生命の起源の謎に新たな展開、酸素が進化を後押しした可能性
地球上に動物や植物のような複雑な生命が誕生した背景には、酸素の存在が不可欠だったことが、テキサス大学などの国際研究チームにより明らかとなった。
約20億年以上前、地球で酸素が急増した時期に合わせ、私たちの祖先となる微生物がそのエネルギーを利用して進化したという。これまで謎だった生命誕生のプロセスを解き明かす、新たな発見だ。
この査読済の研究成果は『Nature』誌(2026年2月18日付)に掲載された。
これまでの定説では、植物や動物の共通先祖である「真核生物」の誕生は、酸素のない場所で起きたと考えられてきた。
真核生物とは、細胞の中に設計図であるDNAを包む「核」という特別な部屋を持つ生物のことだ。私たち人間をはじめ、動物や植物、キノコなどの菌類もすべてこの仲間に含まれる。
この複雑な構造を持つ真核生物は、大昔に2種類の全く異なる微生物が合体して進化したと考えられている。
一方は酸素を必要とする微生物で、もう一方は酸素のない環境で生きる微生物だ。酸素を必要とする方は、やがて細胞の中でエネルギーを作り出す「ミトコンドリア」という場所に変わった。
しかし、住む場所が正反対な2者が、そもそもどこで出会い、どのように協力関係を築いたのか。この点は、科学者たちの間で長年の矛盾となっていた。
この画像を大きなサイズで見るImage by Istock Love Employeeテキサス大学オースティン校のチームを中心とし、フランスのパスツール研究所やオランダのワーゲニンゲン大学など、複数の国際的な研究機関はこの謎に挑んだ。
その結果、進化の矛盾を解く鍵を「「プロメテ古細菌界(アスガルド古細菌)」の中に発見した。 プロメテ古細菌界は、私たちの遠い親戚にあたる微生物で、主に深海の酸素がない場所に住んでいると考えられてきたグループだ。
実は私たち人間を含む真核生物は、このプロメテ古細菌界の仲間から枝分かれして誕生したことが分かっている。
そのため、プロメテ古細菌界は真核生物だけが持つと思われていた「特別なタンパク質」をたくさん持っている。
研究チームが膨大な遺伝子データを解析した結果、プロメテ古細菌界の中には、これまで考えられてきた深海だけでなく、海岸の浅瀬など酸素がある環境に適応している仲間がいることが判明した。
特に、プロメテ古細菌界の中でも、最も真核生物に近いとされる「ヘイムダル古細菌」は、酸素を取り込む能力を持っていた。
プロメテ古細菌界はもともと酸素がある場所で活動しており、ミトコンドリアの元となる微生物と出会える環境にいたのだ。
この画像を大きなサイズで見る遠隔操作型無人探査機を操縦し、浅瀬の沿岸堆積物を採取している様子を写し出したモニター Image credit: Brett Baker大昔の地球は今とは違い、大気中に酸素がほとんど存在しなかった。
しかし、約24億年前から約17億年前にかけ、「大酸化イベント」と呼ばれる現象が起き、酸素濃度が急激に上昇した。
酸素は他の物質を破壊する力が非常に強いため、当時の多くの生命にとって、急増した酸素は細胞を傷つける「猛毒」として牙を剥いたはずだ。 だが、プロメテ古細菌界はこの環境の変化を逆手に取った。酸素を利用する「酸素代謝」は、酸素を使わない方法に比べて、はるかに大きなエネルギーを生み出すことができる。
酸素が豊富になった地球で、この強力なエネルギーを味方につけたことは、細胞を大きく、そして複雑に進化させるための燃料となった。