女子高生に広がる市販薬の乱用、その背景にある“深刻な現実”とは?(ダイヤモンド・オンライン)
8:31 配信
年々増え続けている「子どもの自殺」。特に最近は、市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)が絡んでいることが目立つ。オーバードーズの様子を自ら配信するケースもあり、SNSなどを通じた社会的な影響も無視できない状況となっている。なぜ市販薬への依存が増加しているのか、その背景を探る。※本稿は、渋井哲也『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。● 「自殺配信」をした 2人の女子高生 2023年4月13日午前4時ごろ、千葉県松戸市内のマンション敷地内に少女2人が倒れているのを住人の男性が発見し、110番通報した。1人は発見時にはすでに死亡していた。もう1人は搬送先の病院で死亡が確認された。2人は、自殺する瞬間まで動画配信をしていた。 鎮咳薬Aを飲み、酩酊状態だったと見られている。 亡くなった女子高生のうち1人は、新潟に住むXだ。恋愛について悩んでいたともいわれている。Xと何度かTwitterのDMでやりとりをし、「一度、電話をしたことがある」という同年代の女性は、「結構前に聞いた話ですが、Xは推しとうまくいかなくて悩んでいたみたいです」と話す。亡くなる直前、YouTuberの男性との恋愛で悩んでいた。 《都合のいい女すぎて鬱。死にたい》
もう1人の女子高生は千葉県松戸市在住のY。動画では、少女の1人が「怖い……怖いよ」と繰り返したのち、「大丈夫。行こう」「せーので行くよ?」「せーの」という会話がされていた。そして、2人は配信画面から消えた。
Yを知る複数の人物に話を聞くことができた。そのうちの1人が、数年前から毎日のように通話していたという女性クミ(仮名)だ。 「好きなバンドが同じで仲良くなりました。『神聖かまってちゃん』です。LINEで話していたときは、『死にたい』とよく私に話してくれたりしていました。醜形恐怖症や躁鬱(そううつ)で外に出られないなどと話していました。 ただ、見た目は可愛かったし、実際に会ったときは、Yは悩んでいることがわからないくらい陽気さや明るさがありました。急に歌い出したりとかもしていました」● 外国出身の母親と 子どもの関係性の難しさ Yの悩みはいったい何だったのだろうか。 「醜形恐怖症や躁鬱のほか、家族関係や将来のこと、学校のことで、精神的に参っていました。最近も、1人で自殺未遂をしていました」 家族の悩みとはどんなものだったのだろうか。 「聞いた話では、母親はアジア系の外国人で、かつ、精神を患っていたということです。精神疾患のためか、Yが小さいころから、母親自身も自殺未遂をしたり、『お前なんか生まなければよかった』など暴言を吐かれていたようでした。家の中の物を投げられたりしていたようです。 それに、けんかをするときは、母親は外国語なので、何を言われているのかわからなかったそうです。母親は夜の仕事をしていると言っていました。おそらくパブやスナックだと思います。父親に隠れて浮気をしているかもしれないと話していました」 母親との関係悪化を理由にYは父親に離婚を進言した、という。 「Yは父親に『離婚したほうがいい』と言ったこともあるようです。しかし、父親からは、反応がなかったみたいです。母親のことが好きなので離れられないみたいだとも言っていました。 基本的に父親は優しいようですが、お酒が入ると、具体的にどうなるのかは聞いていなかったですが、気が大きくなるとか、母親は父親に依存しているというようなことも言っていました」
母親が実際に浮気していたかどうかはわからない。ただ、パブやスナックで働いていたとなると、営業として電話やLINEをしたり、同伴やアフターなどで食事することもあるだろう。
そのため、客と過ごす時間が多かったことは想像できる。それをYが浮気と誤認した可能性はある。Yと母親は、そのことをきちんと確認できない関係だったのだろうか。 外国出身の母親とその子どもとの関係性は難しいことが多い。筆者も同種の問題を取材したことがあるが、日本社会と母親の母国との文化的な違いから、関係が良好かどうかわかりにくいケースもある。こうした親子関係への支援は、なかなか行き届かない。● 市販薬をODする様子を ツイキャスで実況中継 市販薬を飲みながら、自殺配信をするという若者は初めてではない。おそらく、知られている範囲で最初に配信を行ったのは、2013年11月24日に滋賀県で自殺した女子中学生だ。ハンドルネームは「ろろちゃん」。ツイキャスで投身自殺するまでを実況中継していた。以前からネットで活動をしていたため、一部では話題になった。 中継のときは自殺を止める書き込みもあったが、ろろちゃんは「ごめんなさい。ごめんなさい」と繰り返した。 バンド・神聖かまってちゃんは、この事件に影響されてか、「るるちゃんの自殺配信」という曲を出しているが、歌詞の中では、スマホの文字以外はろろちゃんの自殺を想起させるものはない。松戸の女子高生たちもこの曲を聴いていた。 18年7月1日には、奈良県大和郡山市の近鉄橿原線近鉄郡山駅構内で、市内に住む県立高校1年の女子生徒(16)が特急電車にはねられ死亡した。この女子高生はTwitterに自殺の理由をつぶやいていた。また、Instagramでは鎮咳薬Bの写真が掲載されていた。自殺直前に鎮咳薬BのODをしていたと見られている。 最近の自殺配信で共通するのは、市販薬の過量摂取が関係していることだ。筆者の取材でも、自殺配信だけでなく、類似の自殺、もしくは自殺未遂、自傷行為をしている若年層が増えていることを実感する。
松戸市で2人の女子高生が自殺したときにも、直前に市販薬や処方薬をアルコール飲料と一緒に飲んだと思われる写真がTwitter にアップされていた。
「(亡くなった女子高生のTwitterにあがっていた画像にもある市販薬の)鎮咳薬Aによる高揚、興奮、もしかすると現実感喪失や幻覚が、アルコールの作用によって強まり、死に対する恐怖感がなくなり、あのような行動を促したと思われます」 こう話すのは、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・薬物依存研究部部長(精神科)の松本俊彦医師。Twitterを読むと、2人には以前から希死念慮があり、市販薬の過量摂取をしていた形跡がある。● なぜ市販薬の依存が 増加しているのか? 若者の間では、薬物依存の中で、市販薬の占める割合が近年増加傾向にある。 前出の松本医師が中心となり、国の精神科医療施設で調査を行った(注1)。この調査は1987年以来、ほぼ隔年で実施されているもので、同じ方法で実施している。 22年度の調査は1531の対象施設のうち、1143施設の協力を得た。このうち、患者から同意を得られた2468症例を分析した。 それによると、市販薬の依存は10、20代の割合が多く、違法薬物経験者は少ない。特に10代の薬物乱用で、市販薬が多用されていることを明らかにした。覚醒剤や大麻、コカイン、ヘロイン、MDMAなどの違法薬物の割合が多い30、40代とは傾向が異なる。しかも、女性の割合が多い。 2014年の調査では、10代の市販薬依存の割合は0%だった。それが16年の調査では25%に増加した。 18年の調査では41.2%となり、20年の調査では56.4%と半数を超えた。そして22年の調査では65.2%と、7割に迫る勢いだ。それだけ市販薬に依存する傾向が強まっている。街中で入手できるほか、インターネット経由で手に入れる若者たちが多くなっている。
注1「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」(研究分担者 松本俊彦 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部 部長)『薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究』(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 研究代表者 嶋根卓也)2023年3月31日。
● 非行歴のない女子高生が 「市販薬OD」に走る理由 もちろん、トー横という限られた場所だけで市販薬のODが問題になっているわけではない。 21年12月、滋賀県守山市で、通信制に通う京都市内の女子高生がODで死亡した。使われた薬は、病院で処方される睡眠薬や抗不安薬、市販されている咳止め薬など。SNSで知り合った2人とODをするために集まっていた、という。 「10代の薬物依存で問題になっているのは覚醒剤でも大麻でも、脱法ハーブでもありません。ドラッグストアで簡単に買える市販薬の乱用は、コロナ禍でさらに増えています。 これまでの調査では、脱法ハーブ乱用の当事者は男の子が多く、高校中退で、ほかにも非行歴があったんです。いわば逸脱行動とセットでした。しかし、市販薬の乱用の場合、女の子が多いんです。しかも高校在学中か、高校を卒業しています。ほかの非行歴はありません。彼女たちは生きづらさを緩和するためにODをしているのです」(松本医師) どのくらいの高校生が市販薬を乱用しているのか。「過去1年以内」の経験を見ると、高校生全体の1.57%、約60人に1人の割合で市販薬乱用をしている(注2)。 男女別では、男性が1.2%なのに対し、女性が1.7%で、女性比率が高い。学年別では、1年生が1.4%、2年生が1.6%、3年生が1.8%。学年が上がるにつれて、経験者が増える。 コロナ禍も手伝ってか、違法薬物の経験率は下がったが、市販薬乱用経験率が増えた、ということになる。
注2「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 研究代表者 嶋根卓也)2022年12月31日
ダイヤモンド・オンライン
最終更新:9/16(火) 15:20