忘れえぬ、自由奔放な女王 3冠牝馬リバティアイランドが予後不良で安楽死処置
リバティアイランド(c)SANKEI
クイーンエリザベス2世カップ(G1・芝2000メートル)が27日、香港のシャティン競馬場で行われ、23年の3冠牝馬リバティアイランド(牝5)が最後の直線で故障して競走を中止。その後、予後不良と診断され安楽死の処置が施された。
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自由きままに走った先にあったものとは...
「勝てる......勝てるぞ!!」――
今年のクイーンエリザベス2世C、向こう正面から仕掛けていったリバティアイランドの様子を見て、筆者はワクワクした。
彼女らしいあの豪快かつ自由でのびのびとした走りが久しぶりに見られると信じていたからだ。
だが... その時はやってこなかった。同じ日本からの遠征馬タスティエーラが栄光のゴールを駆け抜けていく一方、かつての三冠牝馬は直線で故障を発症して競走を中止。
そしてレースからおよそ3時間後、予後不良の診断が下され安楽死措置が取られたこと発表された。
自由の女神に関連する名を授かったからなのか、今思えばリバティアイランドほど自由奔放に走り、結果を残してきた馬も珍しいように思う。
(c)SANKEI
そのスタートとなったのが3年前のデビュー戦だ。
真夏の新潟で行われた彼女の初陣の条件は芝のマイル戦。
外回りコースを使うため、末脚の切れる馬なら上がり3ハロンで素晴らしい記録が出ることが多い舞台だったが、それにしても彼女はすさまじかった。
スタートで出遅れて後方からのレースとなったにもかかわらず、リバティアイランドは直線では先行する馬たちをごぼう抜きにして完勝。
レース全体の上がりが32秒0とかなり速かったが、その中でも彼女が記録した上がり3ハロンの時計は31秒4。
JRAが計測を始めて以来、古馬も含めて史上最速タイとなる大記録を2歳の牝馬がいきなり記録したのだから、リバティアイランドは一気に注目を集める存在となった。
だが、続くアルテミスSでリバティアイランドは敗れた。
末脚自慢の馬が先に抜け出した伏兵を捕まえられずにというのはよくある話だが、勝ったラヴェルはメンバー最速の33秒0で上がってきたにもかかわらず、リバティアイランドの上がりは33秒3。
前がいったん壁になるロスがあったとはいえ、自身よりも後ろから動いた馬に敗れた。
切れのある末脚で話題になった馬だけにこの敗戦はあまりにショッキングだったが、前が壁になったことで自由に走れなかったことが最大の敗因だった。
誰にも邪魔されずに自由奔放に走れれば、彼女に勝てる馬はまずいない――
口で言うのはたやすいが、レースでは毎回のように様々なアクシデントが付きまとうのが当たり前なだけに実際にはムリな話に思えたが... 彼女はそれを実現し続けた。
第74回阪神ジュベナイルF リバティアイランドが2歳女王に輝く(c)SANKEI
例えば阪神ジュベナイルフィリーズ(GI)。前が壁になって抜け出せなかったアルテミスSの再現はごめんとばかりに、4コーナーを回った時には大外にいた馬よりももっと外のコースを走った。
「自由に走れれば、多少のコースロスなんか関係ない」と言わんばかりに追い上げて、2歳女王の座をもぎ取った。
そして翌春の桜花賞。阪神JF以来の実戦となったためか、スタートで後手を踏んでしまい、中団後方からのレースとなり、4角を回ったところでもまだ16番手。
だが、彼女も鞍上の川田将雅も至って冷静なまま。
直線を向いたところで川田が追い出し始めると、「黙って見ていなさいよ」と言わんばかりにスピードを上げていくと1頭、また1頭と交わしていき、ゴール直前で前を行くコナコーストやペリファーニアを難なく交わして勝利。
リバティアイランドが桜花賞を制する 写真:東京スポーツ/アフロ
上がり3ハロンは32秒9。彼女の走りたいように走らせれば、位置取りなんか関係ないということを示した。
コースロスも位置取りも関係ない、自由に走って力でねじ伏せるのがリバティアイランドのスタイルと言えるが、その集大成となったのがオークスだった。
落ち着いたままゲートに入ると、後方に控えていたこれまでとは異なり6番手で折り合いを付けると、直線半ばで猛スパート。
残り200mのところで先頭に立つと、そこからは彼女のひとり舞台。
第84回オークス リバティアイランドが6馬身圧勝(c)SANKEI
まるで瞳の先にある何かを追いかけるかのようにリバティアイランドはストライドを伸ばし、後続馬を突き放していく。
その結果、2着のハーパーにグレード制導入後のレース史上最大着差となる6馬身という大差をつけての二冠達成を果たした。
他の馬たちから数頭分外を回っても、先頭から何十馬身離されても、そして距離が2400mに延びても... どんな条件になってもリバティアイランドは自由に走って力でねじ伏せ続けた。
そんな走りは秋緒戦となる秋華賞でも変わらなかった。
リバティアイランドが史上7頭目の牝馬3冠制覇(c)SANKEI
1000m通過タイムは1分1秒9と過去10年の秋華賞で最も遅い流れに。すると、リバティアイランドは3コーナーの坂の上りに入ったところで外へと進路を取り始めた。
この時、川田は勝利を確信したというが、自ら作った牝馬三冠へのVロードをリバティアイランドはひたすらに駆け抜けた。
馬群の真ん中辺りにいた彼女は一気に押し上げ、気が付けば4コーナーで3番手に。そして直線では他馬の追撃を凌いで栄光の牝馬三冠へのゴールを駆け抜けた。
阪神JFから始まったGI4連勝でのトリプルティアラ達成はリバティアイランドの自在性のあるレース運びを満天下に示すことになったのは間違いない。
自由に走れば結果は自然とついてくる―― リバティアイランド自身ももしかしたらそう思っていたかもしれない。
2023 秋華賞(GI)リバティアイランドが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ
だが、自由な走りで勝てていたのは同世代同士の牝馬限定戦での話。
続くジャパンCにもリバティアイランドは挑んだが、世界最強馬の名をほしいままにしていた1つ上の牡馬、イクイノックスに手も足も出ずに4馬身差の2着に完敗。
第43回ジャパンC イクイノックス(c)SANKEI
年明け緒戦に臨んだドバイシーマクラシックでも1番人気に支持されたが、ゴドルフィンの所有馬レベルスロマンスに3馬身差を付けられる3着。レース後には右前種子骨靱帯炎を発症して戦線を離脱した。
それから半年後、リバティアイランド21は天皇賞(秋)で戦線に復帰したが、彼女の走りは3歳時に見せたようなものとは程遠いものだった。
このレースで13着と大敗すると、活路を香港に見出し、香港Cでロマンチックウォリアーの1馬身半差の2着に。
明け5歳となった今年もドバイターフから始動したが、ソウルラッシュが快挙を成し遂げた一方でリバティアイランドは8着に沈んだ。
競走馬としてのピークを過ぎたのか、それともどこか体調が悪いのかなど、ドバイターフの大敗は様々な憶測を呼んだ。
だからこそ、今回のクイーンエリザベス2世Cは負けられない一戦だったに違いない。
復権するためにも負けられなかったので秋華賞を彷彿とさせるようなマクリ劇を敢行したが......結果的にこれが彼女の最後の輝きになってしまった。
日本から離れ、遠征先の香港で星になったリバティアイランド。
いつだって自由奔放、のびのびと走ることでファンの記憶に残る走りを見せてきた彼女が、たったの5歳でこの世から去ったのはあまりに寂しく、悲しい。
願わくは天国でも自由にのびのびと過ごしてほしい。それがどんな時も自由でのびのびとしていたリバティアイランドにはピッタリなのだから。
■文/福嶌弘
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