アングル:イスラマバードは厳戒態勢、米・イラン協議仲介のパキスタンに重圧
[イスラマバード 9日 ロイター] - パキスタンが、一部の外交官から不可能とみなされている任務を達成しなければならない重圧にさらされている。米国とイランを仲介して世界経済の安定につながる和平合意を実現させ、そのために両国代表団の安全確保に万全を期すことを迫られているからだ。
この数週間にわたって米国とイランの停戦を働きかけてきたのは、パキスタンのシャリフ首相と軍トップのムニール陸軍元帥だった。戦闘が続けばイラン、アフガニスタンと接するパキスタンの西側国境情勢が一段と不安定化しかねない状況だった。パキスタンとアフガンは最近軍事衝突を繰り返している。
9日には首都イスラマバードにイラン代表団が到着。10日にはバンス米副大統領が率いる米国代表団もやってくる予定で、11日から協議が始まる。このためイスラマバードの協議会場周辺は当局によって関係者以外の立ち入りが禁止され、事実上の封鎖状態になった。
米ワシントンに本部を置く非営利シンクタンク、ミドルイースト・ポリシー・カウンシル(MEPC)上級常勤研究員のカムラン・ボカリ氏は「パキスタンは、戦闘が続いてイランが無政府状態に陥るのを望んでいない。そうなれば以前から危険な西側国境の安全保障環境がさらに大きく悪化するだろう」と述べた。
ほんの1年前まで国際外交の舞台で端役に過ぎなかったパキスタンにとって、今の状況は運命の目覚ましい好転を意味する。11日の米・イランの協議を成功に導ければ、新たに得たその存在感を維持する上で大きな得点になるだろう。ただ仲介に失敗した場合、パキスタンへの評価が一気に下落しかねない。
シドニー工科大学の安全保障専門家、ムハンマド・ファイサル氏は「パキスタンは仲介という分野に公然と政治資源を投じてきた。今回の協議が決裂すれば、大風呂敷を広げた割に成果を出せなかったとみなされる恐れがある」と指摘した。
<厳戒態勢>
2人の関係者によると、米・イランの協議が行われるのはイスラマバードのセレナホテルとなる見込み。当局は周辺の道路警備を強化しているほか、同ホテルから全宿泊客を退去させて政府の管理下に置き、周辺に通じる道路も全て封鎖された。市内各地では検問所やバリケード設置が増えて巡回も強化され、追加の治安部隊も投入されている。
こうした厳重な警備態勢は、パキスタンが国内の武装勢力による暴力だけでなく、いかなる混乱も繊細な外交的進展を台無しにしてしまうリスクに対して、どれだけ強い危機感を抱いているかを示している。治安当局者の話では、これらの措置は要人訪問に伴う通常の警備よりずっと厳しく、空域監視の強化や緊急対応態勢も敷かれている。
パキスタンの主要都市における攻撃活動は近年乏しくなる一方、2021年にタリバン暫定政権がアフガンを掌握して以降は、同国との国境地帯で武装勢力の動きが活発化している。
今年2月にはイスラマバードで自爆攻撃が起き、パキスタンが数日後にアフガンへの空爆に踏み切った理由の1つになった。
米ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの南アジア・プログラム責任者を務めるエリザベス・スレルケルド氏は「これらのリスクに加えて、準備期間の短さや協議の注目度の高さを考えると、今回の協議は安全保障の観点から極めて対応が難しい。それは同時に、パキスタンの政権が協議をいかに重視しているかを物語っている」と指摘した。
また安全保障専門家のザヒド・フセイン氏は、パキスタンにとっての課題は単に協議会場を守るだけでなく、協議会場の外にいる勢力によって外交が揺さぶられないようにすることだと話す。
フセイン氏は、イスラエルが停戦をかなりの条件付きで受け入れている兆候がある点に触れた上で、事態が再びエスカレートすれば、有意義な交渉の余地も急速に狭まる可能性があると付け加えた。
<役割の限界>
トランプ米大統領が8日にイランとの停戦を発表する数時間前には、仲介努力が水泡に帰するようにみえた局面があった。
しかし土壇場でパキスタンの政治・軍事指導者がイランを協議のテーブルに連れ出すことに成功した。
ボカリ氏は、パキスタンの役割はメッセージの伝令から、協議プロセスへ積極的にかかわる形に進化したと分析。「パキスタンは米・イラン双方の認識を左右できる力を持っている。トランプ政権がシャリフ氏とムニール氏を(仲介者に)選んだのは米国側が、パキスタンは単に話が通じるほか、イラン側の考え方に実際の影響を与えられるとみなしていたからだ。このプロセスが進むにつれて、パキスタンは米国からの信頼を高め、その結果として米国の考えにも影響を及ぼす余地が生まれる」と説明した。
複数の専門家は、パキスタンが11日、米国との戦闘中にイランが米国の同盟関係にあるペルシャ湾岸諸国を攻撃したことについて、湾岸諸国からの不満を取り上げる可能性が大きいと予想している。
またパキスタンは、イスラエルによる攻撃の即時停止に向けた支援をシャリフ首相に要請していたレバノンも、停戦対象に含めるよう米国に迫る方針とみられる。
こうした意味でパキスタンは現在、仲介役として協議プロセスを存続させる上で十分な対処能力と信頼を確保している。しかし、世界が期待する海上交通の要衝ホルムズ海峡の再開を保証できるほどの力は持ち合わせていない。
スレルケルド氏は「米国とイランが歩み寄る意思を持たない場合、譲歩を引き出すための実効力のある手段に欠けている。それが、パキスタンが果たせる役割における根本的な制約で、この制約を慎重に乗り越えていかなければならない」と強調した。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab
Ariba Shahid is a journalist based in Karachi, Pakistan. She primarily covers economic and financial news from Pakistan, along with Karachi-centric stories. Ariba has previously worked at DealStreetAsia and Profit Magazine.