教育レベルの高い人と低い人、脳卒中後に認知機能が急激に低下するのはどっち?|@DIME アットダイム

英語には、「The higher you fly, the harder you fall(高く飛べば飛ぶほど、落下も激しくなる)」という諺があるが、脳卒中後の後遺症についてもこれが当てはまる可能性があるようだ。大学以上の教育を受けた人は高校卒業(以下、高卒)未満の人に比べて、脳卒中後に実行機能の急激な低下に直面する可能性のあることが、新たな研究で示唆された。

実行機能とは、目標を設定し、その達成に向けて計画を練り、問題に柔軟に対応しながら遂行する能力のことだ。米ミシガン大学医学部神経学教授のMellanie Springer氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に3月26日掲載された。

この研究では、1971年1月から2019年12月の間に実施された4つの研究のデータを統合して、脳卒中経験者における教育レベルと認知機能低下との関連が検討された。対象者の総計は2,019人(女性51.9%、白人61.4%)で、研究参加時に認知症のあった人は含まれておらず、追跡期間中に脳梗塞(1,876人)と出血性脳卒中(143人)を発症していた。教育レベルは、高卒未満が16.7%(339人)、高卒が30.4%(613人)、大学進学で学位未取得が24.0%(484人)、大学卒業(以下、大卒)以上が28.9%(583人)だった。認知機能は、全般的な認知機能、記憶力、実行機能の3つの側面が評価された。

その結果、脳卒中の発症直後では、大卒以上の人では高卒未満の人に比べて、全般的な認知機能のスコアが1.09点(95%信頼区間0.02~2.17)、記憶力のスコアが0.99点(同0.02~1.96)、実行機能のスコアが1.81点(同0.38~3.24)高いことが明らかになった。しかし、脳卒中後の追跡期間においては、教育レベルの高い人では高卒未満の人に比べて、1年当たりの実行機能の低下速度が速かった。

具体的には、大卒の人では毎年−0.44点(95%信頼区間−0.69~−0.18)、大学進学で学位未取得の人では毎年−0.30点(同−0.57~−0.03)の速さで低下していた。アルツハイマー病の遺伝的リスク因子であるAPOE-ε4アリルの保有は、教育レベルと脳卒中後の認知機能低下との関連に影響を与えていなかった。また、個人が経験した脳卒中の回数も、この関係に影響を与えていなかった。

研究グループは、教育レベルの高い人の方が脳卒中後の脳機能低下が遅いだろうと予想していた。しかし、本研究では予想に反して、教育レベルが高い人は、高卒未満の人に比べて脳卒中の発症直後では認知機能テストで良い成績を収めたものの、その後の数年にわたる追跡期間中に認知機能が急低下する傾向のあることが示された。このことを踏まえてSpringer氏は、「本研究結果は、高等教育を受けることで、脳卒中後に脳のダメージが重大な閾値に達するまではより高い認知能力を維持できる可能性があることを示唆している。しかし、閾値を超えると認知機能が教育レベルにより補われなくなり、急速に低下する可能性がある」と述べている。

論文の上席著者である、ミシガン大学内科・神経学教授のDeborah Levine氏は、「初発の脳卒中後の認知症は、脳卒中の再発よりも大きな脅威となる」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。実際、脳卒中は認知症のリスクを50倍も高めるとされている。同氏は、「脳卒中後の認知機能低下や認知症を予防したり遅らせたりする治療法は、現時点では存在しない。この研究は、脳卒中後の認知機能低下の原因や、認知機能低下のリスクが高い患者についての理解を深め、仮説を立てるのに役立つだろう」と付言している。(HealthDay News 2025年3月27日)

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(参考情報) Abstract/Full Text

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2831878

Press Release https://www.michiganmedicine.org/health-lab/highly-educated-people-face-steeper-mental-declines-after-stroke

構成/DIME編集部

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