目指すべきは宇宙ではなく海だ!海底居住地プロジェクトに匿名の億万長者が資金提供

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 海底都市、なんというロマンあふれる響きだろう。実際に人類は、古くから海中に住むことを夢見てきた。宇宙もいいけどやっぱ海もいい。

 実際に海に沈んだ王国、アトランティスには、七つの海を統治するアクアマンが王として君臨しておりって、おっとこれはフィクション映画でのお話だ。

 で、何が言いたいのかというと、現在イギリスの企業「DEEP」は「海中に恒久的な人間の居住地を作る」という壮大な計画に取り組んでいるのだ。

 この海底コロニーに賛同した匿名の億万長者が資金提供を行っているそうだから、もしかしたら本当に実現するかもしれない。

 人間は昔から海中への好奇心を抱き続けてきた。伝説によれば、紀元前4世紀のアレクサンドロス大王はガラス瓶に入って海に潜ったという。

 こうした探究はその後も続けられ、2023年3月1日には、元アメリカ海軍ダイバーで研究者のジョセフ・ディトゥリ博士が水中で100日暮らすというチャレンジを行い、みごと成功した。

 「人類の恒久的な海中滞在」を目指すDEEP社の試みは、そうした歴史の最新の章だ。

 DEEP社の挑戦の核となるのが「センティネル」という移動式海底住居ユニットだ。いわば住宅サイズの潜水艦のようなもので、その開発は、英国南西部グロスタシャーにある施設で進められている。

 恒久的な滞在を目指すものであるだけあって、設備も充実している。寝室6室・キッチン・バスルーム(トイレ付き)を備えており、レクリエーションエリアもある。

 1つのセンティネルは最大6人が暮らすことを想定しているが、複数のセンチネルを連結することで、より大規模な海底研究施設の建設も可能だ。

 また、海底暮らしを実現するために採用された特殊な鋼材は、水深200mの深海の水圧にも耐えられる。

この画像を大きなサイズで見るDeep社が開発を進める海底住居「センティネル」のイメージ/Credit: Deep

 センティネルは2027年に運用予定だが、Deep社はひとまず80mの深さにセンティネルを設置し、そこで人間が28日間滞在することを目指すという。

 より深い領域への挑戦はそれからだ。

 プロジェクトの主な目的は、海の研究や探査を支援すること。これが実現すれば、研究者や探検家たちは、海中に長期間滞在し、未知の領域の解明に取り組めるようになる。

 だが同社のマイク・シャックルフォードCEOがThe Guardianに対して語る長期的なビジョンはもっと野心的だ。

 「目標は、永遠に海中に住むことです」「世界中のすべての海に、恒久的な人類の居住地を作るのです」

 かなりお金のかかりそうなプロジェクトだが、会社の夢の実現を手助けしているのはとても裕福な匿名の個人投資家1人だ。

 その人物から多額の資金提供を受けているそうだが詳細は明らかにされておらず、いったい誰がバックについているのかは謎に包まれている。

 だがその人物のおかげで、このプロジェクトの現実味が上がってきているのは確かだ。

 ほとんどの人間は陸上での生活に適した体を持っている。例外はパジャヴ族で、彼らは長年海で暮らしてきたことから、脾臓が大きくなるDNA変異により15分素潜りできるという驚異の潜水能力を獲得している。

 だが一般的な人間は、水中に潜るには多少の体の調整が不可欠だ。

 例えば深海に潜るダイバーは、飽和潜水という技術を使う。深海では高い水圧を受けることになるため、窒素などの気体が体に溶けやすくなり、そのせいで窒素酔いのような症状が出る。

 そこで潜る前に加圧して、体に気体が溶けないようにするのだ。こうした準備はセンティネルでも必要になる。

 Deep社の科学研究ディレクター、ドーン・カーナギスは、同社のブログでこれを「飽和の原理」と呼び、これこそが長期間深海に滞在するための鍵であると説明する。

 「一度飽和に達すれば、ダイバーは数日間、あるいは数週間や数ヶ月でも(中略)海底に留まることができます」「必要なのは、滞在する場所と生命維持の基本(食物、水、酸素)だけです」

 とは言え、これまでの連続水中滞在の最長記録は前出のジョセフ・ディトゥリ博士の100日間なので、さらに長く海中にとどまり続けた場合、人体にどのような影響があるのかはわからない。

 特に、太陽光を浴びない環境や狭い空間での共同生活がメンタルヘルスに与える影響は大きな課題となるだろう。医学誌『The Lancet』によれば、睡眠障害やストレスの増加が懸念されている。

この画像を大きなサイズで見るCredit: Deep

 さらに理論上は可能なことも、言うのとやるのとでは大違いという問題もある。

 現在、Deep社はきちんと管理された水深80mの湖でセンティネルの試験を行っている。

 だが、これが海になれば、海洋生物や悪天候、近くを航行する船舶など、さらに考慮せねばならない要素が加わることになる。

 2023年に5人の犠牲者を出した潜水艇タイタン沈没事故のような事態が起こらないとも限らない。

 Deep社は国際的な認証機関「DNV」と協力し、センティネルが安全基準を満たしていることを確認しているという。それでも人類にとって海の底が危険な場所であることに変わりはない。

 シャックルフォードCEOは、「基本的に、すべてがあなたを殺そうとしてきます」と語っている。

 人類は今住める領域の限界を試しているところだ。

 例えば、NASAは宇宙飛行士が月に長期間滞在する「表面居住システム」を検討しているし、中国もまた2035年までに月の南極に月面基地を建設するという計画を発表した。

 一方、Deep社が目指すのは2027年までに海底に「人類を恒久的に滞在させる」ことだ。生存可能領域の限界は、まず海底から広がるのかもしれない。

References: A flooded quarry, a mysterious millionaire and the dream of a new Atlantis | Global development | The Guardian / The company spending millions to build an underwater human settlement | Popular Science

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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