治療抵抗性うつ病へのesketamine、併用薬の比較
イタリア・Sapienza University of RomeのAntonio Del Casale氏らは、治療抵抗性うつ病(TRD)にesketamineを使用した場合、併用薬としてセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のいずれが優れているかをリアルワールドデータによる後ろ向き解析で検討。「全死亡、入院、うつ病再発ではSNRIとの併用の方がリスク低下は大きかったが、自殺企図はSSRI併用の方がリスクが低かった」とJAMA Psychiatry(2025年4月2日オンライン版)に報告した(関連記事:「治療抵抗性うつ病、esketamineに即時効果」「治療抵抗性うつ病、次世代薬の開発進展」)。
TriNetXから20カ国、90施設超の臨床データを抽出
ケタミンの鏡像異性体であるesktamineは、NMDA受容体への親和性がケタミンの4倍と強く、即効性の抗うつ薬としてTRDに有効とされている。同薬は鼻スプレーとして使用されるが、実臨床においてはSSRIあるいはSNRIと併用されるのが一般的だ。SSRIとSNRIはさまざまな研究で比較検討されているが、esketamine+SSRIとesketamine+SNRIのベネフィットを比較した報告は少ない。
Del Casale氏らは20カ国、90以上の医療施設の電子記録データをTriNetXのglobal health research networkから抽出し、esketamine開始から5年間の全死亡、入院、うつ病再発、自殺企図を評価項目として検討した。
平均年齢46歳、5万5,000例、5年間の臨床転帰を比較
esketamine+SSRIあるいはesketamine+SNRIによる治療期間が約5年のTRD患者のデータを2024年9月にTrinetXから入手し、年齢と性を傾向スコアマッチングで調整した5万5,480例を解析サンプルとした。平均年齢は、esketamine+SSRI群(SSRI併用群、2万7,740例、女性57.7%)が46.0±21.3歳、esketamin+SNRI群(SNRI併用群、2万7,740例、同58.6%)が45.9±21.9歳だった。
全死亡率(SSRI併用群9.1% vs. SNRI併用群5.3%)、入院率(0.2% vs. 0.1%)、うつ病再発率(21.2% vs. 14.8%)については、SSRI群に比べSNRI併用群で有意に低かった(全てP<0.001)。
一方、非致死的な自殺企図に関しては、SSRI併用群の0.3%に対し、SNRI併用群は0.5%と若干ではあるがSSRI併用群で有意に低かった(P=0.04)。
併用薬によるベネフィットの差を意識した薬剤選択を
以上の結果について、Del Casale氏らは「うつ病治療薬の中でもSSRIとSNRIは忍容性に優れ、一次治療薬として多数の患者に処方されているが、約3分の1は両剤を含む従来の抗うつ薬には反応せずTRDとなってしまう。esketamineは効果発現が速やかで、TRDに対する治療薬として有望だが、今回の知見から併用薬による臨床ベネフィットの違いが明らかになった」と考察。「今後はランダム化比較試験(RCT)やQOL評価を実施し、個々の患者の状態に合わせたprecision-based approachによる併用薬の選択が求められる」と付言している。
(医学ライター・木本 治)