トランプ政権「目もくらむ」100日間-スピードで圧倒、関税で亀裂も
トランプ米大統領の長年の側近で、政権1期目で大統領上級顧問を務めたスティーブン・ミラー氏は2021年にホワイトハウスを去る際、バッジを返却しながら「4年後にまた会おう」と別れの冗談を口にした。
ミラー氏はほぼ直ちに、第47代大統領としてのトランプ氏復権に備え、一連の行動計画や行政命令(大統領令)の立案に支持者らと共に着手した。
詳細な立案作業は、トランプ氏の24年の選挙キャンペーン、その後の政権移行チームの中枢が置かれたウェストパームビーチ(フロリダ州)の目立たない建物で行われた。壁一面には、「サンダードームへようこそ」との文字と共にトランプ氏の肖像画が掲げられていた。
政権2期目で大統領次席補佐官(政策担当)に就任するミラー氏のチームは、1期目の優先課題の一部をより確実に制度化できるよう再構築したほか、予想される法廷闘争にも備えた。20年の大統領選敗北後にミラー氏やトランプ氏の協力者らが設立した保守系団体も活動を支えた。
事情に詳しい複数の関係者が明らかにした準備作業により、トランプ政権2期目の当初100日間が特徴付けられた。息もつかせぬスピードだ。矢継ぎ早のスピード感は政権の最も有効な手段の一つだが、最大の弱点の一つとも言える。
トランプ氏はエネルギーから教育、ダイバーシティー(多様性)の取り組みを含むあらゆる分野に関し、目がくらむほど大量の大統領令に黒のシャーピーペンで署名することができた。「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA、米国を再び偉大に)」路線に反対する勢力を圧倒し、進行の遅い訴訟手続きの弱点を巧みに突くことを可能にした。
政権の高官らは、移民政策の迅速な実施が南部国境で違法な越境を劇的に減らすことに貢献したと成果を誇示する。
しかし、トランプ政権はその急ピッチな政策推進により、経済的・政治的危機に向かいつつある。大統領が拙速に導入し、度々修正した関税政策は、貿易相手国・地域と金融市場に深刻な不確実性の種をまいた。
エコノミストらは、これらの関税が米経済のリセッション(景気後退)確率を高めたと指摘する。物価高を抑え、繁栄をもたらすと約束してホワイトハウスに復帰した大統領にとって、信頼性への壊滅的打撃となりかねない。
トランプ政権1期目でペンス副大統領の首席補佐官を務めたマーク・ショート氏は「国境危機に取り組み、経済問題に対処するため大統領は選任された。一つはうまくやっているが、もう一つはうまくいっていない」との認識を示す。
イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」のコスト削減キャンペーンは、もう一つの看板政策だが、数千人規模の連邦職員解雇と多くのプログラム廃止を迅速に進めた結果、混乱を引き起こした。共和党の一部が存続を望んだであろうプログラムも廃止の対象となった。
トランプ氏自身が政治的直感に自信を深めたことに加え、1期目にも増して忠誠心の高い支持者らで固めた取り巻きが、強引なペースを側面から支える。
そうした組み合わせが、これまで以上に大統領権限の限界を試す勢いをトランプ氏に与えている。今は撤回したようだが、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の解任を検討するような動きもその一つだ。
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ホワイトハウスでは、上級顧問や閣僚らがトランプ大統領に賛同する「肯定のフィードバックループ」が多く見られるが、関税はそうした状況に風穴を開ける珍しいケースとなった。米自動車メーカーはトランプ氏に懇願し、関税の猶予を引き出した。市場の混乱を受け、中国を除く貿易相手国・地域への上乗せ関税を90日間停止することを大統領は決定し、その後はベッセント財務長官が貿易相手国・地域との交渉をおおむね引き継いだ。
トランプ大統領はそれでも、ハーバード大学で経済学博士号を取得したナバロ大統領上級顧問を最も忠実な側近の1人と見なしている。ベッセント氏が重要な役割を担う状況にもかかわらず、関税強硬派のナバロ氏は、トランプ氏周辺でなお特別な存在感を示す。
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トランプ氏の側近や支持者らは、2期目の政権発足100日という節目を見せかけの指標に過ぎないと重要視しておらず、ペースが今後緩むことはないと主張する。ある高官は「文化戦争」関連など、政権チームが発表していない多くの政策がまだ他にもあると説明した。
もっともトランプ氏自身は、この節目を完全に無視しているわけではない。就任前日の集会では、「米歴代政権の中で最高の初日、最もビッグな1週目、そして最も素晴らしい最初の100日を成し遂げる」と約束していた。
原題:‘Welcome to the Thunderdome’: Inside 100 Dizzying Days of Trump (2)(抜粋)