市村正親「帝劇という船に乗っている感じがした」 豪華歴代俳優も集結。それぞれの思いが溢れた現・帝国劇場の大千穐楽

2025年2月14日より帝国劇場で上演されていた、CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』が、2月28日に千穐楽を迎え、現・帝国劇場は大千穐楽(おおせんしゅうらく)を迎えた。建て替えのため休館し、2030年の新・帝国劇場オープンを目指す。

現・帝国劇場は1966年に開場した二代目の帝劇。59年間で372作品(再演を除く)を上演し続けてきた。その最後の上演演目となった同コンサートは、AからGプログラムまで上演され、レギュラー出演者とプログラムごとのゲスト出演者が、帝劇で上演されたミュージカル全53作品の楽曲を披露。その豊かな歴史を振り返り、未来へと繋げていく豪華な祭典となった。

それぞれに帝劇の思い出を語るMCも心に残った。この日のレギュラーキャストは、井上芳雄、浦井健治、小野田龍之介、甲斐翔真、佐藤隆紀(LE VELVETS)、島田歌穂、三浦宏規、宮野真守、一路真輝、木下晴香、瀬奈じゅん、花總まり、屋比久知奈。千穐楽とあって、帝劇一番の思い出を語ったり、一層盛り上げて客席を笑顔で包んだり、感極まるキャストもいたり。貴重な思い出を共有してもらえることも嬉しい機会になった。

Gプログラムゲストの、市村正親、今井清隆、鳳蘭が、1967年に帝劇で初演され、森繁久彌、西田敏行、市村と受け継いで長く上演されてきた、ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』から「陽は昇り又沈む」を思いを込めて歌ったシーンが印象的だった。歌い終えた市村は「『喜びも悲しみも』という歌詞が、帝劇という船に乗っている感じがした。帝劇のためのような歌」、鳳は「血液の中に染み込んでくるような曲。歌いながら涙が出てくる」、今井は「名場面の連続。長く続いている作品はすごい」と話し、3月7月(金)から明治座で上演される本作の力を語った。

また今井は、2011年『レ・ミゼラブル』の稽古中に、東日本大震災が起きた時を振り返り、「非常時に役者は何の力にもなれないと無力感を感じたが、福島で被災したファンの方から『勇気を出して観に行って、生きる力が湧いた』と手紙をもらい、我々の仕事は無駄じゃないんだと知らせていただいた」と帝劇の思い出を語った。今井が英語で歌った『ラ・マンチャの男』から「見果てぬ夢」が一層心に沁みた。

“ミスター・帝劇”と呼ばれる市村は、自身の付き人時代からの歴史を振り返り、客席から観ていた舞台に『ミス・サイゴン』で立つことができた運命を感じ、「帝劇が『いつかおいで。待ってるよ』と言ってくれていた気がする。新しい帝国劇場に立つために頑張っていきたい」と語り、帝劇ステージの“0番”にキス。「0が唇に見えた。しばしのお別れに『待ってろよ』と」と微笑んだ。

同じくゲスト出演した田代万里生、笹本玲奈は、『エニシング・ゴーズ』から「All through the Night」をデュエット。毎回、進行役の井上とゲストとのやりとりも見どころのひとつだったが、曲紹介と同時にサプライズで先行登場した田代が、井上に後ろから抱きつき、戸惑う井上を離さないという展開に。仲の良いふたりだからこその笑いが巻き起こる。さらに笹本は『マリー・アントワネット』から「100万のキャンドル」を、再び登場した市村が、自身の代表作『ミス・サイゴン』から「アメリカン・ドリーム」を熱唱。市村が『Thank you 帝劇!!!』と叫ぶと、大歓声に包まれた。

前日はハンドマイクで歌ったが、900回を超えて演じてきたように両手を使ってパフォーマンスしたいと、ヘッドセットマイクに変えて、本公演さながらのステージを歌い踊り、「悔いはないです!!!」とやり切った様子。それでも「まだやれるなと思った。新しい帝劇の『ミス・サイゴン』でオーディションを受けようと思います!」と新たな夢を語った。『ミス・サイゴン』でキムを演じてきた笹本は、市村からの多くのアドバイスに「大切な言葉なので心に留めておきます」と改めて感謝。子役時代から憧れ続けた帝劇への思いを「人間としても女優としても、苦しい悲しい思いが強くしてくれた。私の夢でした」と愛を込めた。田代は「一番のラブソングは芳雄さんに捧げてみようかな」とサプライズを振り返ったが、井上は「自分の最後の帝劇の出番にやろうと思う万里生がすごい」と苦笑い。田代は帝劇への思い出を振り返りつつ、「先人達の思いを受け継いでこの舞台に立たせていただいている。次の時代に受け継いでいきたい」と力強く誓った。

この「帝劇コン」を0番で率いて来た井上の活躍ぶりにも拍手を贈りたい。現・帝劇でミュージカル俳優として生まれ、育ち、ミュージカル界を率いる存在となった井上。各プログラムでゲストを迎え、その中心に立って幕を下ろし続ける姿に魅せられた。歌唱はもちろんのこと、MCとしての腕も存分に発揮して、華やかに、楽しく、しなやかに導く自在さは唯一無二。その井上の「『帝劇への恩返し』の気持ちでいたが、最後まで宝物をくれた」という帝劇への思い。涙を流しながら自身の思いを語る姿に胸を打たれた。劇作家・井上ひさしの『劇場は夢を見るなつかしいゆりかご その夢の真実を考えるところ』という言葉を紹介し、「寂しいですが、僕たちは(新帝劇が建つまでの)5年間もいろんな劇場に出続けて、皆さんに会いたいと思い続けているので会いにきてください。そして、帝劇が見せてくれた夢の真実を考え続けて、持ち寄って、新しい帝劇でお会いしたいと思います。帝劇本当にありがとう! 僕たちは帝劇が大好きです!」と呼びかけた。

大千穐楽には、コンサート出演者の他に、これまでに帝国劇場の舞台に立ってきた多くの俳優達が集まり、カーテンコールでは舞台上に集結。大千穐楽公演を観劇していた俳優陣が、一人ひとり紹介を受けてステージにのぼった。佐久間良子、北大路欣也、鹿賀丈史、林与一、堂本光一ら、その錚々たるラインアップに、これぞ帝劇と唸らされた。そして、観客も一緒に全員でミュージカル『レ・ミゼラブル』の名曲「民衆の歌」を歌った。現帝劇の代表作となった『レ・ミゼラブル』の楽曲を、さまざまな作品で生きた、さまざまなキャリアの俳優達が集い歌うというボーダーレスな光景は、この劇場の懐の深さを表していた。出演者、スタッフ、観客が、それぞれの思いを帝劇に向け、その愛と感謝を贈る至極の時。これ以上の送り出しがあるだろうか。

歌い終えて井上にマイクを向けられた堂本は、「絶対俺じゃない!」と恐縮しつつ、「この場にいるだけで本当に光栄です。本当にありがとうございます」と感無量の様子。「最後に」とバトンを渡された市村は「感動!!!」と叫んだ。名残を惜しむ大歓声の中、最後の緞帳が降りた。

日比谷の劇場街のシンボルでもある帝国劇場。この舞台に立ち続けてきたベテランたちの色濃い歴史、後を追うんだ次を担うんだと宣言する新世代の決意。またこの舞台に立ちたい、この劇場に集いたいと願う人々の思いを受け止めて、しばしの眠りについた。再び目覚める時を心待ちにしたい。

取材・文・撮影:岩村美佳

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