超大型ロケットSLS、スペースシャトルの「心臓」を引き継いで月へ

Image: NASA

スペースシャトル、超憧れてた。

NASA(アメリカ航空宇宙局)が開発を進めてきた超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」が、ついに有人飛行に向けて最終段階に入りました。

SLSの最大の特徴は、 スペースシャトル時代から使われてきた液体燃料ロケットエンジン「RS-25エンジン」を搭載している点。シャトルのように繰り返し使われるのではなく、SLSでは打ち上げごとに1回限りで廃棄されますが、「レジェンド級のエンジン」を新しい機体に組み込み、最先端の月探査に挑む計画として注目されているんです。

先日、アメリカ・フロリダ州にあるケネディ宇宙センターでRS-25エンジンの最終チェックアウト試験が無事完了。2026年4月以降に予定されているアルテミス2ミッションに向けて大きな一歩を踏み出しました。

シャトルの魂を継ぐRS-25

SLSに搭載される4基のRS-25エンジンは、かつてスペースシャトル(再使用型宇宙往還機)で何度も宇宙を往復してきたベテラン揃い。

今回使われる4基のうち3基は、通算22回のシャトル飛行を経験済み。1基は2011年のシャトル最終ミッションを担当し、別の1基は国際宇宙ステーション(ISS)の組み立てにも貢献しました。唯一の新人エンジンも、SLSでいきなりデビューを果たす予定です。

エンジニアのビル・マドル氏は「エンジンは語りかけてくる」と表現しています。微細な振動や温度の変化で「不調」や「整備が必要だ」と知らせてくれるそうです。熟練チームがその声に耳を澄ませ、今回の試験でも全機が健康であることが確認されました。

一筋縄ではいかない巨大プロジェクト

シャトル時代の技術を流用することで「開発コストを抑える」というのがNASAの狙いでした。しかし現実はそう簡単ではありません。

SLSはすでに予算を6000億円以上オーバーし、打ち上げ1回あたりのコストも想定より約200億円高騰しています。最新の監査報告によれば、アルテミス計画の単独ミッションで少なくとも42億ドル(約6500億円)が必要になる見通しです。

この規模の開発費は当然議論の的になります。トランプ政権は将来的にSLSとNASAが開発した有人宇宙船「オリオン宇宙船」を段階的に廃止する方針を示しています。一方で、上院は今週、アルテミス計画にさらに60億ドルを追加拠出する法案を可決。まだしばらくSLSの物語は続きそう。

それでも続く「人類の月探査」

アルテミス2は、50年以上ぶりの有人月周回飛行になります。ロケットの総重量は575万ポンド(約2600トン)。アメリカの航空宇宙・防衛企業ノースロップ・グラマンが製造した固体ロケットブースターも含め、かつてのスペースシャトルのDNAを色濃く引き継ぐ巨大システムです。

この8分半、RS-25が燃えている間、宇宙飛行士の命は私たちの手の中にある」。そう語るエンジニアの覚悟は、派手な月面計画の裏側にある緊張感そのものです。

コストもリスクも桁違いですが、人類がもう一度月を目指す物語は、試行錯誤も含めて魅力的。SLSの正式な本格運用はアルテミス2以降になる予定ですが、レジェンド級のRS-25エンジンが最後にもう一度火を吹く瞬間に立ち会えると思うと思わず興奮してしまいます。

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