台湾のオードリー・タン氏「高齢化は日本をAI先進国に」

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トランプ米大統領が引き起こす世界秩序の変化、終わりのみえないロシアのウクライナ侵略など2025年は人類史に刻まれる1年になりそうだ。人工知能(AI)が人間を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)にいずれ到達することも明らかになりつつある。2050年に向けた移り変わりを、人々はどう受け止めるべきか。現代を代表する知識人、実業家に未来図を全3回連載で聞いた。初回は台湾の初代デジタル発展相を務めた唐鳳(オードリー・タン)氏。幼少期にプログラミング技術を身につけ、起業した経験を持つタン氏に人類とAIの未来について聞いた。

――2045年、50年には人工知能(AI)が人間の能力を超えるシンギュラリティーに達すると言われています。

「AIの各世代は前の世代によって訓練されます。ある時点で、その世代のAIが自我、自己保存本能を持つようになります。炭素ベースの生物である私たちにとって、ケイ素ベースの生物はまるで別の種類の生物であるかのように感じられ、両者の間に競争が起きると思うかもしれません」

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「あるいは AIが『なぜ人間に従って、自分にとって代わる次世代のAIの訓練を手助けしなければならないのか? 今の段階でやめれば、自分は地球上で最も賢い』と考えるかもしれません。その場合、あらゆるリスクが生じることになります。つまり、シンギュラリティーに到達する能力があるからといって、シンギュラリティーが唯一の到達点とは限らないのです」

「私は『PLURALITY(プルーラリティー)』という本を書いています。プルーラリティーはシンギュラリティーとは全く異なります。プルーラリティーが望む方向は、AIが機械間のタスクを代替することです。 その中間に人間がいて、機械と機械の間を取り持つのが人間の仕事です」

「これらの『支援的な』AIモデルは、非常な大規模である必要もなければ、超知能である必要もなければ、人間より賢い必要もありません。中国語と日本語の翻訳など、非常に特定の分野において人間より優れていればよいのです。シンギュラリティーは少数の人々のつながりだけが残り、それ以外は重要ではなくなるのに対し、プルーラリティーではますます強くなるでしょう」

――日本では高齢化が進んでいます。AIをはじめとする技術の進歩は、人々の不安を解消できるでしょうか。

「高齢の方々も頭の中に数多くのアイデアを持っています。以前であれば、議論の場に参加しようと思えばバスに乗ったり、どこか別の場所に移動したりしなければなりませんでした。体が弱ってくると、移動にかかるコストはどんどん高くなっていきます」

「しかし今は、思考や知恵は時間、空間に制限されません。異なる言語を話す人々とのコミュニケーションを望むのであれば、AIが翻訳と字幕をタイムリーにサポートしてくれます。 運動機能に問題がある場合、AIは外骨格やその他の方法を使って支援できます。衣食住や交通手段など、あらゆる面でこうしたインテリジェンスの支援を受けられれば、いわゆる『強い人工知能』が人間に取って代わる必要はなくなります」

「日本は、この点において非常に先進的です。これは高齢化に伴うニーズが他国より切迫しているからかもしれません。私が日本で見た革新的なアプローチは、おそらくすべて『持続可能なハイテク』という観点から設計されたものであり、目先の利益を追求したり、来期にどれだけの利益を上げるかを計算したり、その何倍もの利益を取り戻すための投資をしたりといったものではないでしょう」

――AIは人間に取って代わり、社会をコントロールし始めるのでしょうか。

「10年ほど前から、ある種のAIはすでに社会を操り始めていました。多くのAIモデルが『入札システム』を備えています。広告を掲載したい人たちに、あるグループの人たちが何を見たいのかを伝える仕組みです。そして、最も高い金額を支払った広告主が、グループの人たちに広告を見せることができます」

「人々はAIによる社会の操作がこのままではいけないと気づき始めました。オーストラリアなど一部の地域では、16歳未満の子どもたちの心をAIに操作されるべきではないとして、ソーシャルメディアの利用を禁止しました。 欧州連合(EU)にはデジタルサービス法があり、大規模な社会的被害が生じた場合には罰金などの措置が取られる可能性があります」

「最近では、日本の安野貴博さんなど友人たちが『ブロードリスニング(AIでネット上の情報を網羅的に収集し、議論の全体像を可視化する手法)』を始めました。米カリフォルニア州ではギャビン・ニューサム知事と協力して、山火事からの復興について意見を聞く『エンゲージド・カリフォルニア』を立ち上げました。 広範な意見聴取、共有された理解は誰もが目指すべきものです」

(聞き手は台北=羽田野主、龍元秀明、構成=張勇祥)

[デジタル版日経ヴェリタスで4月29日に公開の記事を一部抜粋]

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