高校時代に始まった”切磋琢磨”は今もなお続く…盟友からの足裏タックルも笑って受け流した東京V林尚輝「本当に刺激的な友人だなと」

[4.5 J1第9節 横浜FM 0-0 東京V 日産ス]

 2試合ぶりのクリーンシートにも気持ちは晴れなかった。0-0の引き分けで勝ち点1を獲得した敵地・横浜FM戦後、東京ヴェルディのDF林尚輝は「無失点で終えられたという気持ちよりは勝てなかったという思いのほうが強い」と総括。「もちろん無失点で試合を乗り越えることは簡単なことではないし、全員がやったことで無失点という結果を掴むことができたけど、勝ちたい思いがすごく強かった」と悔しさをあらわにしていた。

 1998年生まれで26歳の林は今季、第5節・新潟戦から先発に定着し、ここまで公式戦6試合連続でフル出場中。チームは開幕4戦目まで1勝3敗と低迷していたが、第5節以降はルヴァン杯のPK戦勝利も含めて無敗(1勝4分、1PK勝利)が続いており、林は「出場試合無敗」という目に見える結果を残していると言える。  それでも林は「負けないのはディフェンダーとして価値のあることだと思うし、守備の安定を高めるために出場していると思うので手応えはある」と充実感を口にする一方、試合ごとの課題を冷静に見つめていた。  特に意識していたのは今月2日に行われた前節・FC東京とのダービーマッチからの流れだ。FC東京戦では2-1で迎えた後半44分、ハイボール攻勢から失点を喫し、引き分けに持ち込まれていた。そこでは「最後にどうクローズするかという課題が露呈した」と捉えており、中2日での横浜FM戦にも教訓としてつなげていたという。  その結果、横浜FM戦では終盤になるにつれて攻め込まれる時間も増えた中、集中力を保ってクリーンシートを達成。「縦スライド、横スライド、ラインを上げながらというチームの守備としては悪くなかった」という収穫を手にした。  とはいえ、結果は前節と同じドロー。林は「もっと攻撃に意欲的にやっていかないといけない」という新たな課題と向き合っていた。  林自身、前節のFC東京戦ではセットプレーから今季初ゴールを記録したが、横浜FM戦ではシュートなし。「コーナーでのチャンスはすごく感じていて、今節もすごく狙っていたけど、そもそもコーナーの数が少なかったのは反省点。もっと相手陣でのプレーを増やさないといけない」と振り返る。  また「ビルドアップでもっと自分が貢献することで攻撃的になれるので、今日は今日はミスもあったけど、精度を高めていかないといけない」と指摘。守備面だけでなく攻撃面にも目を向けて課題を抽出し、繰り返し乗り越えていくことで、チーム全体の成績を上向かせていくつもりだ。 「FC東京戦は自分たちが前に速いサッカーをして、アグレッシブに守備も行ってという形でやっていたなか、自分たちのボールを持つ時間が短かったという話になった。前線の選手は攻撃に体力を使えないという話にもなったので、マリノス戦は自分たちがボールを握る時間を作りながらできた部分もあった」  そう振り返った林は「やっといまは反省に対して、課題に対して挑戦していった結果、新たな課題が出るというサイクルになっている。これを一つ一つ乗り越えていけば勝利を掴んでいけるんじゃないかと思う」とここからの浮上に期待をにじませていた。 ■盟友との“バチバチ”の再会  そんな林をめぐっては、この日の試合中に印象的なシーンがあった。  前半アディショナルタイム4分、林が自陣右サイド裏に流れた相手のパスを追った際、右足でクリアしようとした矢先に後方から横浜FMの選手が激しくスライディング。林は一時、右足を押さえてピッチに倒れ込んでいたが、相手にイエローカードが出されるほどラフなチャージにも怒りを見せる様子はなかった。 「来そうだなとは思ったんですけど、足裏で来るとは思っていなかったんで、びっくりはしました(笑)」。怒りを覚えるどころか、どこか感慨深そうな様子でそのシーンを振り返っていた。

 実はこの場面でスライディングをお見舞いしてきたFW井上健太立正大淞南高で3年間を共に過ごした同級生。卒業後も親交は深く、大学時代からプロ入りを経ても互いに切磋琢磨してきた関係性とあり、“バチバチ”のマッチアップは望むところだったようだ。

高校時代のDF林尚輝(後列右から2人目)とMF井上健太(前列右から2人目)
「退場させるように誘導しようかなと思ったんですが、そこは友情もあるので心を鬼にすることはできなかったですね(笑)」  冗談まじりにそのシーンを述懐した林は「高校生の時から健太には刺激を受けていて、大学時代は追いかけながらやっていた部分もあったので、同じJ1のピッチで戦えているのはすごく感慨深い部分がありますね」と目を細めた。

 それもそのはず、それぞれプロ5年目を迎えた2人だが、先発でマッチアップするのはこれが2回目。林が大阪体育大を経て鹿島アントラーズ、井上が福岡大を経て大分トリニータに加入して1年目の2021年以来4年ぶりのことだった。あれから現在までの間、井上は22年に大分でJ2降格を経験し、林は23年に当時J2だった東京Vに期限付き移籍。それぞれJ1の舞台に這い上がるまでにも紆余曲折があった。

 林によると、こうした切磋琢磨は高校時代からたえず続いてきたものだったという。高校時代は先に林が台頭し、上級生の中でレギュラーの座を掴んだが、高校3年時はスピードという圧倒的な武器を持つ井上が脚光を浴びた。その結果、全日本大学選抜入りは井上が同期で一番乗り。それでも大学卒業時に評価が高かったのは、鹿島からのオファーを受けた林だった。 「高校の時からずっと“追い越して、追い越されて”を繰り返して、負けたくない思いが本当に強い中で、自分の人生の中で誰に負けたくなくて頑張ったかっていうとそれは健太でした。特に大学時代の自分は本当にそうでした。彼は高校時代にもしかしたら同じ気持ちだったかもしれなくて、そこで頑張って高校最後のほうの立ち位置を築いたと思いますし、自分は逆に次は大学に入って負けたくないと思ってやってきた中で、最後に鹿島に決まって。プロに入ってからも自分がヴェルディに移籍したタイミングはヴェルディがJ2にいて、ちょうど彼がマリノスにステップアップした時だったので、やっぱり健太に上に行かれているという思いはありましたし、そのぶん俺がステップアップするためにはまずヴェルディをJ1に上げないといけないんだという思いがあって。本当に刺激的な友人だなと思います」  林がそんな思い出話をしていた最中、ミックスゾーンの後ろを井上が通りかかった。“あのマッチアップ”の直後ということもあってか、互いに多くの言葉は交わさず、含み笑いを浮かべながらハイタッチをかわしたのみ。それでも井上が通り過ぎた後、林は「あまり直接は褒めたくないですけど、一番注目している選手ではありますね」と小声で明かしてくれた。

 立正大淞南の同期ではFW梅木翼も現在ベガルタ仙台でプレーしている他、現在ルーマニア1部でプレーするMF大島拓登という異色の欧州組もいる。高校時代は夏冬ともに全国1回戦で敗れ、悔しい思いを味わっていたが、その挫折経験もプロ生活を送っていく糧になっているという。

「高校時代に本当にみんな苦しい思い、悔しい思いをした代で、大学を経て結果を残してプロに行けて、おのおのが頑張っていまの立ち位置まで来てたんで、今回同じピッチに立てたのは感慨深い部分がありました」(林)  この日の試合では林がCBの中央、井上が右ウイングだったため、直接対峙する機会は多くなかった。それだけに「あまりマッチアップする機会がなかったんでもっとバチバチになれば面白かったかもしれないですけど、“あれ”が一つあったおかげで一緒にプレーした実感がありました(笑)」と、イエローカードもののスライディングも思い出に華を添えるものとなったようだ。 ■見えてきた“トップトップ”の目標

 そんな同期の物語がひそかに展開されていた一戦だが、この日は日本代表森保一監督が試合を視察していたことでも注目を浴びていた。3日前の東京ダービーも視察対象試合だったため、東京Vの選手は2試合続けて現地スカウティングを受けた形だ。

 視察の目的とみられるのは国内組で臨むことが通例となっている今年7月のEAFF E-1選手権の候補選手の発掘。北中米W杯に向けて強化が進む日本代表は欧州5大リーグの選手が中心を占めており、国内組から食い込むのは容易ではないが、E-1選手権はその足がかりを掴む絶好のチャンスとなる。

 林にとって日本代表は、鹿島で共にプレーした大学同期のFW上田綺世(フェイエノールト)、一学年上のDF町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サンジロワーズ)がW杯予選の中心メンバーを担っている舞台。「今まで自分がそういうところに関われるとは現実的に考えてこなかったし、手の届く存在かどうかという前にもっとやらないといけないことがあるという感覚でやってきた」と率直に明かしつつも、そこに名乗りを挙げていきたい思いは強い。

「こうしてJ1で試合に出られている中、一緒に鹿島でやっていた上田綺世であったり、町田浩樹くんが代表のトップトップでやっているのを見ていて、やっぱり自分もそこに挑戦したいという思いはありますし、ヴェルディにもそこを狙っている選手がたくさんいる中で、一つ自分の目標になっている部分ではあります。そこに入るために自分はもっとどうしたらいいんだろうかと考えられるようになっていて、いまの立ち位置も含めてそう考えられるようになっているのは自分としても成長したのかなと思えていますし、もしチャンスがあるのなら本当に貪欲に狙っていきたいと思っています」 (取材・文 竹内達也)★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!●2025シーズンJリーグ特集

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