「声の調子を合わせるやり取り」が自閉症の子の成長を伸ばす

療育初期の「声の調子の合わせ方」が1年後の成長を予測する手掛かりになるとは、どのような意味ですか?
療育開始後の声の抑揚・リズムの変化を分析すると、伸びやすい子は多様さと秩序が両方現れ、1年後の成長につながる可能性が高いと報告されています。
家庭で日常的にできる声のやり取りのヒントは何ですか?
親が子どもの声に合わせ返すとき、少し違う声で新しい流れを作るなど、声を通じたリズムの合わせを繰り返すことが効果的と示されています。
この研究にはどのような限界がありますか?
小規模なサンプル(25名ほとんど男子)で、声のみを対象にしており、ジェスチャーや視線など他の要素は含まれていません。

自閉症の子どもと先生がやり取りをするとき、その声のリズムや抑揚がどのように噛み合うか――。 それが、療育の成果を1年後まで見通せる重要な手がかりになることが、新しい研究で明らかになりました。

この研究を行ったのは、イタリアのトレント大学とフランスのソルボンヌ大学を中心とする研究チームです。 対象となったのは、自閉症と診断された幼児25人。 子どもたちは1年間にわたり、遊びややり取りを中心とした自然な形の療育プログラムを受けていました。

研究者たちは、その療育の最初のセッションと、数か月後のセッションを詳しく分析しました。

焦点となったのは「プロソディック・シンクロニー」という現象です。 これは少し専門的な言葉ですが、簡単にいえば「声の調子を合わせる」ことを意味します。

人と人とがやり取りをするとき、声の高さや強さ、リズムは自然と影響し合います。 相手がゆっくり話せばこちらもゆっくり返す、相手が明るく高い声を出せばこちらも少し声を弾ませる。

そうしたやり取りの噛み合いが、研究では重要な手がかりとなりました。

研究の結果、療育開始から最初の数か月で、この「声の調子の合わせ方」がどう変化するかを見るだけで、1年後に子どもがどれほど伸びているかを高い確率で予測できることがわかりました。

とくに大きな成長を見せた子どもたちには共通する特徴がありました。

声の抑揚やリズムが豊かになり、先生とのやり取りの中で多様な変化が生まれていました。 しかし、それはただのバラバラな変化ではありませんでした。

秩序を持って繰り返され、互いに通じ合うような声の流れが築かれていたのです。

つまり、伸びやすいケースでは「多彩さ」と「秩序」の両方が声のやり取りに現れていました。 先生が子どもの声に寄り添いながら、少しずつ新しい変化を取り入れ、また子どもがそれを受け止めて返す。

そうした繰り返しの積み重ねが、将来の成長につながっていたのです。

この知見は、先生だけでなく家庭で子どもと向き合う親にとっても大きなヒントになります。 たとえば日常の場面を思い浮かべてみてください。

お風呂で子どもが「おー」と声を出したら、親も同じように「おー」と返してみます。 次に、少し高さを変えて「お↑ー」と返すと、子どももそれに合わせて声を上げたりするかもしれません。

こうしたやり取りは単なる遊びのように見えますが、声を通じて互いのリズムや抑揚を合わせ合う、まさに「声の調子を合わせる」体験です。

朝の身支度のとき、子どもが小さな声で「んー」とつぶやいたら、親が同じ「んー」を少し長めに返す。 すると子どもはもう一度返してくれることがあります。

その繰り返しの中で、声のパターンは少しずつ広がっていきます。 散歩中に小鳥の声をまねして「チュン」と言ってみれば、子どもも真似して返すかもしれません。

声でつながる小さなやり取りが積み重なると、自然に「多彩さ」と「秩序」が育っていくのです。

このような声のやり取りは、言葉を使うことが難しい子どもにも開かれています。 意味を持った言葉でなくても、抑揚やリズムのある声、笑い声や泣き声も立派なコミュニケーションです。

親や支援者がそれに耳を傾け、少し合わせたり変化を加えたりすることで、声を通じた関わりが生まれます。

研究では、録音された1時間のやり取りを細かく区切り、どの部分で子どもが声を出し、先生がどう応じたかを自動で解析しました。 そして、声の高さや強弱の変化を数値化し、両者の声の噛み合い方を調べました。

人がひとつひとつ聞いて記録するのではなく、人工知能による解析を用いたことで、セッション全体を客観的に捉えることができました。

この方法は、先生の経験や主観に頼らずにやり取りの質をとらえる新しい可能性を示しています。 プロセスそのものを数値で見える化することで、支援の途中経過を早い段階から把握できるのです。

もちろん、この研究には限界もあります。 参加した子どもの人数は25人と少なく、ほとんどが男の子でした。 先生の多くは女性であり、性別による影響を完全に分けて考えることはできません。

また、今回は声だけを対象にしており、ジェスチャーや視線、体の動きといった他のやり取りは調べていません。

それでも、今回の研究が示した結論は明快です。 療育でよく伸びていく子どもたちは、早い段階から「声の調子が合っていく」ことを示していました。 先生が子どもの声に合わせるだけでなく、そこに新しい変化を誘い、さらに秩序を整えていく。

そのプロセスが、1年後の成長につながるというのです。

家庭で子どもと関わる親にとっても、この知見は大きな励みになるでしょう。 必ずしも特別な道具や難しい技術は必要ありません。 子どもの声に耳を澄ませ、合わせて返し、ときには少し違う声で新しい流れを作ってみる。

その繰り返しの中で、子どもの成長の芽が育っていく可能性があります。

イタリアとフランスの研究チームが行った今回の研究は、一見目立たないやり取りに大きな意味があることを教えてくれます。 声の調子を合わせるという、誰もが日常で経験するやり取りの中に、未来を変える力が潜んでいるのです。

(出典:Nature DOI: 10.1038/s41598-025-17057-3)(画像:たーとるうぃず)

うちの子は話すことができませんが、喜んでいるときはそれにあった声を上げています。

会話にはならなくてもそれを聞いて、私も話しかけて、私たちにはそれが会話になっていて楽しいものです。

たくさん聞いて、相手にあわせて、たくさん話しかけてください。

この研究は、あらためて重要なことを証明していると思います。

自閉症の子に多い「つま先歩き」その裏にある体と心のつながり

(チャーリー)

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