役目が終わったら魚の餌に。食べられる水質検査ロボットが誕生

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 水の上をスイスイと進み、水質を調べ終わったら魚が食べることができる。そんな、環境にも魚にもやさしい「食べられるロボット」がスイスで開発された。

 スイス連邦工科大学ローザンヌ校の研究チームが開発した小さなボート型ロボットは、動力にクエン酸と重曹による化学反応が使用されており、任務を終了すると、水に溶けて魚のエサになる。

 ”使い捨て”の概念を、先進的かつ持続可能なものへと進化させたアイデアだ。

 この研究は『Nature Communications』(2025年5月7日付)に掲載された。

 ロボットでありながら魚が食べられる秘密は、その構造にある。ボディは、粉砕した魚のエサを型に入れ、フリーズドライで固めたものだ。

 内部に設けられた”空洞”には、無害なクエン酸と重曹が収められ、ゲル状の栓でフタがされている。さらに空洞からは通路がのびており、そこにやはり無害なプロピレングリコール(グリコールに分類される有機化合物)が充填されている。

 この構成のボートを水に浮かべると、栓からゆっくりと水が吸収され、内部のクエン酸と重曹に化学反応を生じさせる。

 すると、それによって発生した二酸化炭素によって、通路のプロピレングリコールがボディの外へと押し出される。

 ボディから排出されたプロピレングリコールは、水面の表面張力を変化させ、水に流れを作り出す。

 その力で、電池もモーターもない全長5cm・重さ1.4gのロボットは、1秒で全長の3倍の距離を滑るようにすっと疾走する。

 これは「マランゴニ効果(対流)」と呼ばれるもので、水面の“表面張力”の差によって物体が動くしくみだ。アメンボが水の上をスイスイ歩けるのもこの効果の一例だ。

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 このアメンボのように水面を滑走するボート型ロボットは、池や湖などの水質調査に利用できる。ごく小さなセンサーを搭載して、水温・pH・汚染レベルなどをを測定するのだ。

 だがこのロボットの本当に画期的なところは、任務終了後のしかけだ。

 水面でずっと作業をしていると、ボディはだんだんと水を吸収し、最終的にはふやけて沈んでしまう。

 だがすでに説明したように、ロボットは元々魚のエサをはじめとする、食べても安全なもので作られている。

 そのため、任務が完了したボディは魚のエサになるのである。仮に食べられなかったとしても、すべて完全に生分解される材料しか使用されていないので、そのまま生態系に取り込まれていく。

 また溶けて魚のエサになる特徴を利用すれば、養殖場の魚に薬を与えるツールとして応用することもできるだろう。

 とはいえ、こうした利用をするにはまだ解決すべきこともある。それはボディに搭載されるセンサーだ。

ロボット本体は魚のエサとなるが、電子機器の部分はそうではない。その部分まで含めて完全に生分解性か食べられる仕様にすることが、研究チームの次の大きな課題であるそうだ。

 スイス連邦工科大学ローザンヌ校のダリオ・フロレアーノ教授によると、これまで生分解性素材を利用して電子機器の廃棄物を削減する試みなら、盛んに行われてきた。

 だが、ただ分解されるだけでなく、栄養として生物に食べられることまで考慮した研究はほとんどなかったとのこと。

 それを実現する食べられるロボットは、「人間や動物の健康にとって、大きな可能性を開くものでしょう」と、ニュースリリースで語っている。

References: Edible aquatic robots with Marangoni propulsion / Eco-friendly aquatic robot is made from fish food

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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