「もはや船すら造れない」トランプも焦るアメリカ造船業の自滅、次に日本が迎える局面とは(ダイヤモンド・オンライン)
政策の失敗を重ねた結果、アメリカの造船業は世界シェア0.04%まで落ち込んだ。中国との差は広がり、自力復活は困難視されている。そこで米国が頼ろうとしているのが、日本と韓国の先進技術だ。しかし、先行する米韓協力を見る限り、話はそう単純ではない。トランプ政権は日本に何を求めているのか。※本稿は、記者団の読売新聞アメリカ総局『強権国家アメリカ「トランプ革命」の衝撃』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● アメリカの国防を支える 造船業が消滅の危機に 南部アラバマ州モービルにある造船会社「オースタル・USA」。2025年6月、造船所内の岸壁には米海軍への引き渡しを控えた小型戦闘艦が係留されていた。巨大な造船施設内では輸送艦を建造中で、作業員が火花を散らしながら溶接作業を行っていた。 「現在は海軍と沿岸警備隊の計11隻を同時に建造している」。同社副社長のローレンス・ライダー氏(61)は胸を張った。 親会社が同盟国の豪州にある同社は、1999年に設立され、米海軍からの受注で事業規模を拡大している。米国内では準大手で、約3000人が働く。 米軍の艦船は法律で、米国内での建造が義務づけられている。受注する造船会社は同社に限らず、ほぼ米軍艦船の建造に特化している。商船の建造に取り組まないのは、価格などの面で国際競争力がないためだ。 その結果、造船に不可欠なサプライチェーンは脆弱化した。米軍艦船の建造でも部品調達や人材確保に支障を来す悪循環に陥り、建造数減少や納期遅れなどが生じている。
ライダー氏は「米国は今も間違いなく海洋国家だ」と言い切る。だが、世界の造船市場のシェアで米国は1%にも満たず、有事の海上輸送に支障が出かねない状況だ。 トランプ大統領も危機感を募らせている。25年4月には、「我々は事実上、もはや船を造っていない。とんでもないことだ」と述べ、造船業復活を図る考えを示した。 だが、米国の造船業の復活には課題が山積している。深刻なのは、業界の衰退に伴って減少した熟練工をいかに確保するかということだ。 オースタル・USAは週休3日制を導入し、熟練工には高い賃金を支払うなど、人材の囲い込みに躍起となっている。若手の育成も図っており、作業員ブラクストン・ジャレルさん(19)は「最近昇給したばかりで待遇は悪くない。しばらくこの仕事を続けるつもりだ」と話した。 ライダー副社長は「今後2年間で2000人の雇用を増やす必要がある。製造業でも高収入で働きやすい仕事に就けるというストーリーを広めないといけない」と力説する。 ● アメリカの造船業の 国際競争力はほぼゼロ 造船業の火が消えた街もある。東部メリーランド州ボルティモアでは、かつて3か所あった造船所はすべて閉鎖された。ともに栄えた製鉄所の跡地には今、米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムの施設が立つ。 「造船業は徐々に姿を消していった」。元コンサルティング会社経営のジャック・バーカートさん(81)は振り返る。バーカートさんの父親は造船所で働いていたが、まだ活気があった1960年頃に「造船は20〜30年後には消えてなくなる」と予想していたという。 造船業は、過度な保護主義とその見直しといった政策に振り回されて衰退したという面もある。 1920年制定の「ジョーンズ法」では、米国内を運航する内航船は国内の造船所で建造することが義務づけられた。競争力のない造船所が生き残り、効率化や技術革新が妨げられ、海外勢との競争にさらされる大型商船の建造は落ち込んだ。