マウスは意識不明の仲間を助けようと、必死に行動を起こすことが判明
新たな研究によると、マウスは麻酔で意識を失った仲間に対しすぐに行動を起こし、元気を取り戻すべく奮闘することが明らかとなった。
中には、意識のない仲間の舌を引っ張り出して、気道を確保しているとしか思えない行動をとるマウスもいた。
人間の本質にある「仲間を助けたいと思う気持ち」が、同じ哺乳類のマウスにも備わっているようだ。脳内検査で「愛情ホルモン」に関連する領域が活発に動いていることが確認されたのだ。
アメリカ、南カリフォルニア大学の神経科学者チャン・リ氏は、これまで何度となく実験用マウス(ネズミ)に麻酔をほどこしてきたが、ある奇妙なことに気づいた。
麻酔で意識不明になったマウスをケージに戻すと、そこにいた仲間が、その顔のニオイを嗅いだり、噛みついたりすることがあるのだ。
ゾウやイルカのような動物が、ピンチに陥った仲間を救おうと、応急措置のような行動をとるという情報はある。
ならばマウスもまた意識のない仲間の助けようとしているのではないか? チャン氏にはそう思えた。
それを確かめるために、チャン氏らは麻酔で意識を失わせたマウスを仲間のマウスに見せ、どのような行動をとるのか詳しく観察してみることにした。
すると、ぐったりした仲間を目にしたマウスは、そのそばからあまり離れなくなり、応急措置のような行動をどんどんエスカレートさせることがわかったのだ。
最初のうちは、ただ失神した仲間のニオイを嗅ぎ、毛皮をグルーミングして舐めていた。だが相手が目を覚さないようなら、口かんだり、舌を引っ張りだしたりする。まさにマウス・トゥ・マウスだ。
しかもこれは学習による行動ではなく、本能的なものだ。
この実験のマウスが意識不明の仲間を目にしたのは、初めてのことだ。にもかからわず、この行動を示したのだ。
この画像を大きなサイズで見るマウスはケージ内の意識不明の仲間の舌を引っ張りだした。まるで気道を確保しているかのようだ。Sun et al., Science , 2025こうした行動には確かに回復効果がある。体を刺激されたマウスは、多少なりとも麻酔から早く目覚めるのだ。
さらに驚きなのが、舌を引っ張り出されると、気道が広がることだ。
口の中に異物が入っていても、それによって取り除かれることも確認されている。だから、この行動によって、意識のないマウスは確かに呼吸がしやすくなる。
それでも、マウスが本当に仲間を助けようとして行動しているかどうかは断言できないという。
シカゴ大学の神経科学者ペギー・メイソン氏は、また別の解釈もあるだろうと、第三者の立場からnprで解説している。
たとえば、マウスが動かないマウスに反応し、それが結果的に応急処置になっている可能性も否定できない。
だが、応急措置的な行動は相手が死体のときにも観察されている。それに対し、ただ眠っているだけのマウスでは見られなかったという。
また、まったく知らない相手よりも、よく知っている相手である場合の方が、素早く行動に出ることもわかった。
このことから、マウスが動かない仲間に反射的に反応しているわけではなく、相手が誰で、どのような状況にあるのか踏まえたうえで、助けるために行動を行っている可能性が高い。
5日間にわたる実験では、この処置的行動がずっと観察されている。もしも好奇心によるものなら、マウスは飽きてしまいそうなものだが、少なくともこの実験期間においてそのような兆候はなかった。
この画像を大きなサイズで見る意識不明の仲間に対して、マウスが行った行動。段階を追うごとに本格的な措置となり、仲間のマウスは何もしないときよりも早く目覚める Sun et al., Science , 2025より重要な発見は、この不思議な行動の裏には、マウスの愛情ホルモンが関係しているらしいことだ。
その脳内を調べたところ、「オキシトシン」に関連する領域が活発になっていることが確認されたのだ。
幸せホルモンとも呼ばれるオキシトシンは、愛情・絆・信頼といった社会的なつながりを促進する効果がある。
また、人間だけでなく、さまざまな動物にあり、仲間同士の助け合いの基盤となっている。
ならば、今回見られたマウスの行動も、仲間を助けようという気持ちによるものだったとしても、何らおかしなことはないだろう。
この研究は『Science』(2025年2月21日付)に掲載された。
References: Science / Incredible Discovery Shows Mice Trying to Revive Fallen Companions : ScienceAlert / Lab mice may give 'first aid' to unconscious mates : NPR
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。