教科書にも、公式記録にも載っていない…初の宇宙飛行でNASAがやらかした、とんでもない"しくじり"の中身
※本稿は、ケイティー・スポルディング『天才たちのしくじり』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■宇宙空間でことに及ぶとどうなるのか
NASAの歴史をひもとく記事の幕開けとしては意外かもしれないけれど、ペニスの話をしよう。
「愛があれば大きさなんて」と世間は言うかもしれないが、地球を離れれば、ペニスのサイズは重要だ。いや、そういう意味じゃない。宇宙でセックスしてもあんまり楽しくないことは、研究が立証している。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peepo『スタートレック』のカーク船長はオリオン人の奴隷娘たちとよろしくやっていたじゃないかと言いたいかもしれないが、ここは私の言葉を信じてほしい。無重力状態でぷかぷか浮きながらのセックスは暑いし、臭いし、思うように身動きも取れない。しかも周囲には汗やゲロの塊が漂っている。
そこは我慢できるとしても、宇宙では一般に血圧が下がるから、血流が……その……末端まで届きにくくなる。こうした変化が無重力ロマンスにどんな影響を及ぼすかといえば……そういうことはお父さんかお母さんに聞きましょう。
実際、アメリカのNASAもロシア連邦宇宙局も「宇宙空間でことに及んだ宇宙飛行士はおりません」と断言している。つまり人類はいまだ宇宙での性の喜びを知らないか、あるいは宇宙飛行士がとびきり厳しい秘密保持契約に縛られているせいで、成人指定の真実は私たちに明かされないのだ。
■公式記録から削除された「交信記録」の中身
こうした事情を考えるなら、宇宙に飛び立った2人目のアメリカ人飛行士がガーターベルトとコンドームを身につけていたというのは驚きだ。
冗談ではない。伝説によれば、第二次世界大戦と朝鮮戦争に従軍し叙勲された元空軍パイロットのガス・グリソムは、1961年7月、ガーターベルトに避妊具をつけた姿で宇宙を15分飛行した。人の好みはいろいろだけれど、宇宙服の下につけるものにしては、ガーターベルトもコンドームも実用的とは思えない。
とはいえ、グリソムの前任者がおしっこで内側がびちゃびちゃになった宇宙服を着ていたことを考えれば、ずっとマシだろう。
言っておくが、NASAはアメリカ人初の宇宙飛行士アラン・シェパードに、「おしっこでびちゃびちゃになった宇宙服」を着せて宇宙に送る計画ではなかった。シェパードにしたってそんな形で歴史に残るのは不本意だったにちがいない(誰だってそうだろう)。
アメリカ人初の宇宙飛行士アラン・シェパード(写真=NASA/Public domain/Wikimedia Commons) - 写真=Wikimedia Commonsだからこそシェパードは尿意を催すと管制センターに無線で連絡し、打ち上げの前にトイレに行かせてくれと伝えたのだ。
■宇宙飛行はおしっこと共に
あいにくNASAは宇宙開発競争でソ連に勝つことしか頭になく、「人間はおしっこをしなければならない」という事実を忘れていた。だから船内にトイレはなかった。
トイレに行きたくなったら「どうか発射台のすぐそばに簡易トイレがありますように」と祈りながらいったん船を降り、打ち上げの予定時刻までに戻らなければならなかった。
宇宙飛行士が船を降りる前に船内を減圧し、戻った後で再加圧するには、数時間を要した。シェパードの尿意のためにそこまで面倒なことをする気になれない管制センターは、もう大きいんだから我慢しろと言い渡した。
もちろん、よほどの緊急事態でないかぎり、誉れ高い海軍将校でテストパイロットのシェパード本人も、宇宙に飛び行った史上初の資本主義者になるチャンスをふいにするわけがない。
なぜか公式記録から削除された交信記録によると、シェパードはもう我慢できないと管制室に告げた。非常に金のかかった最先端の、今まで誰にもおしっこをかけられていない宇宙服を脱ぐことを許可してくれ。でないと――。
それでも管制室は、我慢しろの一点張りだった。もはやシェパードに選択肢はなかった。
■「自分の尿に殺される」最悪のシナリオ
体と宇宙服につけられたバイオセンサーを切るよう管制室に伝えた上で、できるだけヒーローらしさを保とうと苦心しつつ放尿した。
ケイティー・スポルディング『天才たちのしくじり』(かんき出版)宇宙飛行士はたいてい仰向けに寝た状態で打ち上げを待つから、宇宙開発競争において自由世界から初めて宇宙に飛び立たんとするシェパードは、自分のおしっこの水たまりに寝そべることとなった。
当時は宇宙服を着た状態で放尿すれば電子機器がショートし、感電死する危険がかなりあった。つまり、シェパードは「狭苦しいカプセルに閉じこめられ、仰向けに寝たまま自分のおしっこに殺され」てもおかしくなかったのだ。
尿が乾いた後、シェパードは悪臭に耐えながら約15分の弾道飛行を行って大西洋に落下し、ヘリコプターで宇宙船ごと回収された。
■なぜNASAはしくじったのか
NASAの肩を持つわけではないが、彼らがやらかしたのも理解できる。
尿意を考慮しなかったのは、15分くらい我慢できるはずだと踏んだからだ。NASAが忘れていたのは人間は排尿する生物だということではなく、実際の飛行時間にかかわらず、ロケットの打ち上げには長い時間がかかるということだった。
シェパードの場合は、打ち上げまでに8時間を要した。
悲願の有人宇宙飛行を成功させてソ連と肩を並べた西側は、肝に銘じた。人は用を足さねばならない。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHVEPhoto----------ケイティー・スポルディング数学博士数学博士。2018年に博士号を取得。大学在学中にBBCの大学対抗クイズ番組『ユニバーシティ・チャレンジ』に2度出演し、「クロスドレッサーだった歴史上の人物」「新世界のサル」のカテゴリーで健闘した。現在は科学専門サイトIFLScienceで科学系のニュースをユーモラスに紹介しつつ、ハフポストや数学教育専門誌Maths in Schoolsにも寄稿している。
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----------雨海 弘美(あまがい・ひろみ)翻訳者翻訳者。訳書に、ミシェル・ザウナー『Hマートで泣きながら』(集英社クリエイティブ)、『トム・ウェイツが語るトム・ウェイツ アルバム別インタビュー集成』(共訳、うから)、クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(角川文庫)などがある。東京在住。
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(数学博士 ケイティー・スポルディング、翻訳者 雨海 弘美)