最悪の場合、死に至る…日本人タトゥー人口急増で医師が警鐘「多くの人が知らない施術後の2大リスク」(プレジデントオンライン)

■タトゥーの種類とアレルギー すべてのタトゥーが同じ健康リスクを持つわけではありません。谷崎潤一郎のデビュー作『刺青(しせい)』で描かれたような伝統的な日本の手彫りは、炭素を主成分とした墨を用いるため、比較的アレルギー反応が少ないとされます。炭素は人体組織との相性が良いからです。 一方、現代的なマシンタトゥーは効率的に仕上げられる反面、アゾ系やキナクリドンなどの有機色素、青や緑を鮮やかに表現するフタロシアニン、さらには酸化鉄やチタン白といった無機顔料など、化学的に多様で複雑な色素を用います。 色彩の幅が広がったことは、芸術表現を大きく押し広げた一方、潜在的なアレルギー物質(アレルゲン)の種類も増加させました。 つまり、タトゥーには免疫反応や化学物質との相互作用といった医学的な現実があるのです。色素に対するアレルギー反応は数カ月から数年後に出現し、タトゥーとの関連が見過ごされることもあります。色素は体内での反応が一様ではなく、とりわけ赤系のインク(※3)は遅発性アレルギーを起こしやすいことで知られています。タトゥーの処置が一見完全に治癒した後でも、数年を経て突然かゆみや腫れが出る例も知られています。治療しても完全に症状が消えない場合もあり、繰り返しのステロイド注射や、最終的には外科的切除が必要になることもあります。 ※3 Hypersensitivity to permanent tattoos: Literature summary and comprehensive review of patch tested tattoo patients 1997-2022, Wiley■タトゥーによる感染症リスク アレルギーだけではありません。感染症のリスク(※4、5)もよく知られています。タトゥーを入れた直後、皮膚には細菌が侵入しやすい開いた傷ができます。そのため最も身近で即座に起こるリスクは感染症です。黄色ブドウ球菌や化膿性連鎖球菌といった一般的な細菌によって、強い発赤や腫れ、化膿、赤い筋状の炎症、さらには発熱や悪寒など全身症状を伴う感染症が起こりえます。早期に発見し適切に抗菌薬で治療すれば改善しますが、放置すれば敗血症といった命に関わる事態に至ることもあります。 ※4 Causes, patterns, and epidemiology of tattoo-associated infections since 1820, The Lancet※5 Microbiology of tattoo-associated infections since 1820, The Lancet 近年特に注目されるのは、非結核性マイコバクテリアによる感染です。これは水環境で繁殖する細菌で、非滅菌水でタトゥーのインクを希釈した場合に混入するリスクがあります。感染すると治癒しにくい隆起や結節を形成し、瘢痕(はんこん)や変形を残す恐れがあります。治療には数カ月にわたる専門的な抗菌薬投与が必要になる場合も知られています。 また、すでに自己免疫疾患を持つ人は、リスクが高まるとされています。乾癬の方ではタトゥー部位に新たな皮疹が現れ、症状が悪化することがあります。湿疹体質の人は炎症反応が強くなり、ケロイド体質の人ではタトゥーの境界を超えて厚い瘢痕が広がる恐れがあります。これら持病のある方はタトゥーには慎重になったほうがよいでしょう。 2024年には、スウェーデンの研究でタトゥーを持つ人が持たない人に比べ、血液のがんの一種である悪性リンパ腫の発症リスクが21%高いという結果が発表されました(※6)。絶対的なリスクは小さく、因果関係が証明されたわけではありませんが、長期的に異物である色素にさらされることで免疫系の細胞に悪影響が及ぶ可能性を示しています。

 ※6 Tattoos as a risk factor for malignant lymphoma: a population-based case–control study, The Lancet

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