被爆80年の広島平和式典 ロシア、パレスチナは対象も親日台湾を除外する「案内」新基準
広島市が今年8月6日に開く被爆80年の平和記念式典について、世界各国の代表を「招待」する方法から、式典開催を伝える「通知」を、日本と外交ルートのある195の国・地域すべてと欧州連合(EU)代表部に送る形に変更する一方で、台湾は従来通り対象に含まれないことが明らかになった。日本政府が国家承認していないのは北朝鮮やパレスチナも同じだが、今回、台湾が除外される理由は何か。
「線引きが必要」
「ダブルスタンダード(二重基準)ではないかとの議論が起こったので(式典参列の)要請方法を改める」。松井一実市長は11日の会見で招待制を転換する理由を説明した。
ダブルスタンダードとは、2022年2月のウクライナ侵略以降、ロシアと同国を支援するベラルーシの招待を見送りつつも、昨年、パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けていたイスラエルを招いた判断の差異を指す。多くの批判が集まった。
新たな方針に従えば、ロシアやパレスチナ自治政府を含め、日本に在外公館があるか、国連に代表部があるすべての国と地域が対象となる。核・ミサイル開発を加速させ、東アジアの平和と安定を脅かす北朝鮮だが、国連加盟国なのは間違いない。
もっとも、台湾、香港、マカオに北極、南極は対象に含まれない。
香港とマカオは1999年に英国、ポルトガルからそれぞれ中国へ返還・移譲された。北極は米国やカナダなど8カ国が領土を主張し、南極はどこの国のものでもない。事実上、通知を受け取れないのは台湾だけだ。
市幹部は「あえて除外しているわけではない。どこかで線引きする必要がある」と苦しい胸の内を明かす。たしかに日本政府は72年の日中国交正常化以降、台湾を「国」と認めておらず、台湾も国連に加盟していない。
市の立場とすれば、何らかのよりどころが欲しいというわけだ。個別の判断はリスクが大きい。
案内届けば出席意向
とはいえ、現実的に台湾は独立国の政府(中国共産党)が実効支配している地域ではなく、頼清徳総統も「中華民国(台湾)と中華人民共和国は互いに従属しない」と主張する。自衛隊が事実上の国軍であるのと同様に、台湾もまた日本が国家として承認しない「国」なのだ。
広島市役所大使館に相当する台北駐日経済文化代表処(東京)こそあるが、「あくまで民間機構の位置付け」(市幹部)で、通知の送付先にはあたらないという。
東日本大震災では、台湾から200億円以上の義援金が寄せられた。非政府間の実務関係は極めて親密だ。折しも、台湾メディアによれば、日本の対台湾窓口機関「日本台湾交流協会」が15日、台湾人を対象にした対日意識に関する最新の世論調査結果を公表。台湾以外のもっとも好きな国・地域で「日本」と回答した人は過去最高の76%に上ったという。
台湾側は今回の広島市の方針をどうとらえているのか。
広島県を管轄区域に持つ台北駐大阪経済文化弁事処(大阪市)の洪英傑処長=総領事級=は産経新聞の取材に対し、「台湾海峡およびインド太平洋地域の平和、安定、繁栄を追求し、理念を共有している各国との協力を惜しまない台湾は、案内状をいただければ、出席する所存」と文書で回答した。
市側は「今回の方針は決定ではない」と強調。5月下旬に予定する通知の案内まで送付先についても検討を重ねるという。(矢田幸己)
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洪英傑処長のコメント全文
広島の平和記念式典は人類史上前例を見ない悲劇を二度と繰り返さないように、戦争のない理想な世界を目標とする国々が決意と志を改めて再確認する貴重な場です。
今現在、世界複数の地域で紛争が続いており、平和への働きかけがなされるも、定着し成果を上げるまでには至っていません。
台湾海峡と周辺地域の平和と安定は、世界の核心的利益に多大な影響を与えていることを、国際社会は認識しています。地域の責任ある一員として、台湾は常に国際社会と協力し合い、地域の安定を守る要として、行動してきました。そのおかげで、日本にも「台湾有事は日本有事」との認識が広く認識されるようになりました。
今年に開かれる平和記念式典について、広島市が各国を「招待」から「案内」形式に変更されるのは、出席者みなが式典の趣旨を理解したうえで自主的に出席することを意味するものと理解します。
台湾海峡およびインド太平洋地域の平和、安定、繁栄を追求し、理念を共有している各国との協力を惜しまない台湾は、案内状をいただければ、出席する所存です。