更年期障害の男性、「弱み見せられない」と受診後ろ向き…経済損失は年1兆円・対策じわり

 女性と比べ、認知度が低い男性の更年期障害。症状があっても更年期に関係すると気づかなかったり、「弱みを見せてはいけない」と言い出せなかったりする人が多いことが背景にある。一部の企業や自治体が休暇制度を充実させたり、啓発活動を行ったりするなど、働く男性への支援策が始まっている。(金来ひろみ)

様々な男性の更年期障害の症状

発症に個人差

 男性の更年期障害は、男性ホルモン(テストステロン)の急激な減少によって、体や心に影響が出て、日常生活に支障をきたす状態を指す。疲労感やめまい、気分の落ち込みなど様々な症状が表れる。

 女性の更年期障害は閉経を境に50歳前後で起こるのに対し、男性の場合は、発症時期に個人差があり、症状が出ない人もいる。

 厚生労働省が2022年に全国の男性約2000人を対象に実施した調査によると、男性にも更年期に関係する不調があることを「よく知っている」と答えた人は、50~59歳の男性で約16%にとどまった。また、更年期症状を自覚したが、医療機関を「受診していない」と回答した人は約87%で、女性に比べて受診に後ろ向きな傾向がみられた。

「異常なし」だが

 埼玉県在住の男性(64)は10年ほど前から、 倦怠(けんたい) 感や関節の痛み、不眠などに悩まされ、2年ほど前からは医療機関を受診して睡眠薬を服用している。

厚生労働省

 「人間ドックでも異常は見つからない。加齢によるものか、更年期障害なのか、詳しく調べたいという気持ちと、老いを認めたくないという気持ちとが、せめぎ合っている」と明かす。

 経済産業省は24年、男性の更年期症状による欠勤や業務効率の低下などの経済損失が年間1兆2000億円に上ると試算した。

 症状に悩む人が働きやすくなるように、啓発活動や休暇制度の整備に乗り出す企業や自治体も出てきた。野村ホールディングスは昨年9月、執行役員が男性の更年期障害の症状や対応策について、医師から説明を受ける動画をグループ全社員が必ず受ける研修の中で配信した。社内広報紙でも取り上げるなど、啓発活動を続けている。

 担当者は「男性にも更年期の症状があると、不調を抱える人が気づくきっかけになれば」と話す。

 鳥取県は、23年に特別休暇制度を設け、更年期障害とみられる症状で業務が困難な職員は、男女を問わず、年間5日までの特別休暇を医師の診断書なしでも取得できる。今年3月までの約1年半に、女性25人、男性12人が取得したという。

 SMBC日興証券は、従来の生理休暇を拡大して「マイケア休暇」とし、更年期症状による体調不良者も対象に加えて、男女ともに取得できるようにした。すでに取得した男性もいるという。

ストレス減らす

 男性の更年期障害に詳しい順天堂大学教授の堀江重郎さんは、発症の原因に、過労や人間関係、配置転換など環境の変化によるストレスを挙げる。また、症状があっても診療科が分からなかったり、周囲に弱みを見せられなかったりすることが、男性を治療から遠ざけていると指摘する。

 堀江さんによると、軽い症状の場合は、生活習慣の見直しや、ビタミンDや亜鉛の摂取などで、症状が改善することもあるという。

 「企業は、男性の更年期の症状や治療法について、広く社員に情報提供をしていくべきだ。一方で、男性側も趣味や地域活動など、仕事とは異なる自分だけのコミュニティーを作るといったことで、ストレスを減らす工夫をしてほしい。職場と家を往復するだけの生活に陥らないようにすることが大事です」と話す。

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