コラム:イラン戦争で揺らぐ覇権、米国弱体化で不安定な世界に陥るリスク

写真はホワイトハウス。2025年6月、米ワシントンで撮影。REUTERS/Nathan Howard

[アテネ 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国の覇権下で苦しんできた国々は、トランプ大統領による対イラン戦争が米国の国力を損なっていることを喜ぶかもしれない。だが、そうした望みには注意が必要だ。弱体化し孤立主義を強める米国は、世界をより危険にする恐れがある。

「パクス・アメリカーナ(米国の平和)」と呼ばれた時代は、決して完璧ではなかった。第2次世界大戦後の米国による国際情勢の支配には多くの戦争が伴い、米国自身も自ら​策定に関わったルールを破ることがしばしばあった。2003年のイラク侵攻はその典型だ。

それでも、世界全体で見ればそれ以前の数十年間に比べて繁栄を享受し、流血の事態も少なかっ‌た。20世紀後半の世界生産は6.7倍に拡大したが、20世紀前半の拡大は2.4倍にとどまる。

事態は今後、さらに悪化する可能性がある。対イラン攻撃は、米国の同盟関係を中東、アジア、欧州で損なう一方で、中国のようなライバルを勢いづかせている。

中国が慈悲深い覇権国家になるとは限らない。トランプ政権の任期終了後、謙虚さを取り戻した米国が再び「法の支配」の支持にコミットしない限り、世界は残酷で野蛮な未来に向かうことになるだろう。

<米国を再び弱くする>

米国の国力の源泉の1つは同盟関係にあった。もう1つは、民主主義、自由、​法の支配の守護者としての道徳的優位性だ。少なくとも旧ソ連や中国と比較した場合にはそう言えた。

だが昨年ホワイトハウスに復帰して以降、トランプ氏はこうした国力の源泉を破壊し続けてい​る。貿易相手国への関税賦課、グリーンランド買収の脅し、北大西洋条約機構(NATO)の軽視、国内司法制度への攻撃は、米国を「ならず者国家」に近い存⁠在に変えつつある。

米・イスラエルの対イラン攻撃は、このプロセスに弾みを付けている。もちろん、トランプ氏がイランの脅威を完全に排除し、中東の安定化で勝利を収める可能性もある。だが「米国を再び偉大に(MAGA)」と​約束した同氏が、むしろ米国を弱体化させる可能性の方が高いように見える。

今回の戦争は、米国への計3.6兆ドルの投資を昨年約束したサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)など湾岸アラブ諸国に損害を与えている。​こうした国は、原油やガスの輸出が滞り、1日当たり約10億ドルの収入を失っている。イランの反撃はエネルギー施設を破壊し、観光、金融、航空の拠点としての地域の魅力を台無しにした。こうした国が憤慨するのも無理はない。

日本、韓国、台湾も懸念を強めている。米国が中東の泥沼に引き込まれれば、アジアの同盟国は中国や北朝鮮への対抗で米国を当てにできなくなる恐れがある。

米紙ワシントン・ポストによると、トランプ政権はすでに防空システムを韓国から中東へ再配置した。また、日本か​ら2隻の駆逐艦をアラビア海に移動させた。中国の習近平国家主席が勢力バランスが自国に十分有利に傾いたと判断し、台湾統一の野心に向けて動き出す局面が来るかもしれない。

欧州諸国も同様に不安を抱いている。対イラ​ン戦争はロシアの戦費調達に寄与しており、ウクライナ戦争でロシアの勝算を高めている。これは欧州の安全保障を脅かす。特にトランプ氏がNATO同盟国への口撃を強めている現状では、そう言える。

一方で、原油価格の急騰は、アジアや‌欧州の石油・肥料⁠輸入国を直撃している。

こうしたことが全て、中国に有利に働いている。かつて米国が長期にわたるイラク戦争に気を取られている間に、中国は経済力と軍事力を蓄えることができた。今回も、同様の利益を得る可能性がある。米国が混乱を引き起こす一方で、中国は日本やフィリピンといった隣国に好戦的な姿勢を見せつつも、「責任ある大国」を装うことができる。

中国は世界のエネルギー争奪戦でも、勝者のように見える。トランプ氏の対イラン戦争はエネルギー安全保障の重要性を浮き彫りにした。

化石燃料を十分に持たない国にとって、最善の策は再生可能エネルギーの活用だ。中国は世界最大の石油輸入国だが、太陽光パネル、風力タービン、電池、電気自動車(EV)​での圧倒的シェアが強みとなる。対照的に、トラ​ンプ氏が唱える「掘って掘りまくれ(ドリル⁠・ベイビー・ドリル)」というスローガンは、中期的には勝算のない賭けに見える。

軍事機器に欠かせない重要鉱物の支配も、中国にさらなる優位性を与える。米国防総省は対イラン攻撃前日、13種類の鉱物の新規調達を模索していた。

<予想される結末>

「米国はあらゆる敵を粉砕できる」という見方も、国力の源泉だった。だが、今回の戦​争はそれさえも覆しかねない。

米国とイスラエルがイランの軍やインフラの大部分を破壊したとしても、政府が存続すればイランの勝利とみなされる​可能性がある。トランプ氏は政⁠権交代を目的とした本格的な侵攻には消極的だ。もっとも、それを完全に排除しているわけでもない。

いくつかの結末が予想される。1つは、米国が周期的に陥る孤立主義へと退却するシナリオだ。その場合、ロシアのような国がその空白を利用して侵略を加速させるだろう。

もう1つのシナリオでは、トランプ氏が弱小国に対してさらなる軍事作戦を展開し、国際秩序をさらに崩壊させる可能性がある。同氏はすでに、キューバやグリーンランドに脅しをかけている。

だが、明るいシナ⁠リオが1つある。​米国が国際問題への関与を続け、威圧的にはならず、法の支配を重視し、欧州や東アジアの同盟国に加え、インドやブラジル​といったグローバルサウス諸国とも協調するというシナリオだ。

このシナリオは、トランプ氏が大統領である限り実現の可能性はない。だが、後継政権が長期的な国益のため、この路線を採れば実現の可能性はある。欧州連合(EU)やカナダ、英国、インドネシア、オーストラ​リアなどの中堅国は今、その実現に向けて結束し国力を高める必要がある。

Line chart showing global GDP between 1900 and 2000Stacked bar chart about sending ground troops to Iran

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

ロイターBreakingviewsは、重要な争点となるべき金融に関する知見を提供する世界有数の情報源です。1999年にBreakingviews.comとして設立。2009年にトムソン・ロイターが買収、金融コメンタリ―部門としてロイターブランドの一員となりました。日々の主要金融ニュースについて、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロンドン、パリ、マドリード、香港、北京、シンガポールに駐在するコラムニストが、専門的な分析を提供します。英文での最新コラムを掲載した電子メールの定期購読を含め、breakingviews.comの解説や分析(英語)をすべてご覧になりたい方は、[email protected]までご連絡ください

Hugo Dixon is Commentator-at-Large for Reuters. He was the founding chair and editor-in-chief of Breakingviews. Before he set up Breakingviews, he was editor of the Financial Times’ Lex Column. After Thomson Reuters acquired Breakingviews, Hugo founded InFacts, a journalistic enterprise making the fact-based case against Brexit. He was also one of the founders of the People’s Vote which campaigned for a new referendum on whether Britain should leave the EU. He was one of the initiators of the G7’s “partnership for global growth and infrastructure”, a $600 billion plan to help the Global South accelerate its transition to net zero. He is now advocating a $300 billion “reparation loan” for Ukraine, under which Moscow’s assets would be lent to Kyiv and Russia would only get them back if it paid war damages. He is also a philosopher, with a research focus on meaningful lives.

関連記事: