海外F1記者の視点|角田裕毅がレッドブルで克服しなければいけないいくつかの問題(motorsport.com 日本版)

 角田裕毅本人は、今回のことを「運命」だと捉えている。  レッドブルのジュニアチームでの4年間の修行は、しばしばフラストレーションの溜まるものだった。昇格の可能性は徐々に薄れ、ついには完全に消えたかのようにさえ思われた。しかし今、角田は「自分がいるべき場所」にたどり着いたと感じている。 【ギャラリー】マックス・フェルスタッペン、F1日本GP特別ヘルメットデザイン  問題は、彼が交代するドライバーもそう思っていたこと。そして、その前のドライバーも同じだったこと。そして……この流れは繰り返されてきた。  マックス・フェルスタッペンのチームメイトになることは、F1でも最も過酷な仕事のひとつだ。しかも、操縦が難しいマシンを手なずける必要がある。そして、これまでの”犠牲者リスト”を見れば、問題はドライバーではなくクルマにあることは明らかだ。しかし現実として、フェルスタッペンだけがポイントを積み重ねるような状況では、もうひとりのドライバーが責任を負わされることになる。  角田の仕事は、クルマの改善に貢献し、チームメイトのタイトル獲得を支え、レッドブルのコンストラクターズ選手権における戦いを立て直すことだ。それができなければ、レッドブルは再びそれができるドライバーと入れ替えるだろう。  つまり彼がシートを守るためには、ただチーム代表のクリスチャン・ホーナーとボードゲームを楽しむ以上のことをしなければならない。 1. RB21を「最適な状態」に持っていく方法を、素早く習得する  レースが始まれば、言い訳は通用しない。  角田はRB21のシミュレーター経験について自信満々に語り、「それほど運転しにくいクルマではなかった」と述べている。しかし、現実は大きく異なる可能性が高い。  フェルスタッペン自身が「RB21は厄介なクルマだ」と語っているし、リアム・ローソンがこのマシンで結果を出せなかったことが、今回の角田昇格の理由でもある。  フェルスタッペンとローソンはどちらも、RB21の「極めて狭い最適な作動領域」について言及している。コーナーごとのバランスの変化が激しく、タイヤのパフォーマンス管理が非常に難しい。スナップオーバーステアを起こしやすく、ドライバーがわずかにでも攻めすぎると、突然コントロールを失ってしまう。  チームのエンジニアは、先代マシンよりも「扱いやすく」するためにピークパフォーマンスを多少犠牲にする方針を取った。しかし、シーズン最初の2戦を見ても、そのピークに到達するのは依然として難しいようだ。  昨シーズン、セルジオ・ペレスはRB20を”乗りやすく”すればするほど遅くなると嘆いていた。フェルスタッペンができることで、彼のチームメイトができなかったのは、フロントアクスルに適切な荷重をかけながらコーナーを抜けることだった。車載カメラの映像を見ても、フェルスタッペンですら完璧に乗りこなせているわけではない。それほどまでに難しいのだ。  コーナーごとの一貫性のなさ、少しでもアグレッシブにターンインすると突然スナップオーバーステアを起こす傾向……これがペレスの自信を打ち砕き、ローソンにも同じ結果をもたらした。4度のワールドチャンピオン経験者ですら苦労するマシンなのだから、隣のガレージの”ただの凡庸なドライバー”にはなおさら厳しい。  そのため、角田がローソンよりも速いと単純に考えるのは間違いだ。角田がオーストラリアと中国でレーシングブルズのマシンで結果を残したからといって、それがRB21の問題とは限らないし、RB21が「フェルスタッペンの魔法」によってのみ上位争いできると結論づけるのも、間違いというか愚かしい。  レーシングブルズのマシンはより扱いやすく、その分パフォーマンスのピークに到達しやすい。一方、フェルスタッペンの走りを見れば明らかなように、RB21の方がダウンフォースは多い。しかしレッドブルの問題は、フェルスタッペンしかその「スイートスポット」を見つけられないことだ。  中国GPでは、新たな厄介な癖が明らかになった。フェルスタッペンは第1スティントでは存在感がなく、トップグループから引き離されていった。しかし、彼が第2スティントでC2タイヤを履くと、RB21は突如として本来の速さを発揮した。  タイヤのコンパウンド変更によってパフォーマンスが変化するのは珍しいことではないが、ここまで大きく傾向が変わるのは異例だ。 2. 期待値のコントロール  角田がレッドブルでの初戦で表彰台に上る可能性に言及したのは、最善の判断だったとは言い難い。今週末の日本GPでのデビュー戦には当然ながら大きな注目と期待が集まるが、彼の前任者たちの運命を考えれば、期待を煽るのではなく、うまくコントロールするべきだろう。  チームの上層部は、ローソンに比べてF1経験が豊富な角田の方が、RB21の問題を解決するのに役立つと判断した。それがレッドブルでの角田のミッションを表している。  クリスチャン・ホーナー代表は先週、「ローソンの将来を考慮した」とドライバー交代の理由を発表した。しかし、そんなお決まりの言い回しは無視していい。レッドブルは、苦しんでいるドライバーを慰めるようなチームではない。F1の中でも最も冷酷な組織のひとつだ。  角田は、ある目的のために移籍させられた。そのことを自覚し、公の場での発言にも反映させる必要がある。オフシーズン中に報じられたローソンの発言の中には、やや生意気とも取れるものがあったが、角田はローソンの自信が一気に崩れていったスピードから学ぶべきだろう。  レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコは、「角田はシーズン終了までレッドブルに乗る」と発言した。引き金に指をかけるのが誰よりも早いことで知られる彼がこう言うのは、なかなかの決断だ。  ローソンには、マシンに適応するための時間が与えられなかった。チームは、彼が戦えるようになるまでの時間が長すぎると判断し、その結果、彼はすぐにシートを失ったのだ。  角田に求められるのは、現実的なタイムスケジュールを設定することだ。それは、メディアに対する発言の中でも、チーム内でのやり取りの中でも同じこと。目標は、具体的で、測定可能で、達成可能なものでなくてはならない。 3. 新しいレースエンジニアとの関係構築  RB21の適切なセットアップを見つけることが難しいという問題は、そもそも重要な要素である”ドライバーとレースエンジニアの関係”の重要性をさらに高めている。  レッドブルはmotorsport.comに対し、角田がリチャード・ウッドとコンビを組むことを認めた。ウッドは昨年までセルジオ・ペレスのパフォーマンスエンジニアを務めており、今年からレースエンジニアへと昇格した人物だ。  ウッドはこの役職に就いてまだ日が浅いが、ローソンが苦戦した原因の一部とは見なされていなかった。そういう意味では、すでにレッドブルの体制に馴染んでいる人物であるため、角田がチームのやり方に適応するのを助けることができるだろう。  ルイス・ハミルトンとフェラーリの新しいレースエンジニア、リカルド・アダミとの無線のやり取りを巡る騒動からも分かるように、ドライバーとエンジニアの関係が成熟するには時間がかかる。互いが何を求めているのか、どのように意思疎通を図るべきかを理解するプロセスが必要だ。  しかし角田にとってこれは、最近経験したばかりの変化でもある。昨年夏に長年の担当エンジニアであったマッティア・スピニが昇進し、その後任としてエルネスト・デシデリオが角田のエンジニアを務めることになった。角田はその変化に、うまく対処したように見える。 4. 発言に気をつける  昨年末、ローソンがダニエル・リカルドの代役としてRBに加入した際、角田とほぼ同等のペースを示したことが、彼をペレスの後任として起用する決定を後押ししたと考えられている。  当時のレッドブル経営陣は、ローソンの方が角田よりも成長の余地があり、精神的にもより強靭であると判断していた。  一般的には、角田が無線で感情を爆発させる癖があったために昇格を見送られたという見方がされているが、それは完全に正確ではない。ただし、彼の時折見せる怒鳴り声が、ローソンの方がより「タフな候補」であるという印象を強めたのは事実だ。  チームは、(しぶしぶではあるが)気難しい振る舞いを許容することもある。ただしそれは結果を出しているドライバーに限る。もしくは、父親がチームのオーナーである場合だ。  もし角田が今後も感情的になることがあるなら、それを許されるだけの結果を残す必要がある。

Stuart Codling

motorsport.com 日本版
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