コラム:中国の「日本化」示唆か、国債利回り軒並み低下
[オーランド(米フロリダ州) 8日 ロイター] - これまで20年にわたって世界経済をけん引してきた中国の長期金利が今、長らくデフレに悩まされてきた日本の水準を下回ろうとしている。これは「世界の工場」が「日本化」のリスクに直面している兆しかもしれない。
中国の国債利回りは軒並み過去最低を更新し、つい数カ月前に1.50%だった2年債は1%割れが迫っている。注目されるのは最近、30年債利回りが史上初めて日本より低くなったことだ。10年債を見ても、中国は日本より50ベーシスポイント(BP)弱ほど高いだけになっており、水準逆転は目前だ。
このような事態は、過去30年の世界経済を見守ってきた人びとにとってにわかに信じられないものの、現実に存在している。
中国の国債利回り急落で思い浮かぶのは、デフレと債務の拡大、少子高齢化に苦しむ中国経済が、日本が陥った「失われた30年」の軌跡をたどりつつあるのではないかという点だ。
<資本逃避>
日本はようやく、デフレと低成長、マイナス金利の足かせから脱却し始め、日銀は金融政策の「正常化」に乗り出すことが可能になった。
一方、中国政府はコロナ禍と不動産不況に打ちのめされた経済をなかなか再活性化できない。デフレや消費需要の欠如、資本逃避を受け、昨年末には未曾有の規模の経済対策と流動性供給策を打ち出さざるを得なくなった。
投資家は当初、中国の大規模な経済対策を歓迎したものの、楽観ムードはすぐに消滅。今年に入って中国株は5%下落し、アジアや世界の株式をアンダーパフォームしている。
中国の外貨準備は昨年12月に640億ドル減少した。減少分は準備高全体の2%近くに当たり、月間ベースでは2022年4月以来最大の落ち込みとなった。減少率は、人民元急落と資本逃避に見舞われた2015─16年に匹敵する。
JPモルガンのアナリストチームは、中国当局が資本逃避を抑えようとして急激に準備高が減ったとみている。JPモルガンの見立てでは、12月の逃避額は800億ドル近くだという。
さらに中国を苦境に追いやっているのは、20日にトランプ次期米政権が発足した後、米国との貿易戦争の第二幕が始まる恐れが非常に大きいことだ。
UBSのエコノミストチームの予想が正しければ、中国経済の今年の成長率は4.0%と、昨年見込みの4.9%から下振れする。コロナ禍の20年と21年を除くと、これは中国が世界経済の一大勢力として登場した1990年代以降で最低の伸びになる。
優れた記憶力を持つ人なら、日本の株価と不動産価格が1990年代前半のバブル崩壊の痛手から立ち直るまでに何十年もかかったと思い出せる。中国の資産価格に同じ運命が待っているかどうか判断するのは時期尚早だが、足元で投資家が完全に悲観的になっているのは間違いではない。
<戦略的中立化>
結果的に多くの投資家は中国と日本それぞれの資金配分の修正に動きつつある。
ソシエテ・ジェネラルの資産配分チームは昨年末、ポートフォリオにおける中国株のポジションを「オーバーウエート」から「戦術的な中立化」に変更し、日本株の比率を高めたと明らかにした。今週には、HSBCのアナリストチームが年末の中国10年債利回りの予想水準を1.8%から1.2%に引き下げた。
ただこのような全般的な中国に対する悲観、日本に対する楽観の姿勢にはリスクも存在する。
恐らく日本の金利「正常化」は多くが予想するほどのスピードでは進まないだろう。これまでの20年近く、日本で政策金利が0.5%を超えた局面はなく、日銀の政策担当者が慎重な態度を見せる理由もそこにある。実際、バークレイズのエコノミストチームは最近、日銀による次の利上げ時期の予想を今月から3月に、2回目の利上げは7月から10月に先送りした。
短期的には、国債利回りが中国で低下、日本で上昇する関係性がなくなるか、場合によっては逆の展開になるかもしれない。ここ数カ月の動きがあまりにも強烈で、持続が難しいという単純な理由だ。
だが、長期的には中国政府の方が必死に取り組むべき課題を抱えている。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets - especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie