「にんしんSOS」10代・20代が35%と最も多く、最近は男性からの相談も19%と増えつつある現状。その背景にある共通点とは【助産師・土屋麻由美】(たまひよONLINE)

東京で助産所を開業し、自宅出産を希望する妊婦さんの出産の介助を行っている助産師の土屋麻由美さん。彼女の顔はそれだけではありません。認定NPO法人の理事として、予期しない妊娠で葛藤する人に寄り添い、居場所のない妊婦さんの衣食住を提供する活動や、出張保健室と呼んでいる学校や地域の居場所での中高生向けの性教育、さらには窓口に寄せられた相談から見える問題についての講演や行政への政策提言なども行っています。 土屋さんがこのような活動を始めたのは、印象的な妊婦さんたちとの出会いがあったからだそうです。 「助産師として大学病院や助産院への勤務を経て、出張専門の助産師を開業したのが28年前。その後、助産所を開きましたが、この28年の間に、いろいろな事情を抱える妊婦さんに出会いました。 たとえば、オーバーステイで不法滞在になっている外国人の妊婦さんから『お金がないから、出産の日だけ関わってもらえないか』という相談。不法滞在だとわかれば、国に強制送還されてしまうことを恐れて、病院にかかれないから、健診も受けていないし、受けられない。そのような状況だから、1人で出産せざるを得ないんだけれども、とても不安だから、出産の日だけ関わってもらえないか、と。健診も検査も受けないで、お産をお受けするのは難しいので、まずは、検査だけでも病院で受けないかと伝えたら、その後、連絡は来なくなりました。その後しばらくして、同居人の方から「自宅で出産をして無事に生まれたが、しばらくしたら子どもを置いて出て行ってしまった。子どもをどうしたらいいか」と連絡が入ったことがありました。 また、住む場所にも困っていて、生き延びるために、パートナーではない人たちと居場所を共にする中で妊娠をしてしまったという女性との出会いもありました。彼女自身、妊娠しているとわかっていなくて、相手が誰かもよくわからない状況で、気がついたら予定日近くになっていたという時点で相談に来られたのです。 付き添って来られた親戚のおばさんが『突然来たと思ったら、おなかが大きくて。本人は太っているだけだというんですが、そのおなかは絶対に妊娠だよと病院に連れて行ったら、妊娠が判明したんです。でも、その病院では出産を取り扱っていないから、ほかの病院を探してほしいと言われて、相談に来た』という経緯でした。 ご本人は今の自分の状況で子どもを育てることはできないから、養子縁組に出すことを考えていらっしゃいました。でも、おばさんが『産後1カ月は私が手伝うから、1カ月は自分で育ててみたらどう?  それで無理だったら、赤ちゃんを誰かに託すっていう選択もできるし、産んですぐに手放すなんて、あなたも苦しいだろうし、子どもにとってもどうなのかな? 』って言ってくださったんです。その言葉によって、その女性は1カ月間だけなら…という気持ちで出産し、1カ月頑張って赤ちゃんを育てました。 その後、彼女は、女性相談員の方や子ども家庭支援センター、児童相談所など、いろんな方が関わってくださったことで、仕事にも就いて自立し、1人で子どもを育てていくことができたんですね。 このときに感じたのは、さまざまな困難な課題を抱え、妊娠してもなかなかつながり先もない人の支援は、相談を受けたとしても、自分1人で抱えられるものではなく、行政にも関わってもらいながら、チームで支援をして行くことが必要だということ。ただ、その時点では、こういう活動を一緒にやろうという人がいるかどうかもわからない状態でした。 それから10年以上たち、熊本の慈恵病院で、匿名で赤ちゃんを預けられる「こうのとりのゆりかご」事業の相談員をされていた助産師の田尻由貴子さんが中心となって、全国妊娠SOSネットワークという会議が開かれました。そこに参加した仲間の助産師たちと話を聞いて、『これはとても大変な問題だから、東京に相談窓口を立ち上げないか』という声かけがあり、私もこのメンバーとだったら一緒にこの課題に対して活動していけるんじゃないかと思い、みんなで活動を始めました。 思いがけない妊娠を1人で抱え、この妊娠が、ほかの人に知られてしまったら、自分は今の生活を送ることができなくなるのではないかと考え、だれにも相談できずに孤立してしまう方たちと実際に対面してみて、妊娠に気づいても、どうすることもできないと思ってしまったり、自分で行動することが難しい人、困窮されていて受診に必要なお金がなくて病院も行けないという人は、その日、生きることだけで精いっぱいで、安全に妊娠生活を送り、出産をしようというところまで、考えが及ばないのではないかと感じました。 それでも、お産が近くなり、やはり1人じゃ不安で、やっとの思いでSOSを出してきてくれたとき、これまでの生活や妊娠の経緯や本人の思いを聞き、一緒に同行して、医療や福祉につなげて、出産を迎えることができれば、その女性や赤ちゃんの命を守ることができるんだという経験は大きかったです」(土屋さん) こうして、のちに『“にんしん”をきっかけに、だれもが孤立することなく、自由に幸せに生きることができる社会を実現したい』という理念をもとに活動を行う認定NPO法人ピッコラーレの前身団体がつくられたのです。

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