、差別を根絶する責任を国は果たすべきだ」
また、東京新聞も「女性差別撤廃 主体的な対応が必要だ」との社説(11月9日付)で、以下のように主張した。
「議論を呼ぶのは、男系男子が皇位を継承すると定めた皇室典範も改正が求められたことだろう。 政府は遺憾を表明し、削除を求めたが、共同通信が今年行った世論調査では女性天皇を認めることに計90%が賛同している。国際公約の条約順守は当然だが、国民の意見と誠実に向き合い、必要な施策を主体的に講じるべきである」
どちらも、ひたすら外圧に屈して勧告に従え、という卑屈な態度ではない。むしろ、わが国の「主体的」な対応にアクセントを置いている。
このように、勧告への評価は大きく対立している。常識的な観点からはどのように受け止めるべきだろうか。
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しかし一方、「主権の存する日本国民」の圧倒的多数が、勧告を受けるよりずっと前から、正当な理由もなく女性皇族の皇位継承資格を排除する、まさに女性差別(!)的な今の皇室典範のルールとは、異なる意思を示している事実がある。
「女性天皇」の賛否をめぐる近年の各種世論調査の結果を振り返ると、以下の通りだ(賛成には「賛成」「どちらかといえば賛成」を含ませ、反対には「反対」「どちらかといえば反対」を含ませている)。
平成30年(2018年)4月、朝日新聞調査。 賛成=76%、反対=19%。 同年9月、NHK調査。 賛成=82%、反対=12%。 同年10月、共同通信調査。 賛成=82%、反対=14%。 同年11月、時事通信調査。 賛成=76%、反対=19%。 平成31年(2019年)4月、共同通信調査。 賛成=85%、反対=15%。 令和元年(2019年)9月、NHK調査。 賛成=74%、反対=12%。 令和3年(2021年)4月、共同通信調査。 賛成=87%、反対=12%。 令和6年(2024年)4月、共同通信調査。 賛成=90%、反対=9%。 同年5月、毎日新聞調査。 賛成=81%、反対=10%。
このテーマは、確かにわが国の主権にかかわる問題であり、「国家の基本に関わる事項」だ。
しかし、それに対する「主権の存する日本国民」の意思はすでに明らかだ。多くの国民は、女性差別的な今のルールを改めて、「女性天皇」を可能にすることを求めている。
それを黙殺し続けてきた政府には、今回の勧告に抗議する資格などない。
「男系男子限定」は新しい制度
わが国では、男尊女卑の考え方が根強かった東アジア地域では例外的に、過去に多くの女性君主が登場している。具体的には、飛鳥時代から江戸時代にかけて、10代・8人(うち2人は譲位後に再び即位)の女性天皇がおられた。
大宝律令や養老律令には、周辺国とは違って、女性天皇(女帝)の法的な位置づけもなされていた(「継嗣令」皇兄弟子条)。
誤解されがちだが、皇室の歴史上、現在の男系男子限定ルールは明治の皇室典範で初めて採用された、新しい制度だ。その場合も、「正妻以外の女性(側室)との間に生まれたお子さまにも皇位継承資格を認める」というバックアップの仕組みと“セット”だった。
今のような、「側室不在の一夫一婦制なのに男系男子限定」というルールはまったく前例がない。
前例がないばかりか、お1人の皇后や妃が必ず“男子”を生まなくては、皇位や宮家が次の代に受け継げない、という持続困難な制度になっている。
少子化が進む中では、親子関係から外れた傍系による継承にも、過大な期待はかけられない。
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まず一般論として、条約と国内法のどちらが優位に立つのかを整理しておく必要がある。今回の勧告は女性差別撤廃条約を根拠とするからだ。
一部に、ローマ教皇やダライ・ラマ法王がみな男性なのにそれは問題視しないで、日本の天皇の男系男子限定だけを女性差別とするのはフェアでない、といった意見もあったらしい。しかし、ローマ教皇を首長とするバチカン市国やダライ・ラマ法王が率いるチベット亡命政府は、国連に加盟していないし、もちろんこの条約も締結していない。だから、そもそも委員会の勧告対象ではないという、初歩的な事実を見落とした主張だ。
通説的な理解では、条約は国内の普通の法律より優越し、最高法規である憲法との関係では限られた例外(確立された国際法規や一国の安危に関わる降伏文書・平和条約など)を除き、憲法が優越すると考えられている。
これを当てはめるとどうなるか。
選択的夫婦別姓と同列には論じられない
選択的夫婦別姓の導入は、一般の法律である民法の改正によって可能になる。だから条約を前提とする限り、勧告の趣旨に沿う方向で民法を改正するのが筋だろう。
皇位継承資格の男系男子限定も、法律である皇室典範に定めるルールなので、同じように勧告に従うのが当然のようにも見える。
ただし、「皇位継承」は天皇の地位そのものの在り方に関わるテーマであり、そのことに関連して法律の中で皇室典範だけが、例外的に憲法によって“名指し”で委任されている事実も見逃せない。
憲法は、天皇の地位を「主権の存する日本国民の総意に基く」とする。これは、天皇の地位が日本国民の意思“以外”のものによって左右されるべきでない、とする憲法の要請を意味する。
そうであれば憲法上、天皇の地位に直接かかわる制度については、選択的夫婦別姓と同じようには扱えないだろう。
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明治の皇室典範でも、草案の段階では女性天皇や女系天皇を認める複数のプランがあった(明治9年[1876年]の元老院「日本国憲按」、明治13年[1880年]の元老院「国憲草案」、明治19年[1886年]の宮内省「皇室制規」)。
それを男系男子限定に誘導したのは、伊藤博文のブレーンだった井上毅だ。
彼がまとめた「謹具意見」(明治19年[1886年])の影響が決定的だった。そこには、女性天皇を排除する次のような意見が載せられていた(沼間守一の発言)。
「男を尊び女を卑しむの慣習、人民の脳髄を支配する我国に至ては、女帝を立て皇婿(女性天皇の配偶者)を置くの不可なるは多弁を費すを要せざるべし」
明治典範で「男系男子」限定ルールが採用された背景には、明らかに当時の男尊女卑の風潮があった事実を認めなければならない。
女性には参政権が認められず、女性にだけ姦通罪が適用された事実が示すような、女性差別が当たり前だった古い時代のルールを、無批判にそのまま踏襲したのが、現在の皇室典範だ。
だから、国連の女性差別撤廃委員会が女性差別の解消を勧告したのも、当然の理由があった。
恥ずべき女性差別を皇室の伝統と錯覚してはならない。
国際的に特異な「男系男子」
現代の国際社会において、「一夫一婦制」のもとで君主の地位の継承資格を男系男子に限定している特異な国は、ほぼ存在しない。
人口が4万人弱で国土面積は日本の小豆島とほぼ同じという、ミニ国家のリヒテンシュタイン公国(同国の君主の称号は、公用語のドイツ語では「王」より下位の「公爵」よりさらに下位のフュルスト=「侯爵」だから、侯国と呼ぶべきとの意見もある)を除くと、日本だけだ。
男女を問わず「長子優先」というルールが最もオーソドックスな制度なので、女性の継承資格を認めながら男子優先のルールを例外的に採用するスペインは、女性差別的と非難されている(ただし次の王位を継承するのは現国王フェリペ6世とレティシア王妃の長女、レオノール王女)。
日本の皇室典範は、スペインのような男子優先という優先順序レベルの話ではなく、男子“限定”、つまり女性を100%排除している。はるかに差別的だ。
だから残念ながら、この点について世界から「男を尊び女を卑しむの慣習、人民の脳髄を支配する」未開・野蛮な国と見られても、仕方がないだろう。
しかし日本国民の多くは、先に掲げた世論調査の結果に示されているように、女性天皇を認めている。だから政府・国会の無為・怠慢のせいで、国際社会においてとんだ恥をかかされていることになる。
そして何よりも、その怠慢こそが皇室の方々に「男子を生め」というプレッシャーをかけ続けているのだ。
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もちろん、選挙を目の前に控えたアンケートであり、秘書が本人に代わって回答したケースも少なくなかったようなので、選挙戦の一環という性格はまぬがれないだろう。しかし、政治家が女性天皇にはっきりと反対できない空気が、すでに生まれている事実が浮かび上がる。
明確な賛成は241人。国民の圧倒的な賛成の比率の高さに比べると低いが、それでも衆院の過半数には達している。さまざまな配慮から、あえて態度を明確にしなかった156人の中にも、本音では賛成している議員がそれなりにいるはずだ(以上の集計は、限られた時間内での作業だったので、数値に多少の誤差が含まれている可能性がある)。
国民の意思に基づき皇室典範の改正を
国際機関から勧告を受けるまでもなく、「主権の存する日本国民」自身の主体的な意思に基づいて、政府・国会は女性天皇を可能にする皇室典範の改正に速やかに踏み出すべきだ。
皇室と国民の希望あふれる未来のためには天皇、皇后両陛下のお子さまで、両陛下のお気持ちを最も真っ直ぐに受け継いでおられる敬宮殿下が、天皇として当たり前に即位できる制度にしなければならない。
なお、このテーマについて平易・明快にまとめた拙著『愛子さま 女性天皇への道』(1700円+税、講談社ビーシー/講談社)が11月28日から全国の書店で発売されるので、付言しておく。