北極の再凍結や海中カーテン、氷床保護のハイテク計画はいずれも実現困難か 新研究
(CNN) 地球温暖化が進む中、巨大な海中「カーテン」や北極の氷の再凍結といった、地球の氷床を救うための野心的な計画が注目を集めている。だが、これらはいずれも実現性に乏しく、深刻な被害をもたらす可能性があることが、9日に発表された新研究で明らかになった。 【画像】氷の上に海水をくみ上げるカナダ北部での試験の様子 極地氷床の融解は気候変動の代名詞となっている。巨大な氷床は、壊滅的な海面上昇を引き起こすのに十分な水が蓄えられており、気温上昇に伴い深刻な変化に直面している。 これを受け、「極地の地球工学」と呼ばれる、北極や南極を人工的に冷却するアイデアに注目が集まっている。 地球工学の推進派は、気候危機の緊急性を踏まえれば、こうした潜在的な解決策の研究は不可欠だと主張する。だが、学術誌「フロンティアーズ・イン・サイエンス」に掲載された報告書の著者らは、これらのアイデアに警鐘を鳴らしている。 「アイデアの多くは善意に基づいているが、欠陥がある」と英エクセター大学の氷河学者で論文著者のマーティン・ジーガート氏は指摘。同氏と国際的な科学者チームは、最も広く知られている五つの案を分析した。 一つ目は、海氷の上に海水をくみ上げて人工的に厚みを増やす、あるいは海氷の反射率を高めるためにガラスビーズを散布する案、二つ目は、温水による氷棚の融解を防ぐため、巨大カーテンを海底に固定する案、三つ目は、太陽光を反射する粒子を成層圏に散布して地球を冷却する案、四つ目は、氷床の流れを遅らせる目的で、氷河の下から水をくみ上げる案、五つ目は、鉄分などの栄養素を極地の海に投入し、二酸化炭素を吸収するプランクトンを増やす案だ。 各アイデアは、有効性、実現可能性、リスク、コスト、ガバナンスの課題、拡張性の観点から評価された。その結果、いずれの案も「検証をクリア」できず、すべてが「環境的に危険」だとの結論に至った。 北極と南極は地球上で最も過酷な環境の一つであり、これらのアイデアは、人類がかつて試みたことを超えるものでありながら、そうした条件を考慮していないとジーガート氏は述べた。 いずれのアイデアも大規模に検証されたことはなく、特に海中カーテンについては実地実験が行われていない。報告書では、アイデアはすべて「本質的に環境破壊」のリスクを伴うと指摘された。 海中カーテンはアザラシやクジラなどの海洋生物の生息域を妨げる可能性があり、氷河の下から水を排出するための掘削は手つかずの環境を汚染する恐れがある。成層圏への粒子散布は、地球規模の気候パターンを変化させる可能性がある。 海面に微細なガラスビーズを散布して太陽熱の吸収を防ぐ案は、特に懸念が大きいという。 米非営利団体のアークティック・アイス・プロジェクトは、ガラスビーズが海洋に与える影響について研究を行っていたが、生態毒性学的試験で「北極の食物連鎖への潜在的リスクが示された」ため、今年初めに研究を終了する段階に入った。 これらの介入措置は費用も莫大(ばくだい)だ。報告によると、どの対策も設備の設置と維持に少なくとも100億ドル(約1兆5000億円)が必要とされる。海中カーテンは最も高額な部類に入り、全長約80キロのカーテンを設置するのに10年間で800億ドルの費用がかかるという。 こうしたプロジェクトが大きな課題を克服できたとしても、気候危機の緊急性に対応できるほどの規模とスピードで展開することは不可能だと報告書は結論づけた。「これらは、我々がすべきこと、つまり排出量の削減から目を逸らすものだ」とジーガート氏は述べている。