関税に動じぬ市場の楽観ムード、トランプ氏の強硬姿勢をむしろ後押し
トランプ米大統領は株式相場の上昇について、ウォール街が関税を支持している証拠だという。しかし投資家は、トランプ氏が最終的には関税方針を撤回すると読んでいるに過ぎない。
カナダからブラジル、アルジェリアに至るあらゆる国や地域への関税引き上げが発表される中、S&P500種株価指数は10日に最高値を更新。トランプ氏は同日のNBCとのインタビューで「関税は非常に歓迎されている。株式相場はきょう新たな高値を付けた」と述べた。
トレーダーやストラテジストの見方は、これとはほぼ正反対だ。関税が全面的に発動されるとはみていない。少なくともトランプ氏が警告したほど厳しいものにはならないとの見方だ。市場はトランプ氏が「解放の日」と呼んで関税を発表した後のように方針を転換すると確信し、関税を巡る今週の報道も交渉戦術の一環に過ぎないと考えている。貿易戦争の新たなエスカレートにもかかわらず、市場が冷静なのはこれが理由だ。
プルリミ・ウェルスのパトリック・アームストロング最高投資責任者(CIO)は、「トランプ氏は最大限の要求を突きつけて交渉を始めることが多いが、実際の政策はより穏やかなものに落ち着く傾向がある」と指摘。「市場の反応が比較的限られているのは、こうした懐疑論の表れだ」と話した。
一方で、トランプ氏が株価上昇を自身の経済政策への支持と捉えるのであれば、方針を引っ込める必要があるのかとの疑問も生じる。4月に関税措置が一時停止された背景には、米国債利回りが急騰し、株価下落でナスダック100指数が弱気相場入りしたことがあった。
市場が関税に過敏でなくなっている兆候として、ボラティリティー指標の低下が挙げられる。米株式市場の「恐怖指数」として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー指数(VIX)は今週、2月以来の水準まで低下。同様の米国債市場のボラティリティー指数は2022年以来の低水準となった。
これを過度な楽観の兆候と捉える向きもある。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)はダブリンでのイベントで、市場にはトランプ氏が計画する関税への警戒感が欠けていると指摘。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを強いられる可能性もあるとの見方を示した。
パンミュア・リベラムのストラテジスト、ヨアヒム・クレメント氏は、トランプ氏の政策がもたらすリスクを投資家は過小評価していると警鐘を鳴らす。仮に関税が現状水準で維持されても、インフレを悪化させ経済を圧迫すると同氏は予想。
「企業の利益率や売上高の伸びに打撃が及ぶのは避けられない」と続けた。
今のところ、市場の価格動向に大きな懸念は見られず、ビットコインや人工知能(AI)関連株といった投機的な資産が上昇を続けている。バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジスト、マイケル・ハートネット氏は、「誰も」経済や株式バリュエーションを心配していないとリポートで指摘した。
バンテージ・マーケッツのアナリスト、ヘベ・チェン氏は「市場はソフトランディングと関税リスクの円滑な解消という完璧な展開を既に織り込んでいる。これは現実とかなりかけ離れているように思える」という。「調整局面が訪れる可能性は十分ある」と語った。
原題:Markets So Unfazed By Tariffs That It’s Making Trump Bolder(抜粋)