テスラ車の死亡事故、完全自動運転の限界を露呈-衝突映像が物語る
電気自動車(EV)メーカーの米テスラがテキサス州で行うロボタクシー(自動運転タクシー)の試験運用を、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はことあるごとに宣伝する。だが、運転席に人がいる場合でもテスラのシステムは危険な可能性があるとして、米連邦当局が調べを進めている。
限界
2023年11月、米アリゾナ州の州間高速道路をジョナ・ストーリーさんは娘らを乗せて運転していた。ちょうどカーブに差しかった時にまぶしい夕日が目に入った。その先で2台の車が衝突事故を起こしていたため、路肩に停車して交通整理をしようと車を降りた。
そのカーブに、カール・ストック氏の赤いテスラ「モデルY」が入ってきた。同氏は運転席に座っていたが、「フルセルフドライビング(完全自動運転、FSD)」と呼ばれる運転支援機能を作動させていた。このシステムについて、マスク氏はその1年半ほど前に極めて重要な取り組みだと説明していた。
機能の限界は、この数秒後に無残な形で露呈した。テスラは高速道路の速度を保ったままストーリーさん(71)をはね、ストーリーさんはその場で死亡した。
同年に米国では4万901件の交通死亡事故が発生した。この1つであるストーリーさんの事故は、テスラのFSDに関連した初の歩行者死亡事故として認定され、この機能が容認できない安全リスクをはらんでいるのかどうか連邦当局が調査に乗り出すきっかけになった。調査は現在も続いている。
ブルームバーグニュースは情報公開請求を通じ、このテスラ車が記録し、警察が回収した衝突時の動画や写真を入手した。これらが公開されるのは初めてだ。
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、運転手が監視することになっているテスラの自動運転システムに欠陥がないか調査している。一方で、テスラは運転手不要の車両を少数ながら展開する計画を進め、テキサス州オースティンでは無人運転車両を公道で試験。ロボタクシーのサービスを6月12日に開始する計画だ。
だが、当局が知りたがっているのは、23年の事故と似た状況に遭遇した際、テスラのシステムが安全な運転を保証してくれるのかだ。
NHTSAの報道官は、道路の安全を守るため必要なあらゆる措置を講じると述べた。テスラの別の運転支援システム「オートパイロット」ではNHTSAは数年にわたる調査を行った後、誤用防止対策が不十分だと結論づけた。この判断を受け、テスラは200万台のリコール(無料の回収・修理)を強いられた。
マスク氏を含むテスラの代表は、ブルームバーグが送付した質問状に応答しなかった。
法律家であり、新興交通技術について自治体や政府に助言を行っているブライアント・ウォーカー・スミス氏は、テスラが推進する無人運転車は時期尚早かもしれないとの認識を示した。
「テスラは『本物の自動運転が近く可能になる』と主張しているが、あらゆる証拠は、まだ安全には実現できないと示唆している」とスミス氏は語った。
「全てが瞬時に」
警察が作成した事故報告書によると、カール・ストック氏のテスラ「モデルY」は時速65マイル(約105キロ)で走行していた。最初の事故現場の付近では複数の先行車両が減速を始めたり停止したりしていたが、今回の映像によれば、テスラ車が減速した様子はない。
テスラは路肩に立ち、安全ベストのような物を振り回していたブライアン・ハワード氏を通り過ぎる際に左にハンドルを切り、今度は右に戻ろうとしたところで正面からストーリーさんに衝突した。
ストック氏は警察に対し、「全てが瞬時に起き、謝罪したい」と供述。「自分の前に複数の車が停止していた。それを認識した時には、よける場所がなかった」と述べた。
事故報告書はFSDや、ストック氏がテスラの機能を解除しようとしたかどうかには触れていない。アリゾナ州公共安全局の報道官によると、ストック氏は責任を問われなかった。だが、ストーリーさんの遺族はストック氏とテスラを提訴。同氏はコメントの要請に応じなかった。
この死亡事故とFSDの関与が明らかになったのは、NHTSAがテスラなど自動車メーカーに運転支援システムが絡む衝突事故を報告するよう義務づけたためだった。NHTSAが収集したデータによると、テスラは事故から7カ月後に報告を行った。
テスラのFSDに関連した事故は、2024年1月にカリフォルニア州ニプトンでも発生。その2カ月後にバージニア州レッドミルズで、そのさらに2カ月後にオハイオ州コリンズビルで事故を起こした。4件とも、まぶしい太陽や霧、舞い上がる砂塵(さじん)などで視界が不良だった。