【行動経済学に学ぶ】人たらしが使っている「相手を気持ちよくさせる」一番簡単な方法(ヨガジャーナルオンライン)
仕事や人間関係、日常生活の中で誰もが感じがちな「身近なあるある」を多数具体例として提示し、行動経済学を活用した目ウロコな解決法!橋本之克さんの著書『世界は行動経済学でできている』(アスコム)より、内容を一部抜粋してご紹介します。 <写真>【行動経済学に学ぶ】人たらしが使っている「相手を気持ちよくさせる」一番簡単な方法 ■モテる友だちの秘密 学生時代、とてもモテる友人(Cくん)がいました。失礼ながら、外見がものすごくカッコいいというわけではないのに、男女問わずまわりから好かれる人気者でした。彼の長所は、とにかく「細かいことによく気がつく」こと。 「髪型変えた? すごく似合ってるね」 「その服、おしゃれで素敵だね」 「最近ちょっと元気ないよね? 何かあった?」 このようなさりげなく相手を気遣うひと言があり、私も彼のことを信頼して、何度か相談に乗ってもらっていました。「なぜそんなに気がつくの?」と聞いてみたところ、「最初は無意識でやっていたけれど、いろんな人が喜んでくれるので、意識してまわりの人を観察するようになった」とのこと。あとから知ったことですが、これは行動経済学の「スポットライト効果」を応用したものだったのです。 ■他人が着ていた服を覚えている人はほとんどいない 「自分は注目されている」という錯覚をしてしまう現象を「スポットライト効果」と言います。例えば、ある人と会った際、自分が前回会ったときと同じ服を着ているかも、と気になってしまうようなケースです。 「自分が気にしていること」に関して、他者も同じように気にしていると判断したり、自分が他者に与える影響を過大評価したりしてしまうということですね。 1999年、心理学者のトーマス・ギロビッチ教授は、「スポットライト効果」の影響を確かめる実験を行いました。教室に集められた人々に、あるアンケートに答えてもらいます。その回答時間中、Tシャツを着た被験者が教室に入り、どの程度注目されるかを調べる、といった実験です。被験者が着ているTシャツの胸には、有名だが当時の若者には「ダサい」と思われていた歌手バリー・マニロウの顔写真が大きくプリントされています。しばらくして、被験者は再び人々の前を通って教室から出て行きます。その後、教室にいた人に被験者について聞いたところ、Tシャツの顔写真に注目した人は全体の21%でした。一方で、ダサいTシャツを着た被験者側は、自分が46%の人に注目されたと感じたと答えたのです(*)。 この実験にはさらに、被験者と教室にいた人々の全体の様子を見届ける観察者もいました。その人に、被験者のTシャツに注目した人がどの程度いたかを尋ねたところ、推定値は22%、つまり教室にいた人の回答(21%)とほぼ同じでした。この実験から導き出されるのは、「自分が注目されていると感じる割合は、客観的な事実の2倍以上」であること。言い方を変えれば、自分が考えているより半分も、他人は自分のことを気にしていないということです。 ■ 「あなたは特別ですよ」と思わせることで相手を操る この事実を知って、がっかりする人もいれば、ホッとする人もいるかもしれません。 「最近生え際の薄さが気になってきた」 「髪を切ったばかりだけど、みんな気づいてくれるかな」 「ニキビが目立つ場所にできてはずかしい」 など、いろいろなケースがありますが、実際のところ周囲の人は気づいていない、あるいは気づいたとしても関心がない可能性のほうが高いのです。逆に、注目してほしい、ツッコんでほしい場合もあります。ブランド品を身につけているとき、「それいいですね。◯◯ですよね」と言われたい。変な絵やメッセージが書かれたTシャツを着ているとき、誰かにいじってもらいたい。そのように思うこともあるでしょう。しかし、あなたがそこにいることは認識していても、Tシャツやブランド品にはまったく注目していないといったケースも多いのです。本項の冒頭で紹介したCくんは、みんなが思っている「自分に注目してほしい」「気にかけてほしい」というポイントに気がついていたわけです。その欲求をさりげなく満たしてあげることで好感度を高めていたのですね。 ■「スポットライト」で好感度を高める 注意すべきは、私たち自身が「自意識過剰な勘違い人間になりやすい」点です。「自分が重要だと思っていることが、他人にとっても同じように重要だとは限らない」ことは知っておくべきでしょう。そして、自分には「スポットライト」が当たっておらず、大して注目もされていないことも理解しておきたいですね。これは、他人の視線や動向を気にしすぎる人にとっては、少し肩の力を抜いてラクに生きてもいいという福音にもなります。俯瞰(ふかん)して考えると、世の中の多くの人が「スポットライト効果」のせいで、自分は本来、他人や世の中からより注目されるべきはずなのに、と不満を感じ続けているのかもしれません。こうした気持ちが世の中にまん延し常態化している、と捉えることもできます。 でも、自意識過剰による思い込みでネガティブな気持ちになってしまうのは、とてももったいないですよね。まずは自分のまわりだけでも、少しでもポジティブにしていく試みをしていきましょう。簡単で効果抜群なのは、仕事場でも家庭でも、相手が何かしてくれたときに必ず感謝を伝えることです。人は「してもらったこと」よりも「してあげたこと」を強く認識しているもの。ですので、感謝を伝えることは「あなたの行動に注目していますよ」と示すサインにもなるのです。ここで働く「スポットライト効果」には想像以上の影響力があります。良い印象を与えたい相手や仲良くなりたい人に対しては、「スポットライト効果」を戦略的に活用するのもいいでしょう。 相手に注目していると示すことは、顧客獲得の営業や取引先との商談の場面など、仕事でも十分使えるテクニックになります。 「今日のスーツ、すごく素敵ですね!」 「会議での△△についての発言、大変勉強になりました」 「◯◯さんが担当されるお仕事は、いつもやりやすいです」 「×× さんに相談したいことがあるのですが……」 やりすぎるとわざとらしさが出てしまうので、そこだけは注意してください。相手にうまくスポットライトを当てれば、細かいところによく気がつく、気遣いができる人という評価を受けられて、好感度を高めることができるでしょう。これは誰もが持っている満たされない欲求を満たすという、非常に理にかなった方法なのです。 * Gilovich, Thomas, Victoria Husted Medvec and Kenneth Savitsky, The Spotlight Effect in Social Judgment: An Egocentric Bias in Estimates of the Salience of One's Own Actions and Appearance, Journal of Personality and Social Psychology, 2000, 78, 211-222. Gilovich, Thomas and Kenneth Savitsky, The Spotlight Effect and the Illusion of Transparency: Egocentric Assessments of How We Are Seen by Others,?Current Directions in Psychological Science, 1999, 8, 65-168. ■■教えてくれたのは…橋本之克(はしもと・ゆきかつ)さん 行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディングディレクター 東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に 今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。
ヨガジャーナルオンライン編集部