「何が“いじめ撲滅”だよ」「誤情報を流したデスドルのほうが悪質」 《中高生の暴行動画》“誤情報”に踊らされた人々の罪

■「いじめ撲滅委員会」が過熱  今回の件で注目を浴びているのが、「DEATHDOL NOTE(デスドルノート。以下、デスドル)」という暴露系アカウントの存在だ。本アカウントは、これまでは芸能人のスキャンダルを中心に暴露が行われていた。  一連の騒動のきっかけとなった栃木県立高校の動画は、本アカウントに動画がアップされたことで火がつき、炎上状態へと至った。  なお、デスドルは「いじめ撲滅委員会」と称して、当該動画のアップと並行して、いじめに関する情報提供を呼びかけていた。

 SNSでの告発によって、これまで隠されていたいじめの存在が白日の下にさらされるという現象が起きている一方で、それに対する弊害も顕在化している状況だ。  中高生のいじめや暴力行為をネット上にさらすこと、さらにそれに触発されてSNS等で「加害者」を叩くことは、問題の解決にならないどころか、新たな問題を引き起こしてしまう。  こうした行為を防止する対策が必要であると同時に、いじめや暴行が疑われる行為に関しては、気軽に通報ができ、問題の解決が図れるような窓口の整備が求められる。

■「ネットさらし」によって生じた3つの弊害  このたびの一連の騒動により、動画の投稿、拡散に関する新たな弊害も明らかになっている。実際に起こっているのが下記の3点だ。 1. 事実誤認の発生と拡散 2. 過剰な暴露や当事者へのバッシングの発生 3. 無関係な組織や人への被害  第1の問題は、ネット上に上げられる暴力行為の動画は、経緯や文脈がわからないうえに、行為の一部が切り取られているものも多く、全体像をつかむことが難しい点だ。


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 暴露系アカウント、あるいはそれに触発されて批判や誹謗中傷を行う人は、「問題のある人物を裁くため」「暴力やいじめを防止するため」といった大義名分を持ち出す。  それが真実であるならば、ネットにさらしたり、誹謗中傷を行うのではなく、警察に通報したり、「被害者」が訴訟を起こすための支援をすればよいだけの話だ。  「歪んだ正義感」は、意図せずに問題を悪化させたり、新たな問題を生じさせたりする。「悪意」から行われた行為であれば、「間違っていた」と反省して行為を改めるのも容易なのだが、「正義感」から行っている人は、自分の行為が間違っていることをなかなか認めないし、反省しようともしない。

 実際のところは、正義感の裏側には「注目されたい」「アクセスを稼ぎたい」という欲求があったり、日々の不満やストレスを解消するために第三者を攻撃しているだけだったりするのだが――。  SNSで暴力行為をさらしたり、叩いたりする行為に対しては、ネット上では少なからず擁護的な声もある。これまで見過ごされてきた問題行為が顕在化するようになったこと、さらし行為が「抑止効果になる」といった意見も出ている。  そうした効果もあることは否定しないが、それ以上に弊害が大きいというのが実態だ。

■“誤情報”は訂正されにくい  筆者の中高時代を振り返っても、生徒同士の暴力行為は頻繁に起きていた。一方的ないじめ、暴行と呼べるようなものもあれば、喧嘩やじゃれ合いみたいなものもあった。  殴り合いをやっていた生徒同士が次の日には仲良くしているようなケースもあれば、遊びのように見えたいじめ行為もあった。直接目にしたことでも、真相が判然としないものも多かった。  中高生のいじめや暴力の実態把握は思いのほか難しい。まったく状況を知らない第三者が、一部だけ切り取られた情報を基に、正しく状況が判断できるわけがない。

 今回の問題が起こる以前も、いじめ問題に関する事実誤認が起きている事例は数多く見られる。  SNSでなくても、週刊誌等のメディアで報道され、学校や「加害者」が激しいバッシングを受けたが、第三者委員会の調査や訴訟で明らかになった事実が、報道の内容と大きく異なっていた――という事例は少なくない。  真相が明らかになったところで世の中の関心は薄れてしまっているし、人々の認識も固定されており、情報が更新されることもなく、世の中では事実と異なることが「事実」として認識され続けてしまう。


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 たとえば、1月10日にデスドルが福井県立高校での「暴力動画」をアップしたが、本動画は23年に撮影されたもので、映っている生徒はすでに同校には在籍していなかった。  それどころか、動画に映っていた暴力行為はいじめでも一方的な行為でもなく、当事者間で起きたトラブルに起因するものであったこと、動画に映りこんでいる生徒2名ともに動画の拡散は望んでおらず、「被害者」側が動画の削除要請を行ったことなどが明らかになっている。

 当事者同士の間で深刻な問題とはなっていない過去の事案が掘り起こされ、当事者同士も望まないようなさらし、バッシング行為が発生してしまった――というのが実態だ。  別の商業施設の駐車場で撮影されたと思しき暴行動画では、暴行を加えた側の生徒が所属する学校として山口県の私立高校名が間違って拡散され、高校が批判される事態となった。  学校側は、「暴行を加えている人物および動画を撮影している人物はいずれも本校とは関係のない人物」だと事実関係否定している。

 上記のように、事実誤認が複数起こっている状況だが、さらに問題なのが、こうした動画が不当な誹謗中傷や嫌がらせ行為を誘発してしまっている点だ。  栃木県立高校の暴力動画の問題では、加害生徒とされる氏名や写真、自宅住所などがSNS上でさらされ、拡散している。学校側にも誹謗中傷が相次いでおり、生徒の安全を考慮して一部の部活が大会出場を辞退するに至っている。 ■“悪意”よりタチが悪い「歪んだ正義感」  大分県の市立中学校の件では、管轄の市に生徒や教員を殺害するといった内容を含む脅迫メールが届いているという。

 昨年8月、広島県・広陵高校の野球部員による暴力行為が発覚した際にも同様の問題が起きていたが、半年を経て、同様の問題が再発してしまったことになる。  こうした行為が問題であることは言うまでもないのだが、SNSで不特定多数の人に拡散してしまうと、必然的にこうした問題を引き起こしてしまう。過激な行為を行う人はごく少数だったとしても、SNSの炎上は、特殊な少数派の人たちを刺激し、過剰な行動を誘発してしまうものなのだ。


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 情報が広がる前に、適正な対応を取ることが不可欠だ。よくも悪くも、現在はスマホが普及して動画や画像で「証拠」が残る時代になっている。  ただし、その証拠はSNSで拡散させるという方法を取るのではなく、繰り返しになるが、しかるべき場所に通報して、そこで適正な解決策を講じることが望ましい。 ■学校やプラットフォームがすべきこと  学校は、生徒に対してSNSに動画を上げたりシェアしたりしないように呼びかけると同時に、問題行為には適切に対処を行うことを周知して、関係者内で対応することが必要だ。

 学校や教育委員会レベルで適正に対処することが難しいのであれば、そうした窓口を学校の外部に設置して、学校と連携して解決にあたったり必要に応じて警察と連携したり、調停や民事訴訟といった法的な対応も含めて解決策を講じることも求められるのではないかと思う。  一方で、誤情報を垂れ流すインフルエンサーにはお咎めがなくていいのか。そもそも、顔が識別できる動画を無断で上げるのは肖像権の侵害になる。アカウントが停止されたり、当事者から訴訟を起こされたりする恐れもある。

 プラットフォーム側も、違法行為を行っているアカウントを停止するなどの措置を取るべきだろう。  そしてわれわれは、暴力動画を目にしたとしても、安直に拡散したり批判をしたりすることは避けるべきだ。行動を起こしたければ、当該の学校なり、自治体などに事実関係を報告すればよいだけの話だ。

西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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