アングル:苦境のロシア経済、トランプ米大統領の早期終戦案は助け船か

 2月24日、ロシア経済はウクライナ戦争の膨大な軍事支出で過熱状態だが、深刻な冷え込みに転じる瀬戸際にある。モスクワの赤の広場で23日撮影(2025年 ロイター/Maxim Shemetov)

[ロンドン 24日 ロイター] - ロシア経済はウクライナ戦争の膨大な軍事支出で過熱状態だが、深刻な冷え込みに転じる瀬戸際にある。大規模な景気刺激策や金利の急上昇、インフレの高止まり、そして西側諸国による経済制裁の影響が浸透しつつあるからだ。それだけに、戦争の早期終結を目指すトランプ米大統領の方針はロシアにとって助け船になりそうだ。

トランプ政権は、対ロシア交渉でウクライナや欧州の同盟国を除外し、侵攻の責任をウクライナに負わせるなど政治的にロシア寄りの姿勢を取っている。

米国のこうした動きについて元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ビューギン氏は、ロシアが2つの望ましくない選択肢に直面する中で起きていると分析。ロシアはウクライナ戦向けの軍事支出の拡大を中止するか、あるいは支出を拡大し続けてその代償として何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受するか、二者択一を迫られているが、いずれの道も政治的リスクを伴うと指摘した。

財政支出は通常、経済成長を促進する。しかしロシアでは民間部門を犠牲にする形でミサイル向け支出という、新しい価値創出につながらない軍事支出で経済が過熱し、中央銀行の政策金利は21%にまで達して企業の設備投資が鈍り、インフレは抑制できていない。

ビューギン氏は「ロシアは経済的な観点から外交的手段による戦争終結に向けた交渉に関心を持っている。そうすれば限られた資源を非生産的な目的に再配分し続けるのを回避できるからで、これこそスタグフレーションを避ける唯一の方法だ」と話した。

ロシアが国家予算の3分の1を占める軍事費をただちに減らすことはないだろう。しかし和平合意の可能性が浮上すれば経済への圧迫が弱まり、制裁の解除や、最終的には西側企業の復帰につながることもあり得る。

「ロシアが軍需生産向けの支出を一夜にして止めることには消極的だろう。不況の発生を恐れているし、軍の立て直しが不可欠だからだ。ただ、兵士を一部復員させることで労働市場への圧力を多少なりとも和らげることができるだろう」と、欧州政策分析センター(CEPA)のアレクサンダー・コリアンドル氏は予想した。ロシアは徴兵や戦闘忌避の国外移住で深刻な労働力不足が発生し、失業率は過去最低の2.3%となっている。

コリアンドル氏は和平の可能性が高まれば米国が中国などの企業に対する二次制裁を強める可能性が下がり、輸入がスムーズになり、その結果物価も下がる可能性があると見ている。

<自然な減速>

ロシア市場には既に好転の兆しが現れており、21日には制裁緩和の期待からルーブル相場が対ドルで約6カ月ぶりの高値を付けた。

ロシア国内総生産(GDP)は2022年に小幅なマイナス成長となったものの、その後は力強く成長してきた。ただ当局は今年の経済成長率が昨年の4.1%増から1-2%増程度に鈍ると予測している。中銀のナビウリナ総裁は政策金利を21%に据え置いた14日の会合で、長期にわたり需要の伸びが生産能力を上回っているため、成長は自然に減速していると説明した。

経済成長を促しつつインフレを抑制するという中銀の課題は、大規模な財政刺激策によって複雑になっている。政府が2025年の財政支出を前倒したことで1月の財政赤字は1兆7000億ルーブル(192億1000万ドル)と前年比で14倍に膨らんだ。

<アメとムチ>

戦争は一部のロシア人に経済的な恩恵をもたらしたが、苦痛を感じている人もいる。軍事関連分野は大規模な財政刺激策で賃金が大幅に上昇する一方、民間部門の労働者は生活必需品の価格高騰に苦しんでいる。

通商の激変や競争の減少でビジネスチャンスをつかんだ企業もある。例えば衣料品販売のメロン・ファッション・グループは消費需要の波に乗って売り上げを着実に伸ばしている。この2年間にブランドが大幅に拡大し、2023年以降、新規出店店舗の平均規模が2倍に拡大した。

しかし多くの企業は高金利にあえいでいる。「現在の貸出金利では新たな開発プロジェクトを立ち上げるのは困難だ。以前は広がっていた投資家の輪は縮小し、残った投資家も銀行の融資条件に大きく左右されている」と、物流大手オリエンティルの創業者エレーナ・ボンダルチュク氏は金利上昇の影響を指摘した。

内部資料によると、ロシアが直面する主な経済リスクとして原油価格の下落、財政面の制約、企業の不良債権の増加などが挙げられている。またトランプ氏はウクライナ問題で譲歩の可能性を示唆する「アメ」をぶら下げる一方、合意が成立しなければ追加制裁を科すと「ムチ」もちらつかせている。

マクロアドバイザリーの最高経営責任者(CEO)クリス・ウィーファー氏は「米国は経済的に大きな影響力を持っている。だからロシア側も交渉の席につくことを望んでいる」とロシアの立場を解説。「米国はこう言っているのだ。『協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる』と」

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Chief companies correspondent for Russia, Alexander covers Russia’s economy, markets and the country's financial, retail and technology sectors, with a particular focus on the Western corporate exodus from Russia and the domestic players eyeing opportunities as the dust settles. Before joining Reuters, Alexander worked on Sky Sports News' coverage of the 2016 Olympics in Brazil and the 2018 World Cup in Russia.

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