瀬戸内海での養殖カキ大量死は「自然災害」か…激甚災害指定求める声も 宮城では未確認

広島県呉市沖で水揚げされた、中身のなくなったカキ殻=18日

「海のミルク」とも呼ばれる冬の味覚、カキに異変が起きている。瀬戸内海の一部海域で8割近くが大量死し、水揚げ時期を迎えても出荷が見込めない地域が出ている。海水温の高さが影響したとみられる大量死は瀬戸内海の他の産地でも続発。関係者からは一連の問題を自然災害に位置付け、「激甚災害」の指定を求める声も上がる。ただ東北や三重などの瀬戸内海以外の産地では大量死は確認されず、原因究明には相当の時間を要する可能性もある。

「高塩分」「酸素不足」疑う声

水産庁は11月、カキ養殖を行っている各府県に状況を聞き取り、結果を公表した。それによると、全国一の生産量を誇る広島県の一部地域で6~9割のカキの斃死(へいし)が判明。その割合は兵庫県でも「おおむね8割」、香川県でも「おおむね5~9割」に達した。推測される大量死の原因を尋ねたところ「高水温」でほぼ一致し、「高塩分」や「酸素不足」と答える自治体もあった。

一方、東北や三重をはじめとした瀬戸内海以外のエリアでは特段の大量死は確認されなかった。生産量2位の宮城県の担当者は取材に「大量死の情報は入っていないが、東北の海も海水温は高くなっている。状況を注視したい」と話した。

イベント中止に危機感

「このままでは資金繰りが悪化し、養殖の継続ができない生産者が発生する」。11月末、兵庫県の斎藤元彦知事を前に、兵庫県播磨灘カキ生産者協議会の川端浩司会長が窮状を訴えた。

約8割のカキが斃死し、かろうじて生き残った個体も身入りが悪く、出荷できる状態でないものが多い。来年以降も同様の事態に陥るのではと懸念する生産者も少なくないという。

全国トップの生産量を誇る広島県でも大量死が問題に。関連イベントの開催を取りやめる動きも広がり、地域経済や観光への影響を懸念する声も漏れる。

広島県西部の大竹市。平成14年から続く地元の「おおたけカキ水産まつり」が生育不良で初めて中止に追い込まれた。来年1月に予定していたが、必要数量の確保が見通せなくなった。市の担当者は「市内で5千人規模のイベントはそうない」と中止に肩を落とす。このほか宮島観光協会(廿日市(はつかいち)市)が主催し、来年2月に予定されていた「宮島かき祭り」も中止を余儀なくされた。

大量死による減収で養殖業者の事業継続が危ぶまれる中、広島県は養殖業者が資金を借り入れる際の利子を負担する支援策に乗り出すことを決めた。就任間もない横田美香知事はカキの大量死を県産業の危機と捉え、間断なく手を打つ考えだ。

複数要因絡んだか

同じ瀬戸内海にあってもカキの大量死が確認されていないエリアもあり、不漁のイメージが広まることに警戒感を抱く関係者もいる。

広島での大量死を巡り、自民党の議連は、事業者の資金繰りを支援するため激甚災害の指定を急ぐよう木原稔官房長官に求めた。要望書にはこんな訴えが盛り込まれていた。「気候変動に起因する自然災害と言える状況にある」

兵庫県水産技術センター(明石市)の担当者は、「養殖カキは生育過程で2~5割死ぬのが一般的だが、現時点で8割も死ぬのはあまりにも高い」と話す。

大量死の原因ははっきりしていないが、同センターの担当者は、夏場の高水温でカキの産卵回数が増えて体力が落ちたところに、少雨の影響で河川からの栄養供給が減ったことなど複数の要因が絡んだ可能性に言及する。

一方、瀬戸内海以外で被害が限定的な理由は判然としない。カキの養殖は地域によって環境や手法が異なることもあり、「原因究明と対策には3~5年は見ておく必要がある」と述べた。(矢田幸己、桑島浩任)

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