「私たちを忘れないで」今もコロナ後遺症と闘う19歳 周囲の無理解、支援受けられぬ例も
新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に移行して8日で2年。社会が日常を取り戻す中、今も感染による後遺症と闘う患者は多い。寝たきり状態に陥った若者や、症状への無理解や公的支援につながれず苦しむ患者らの姿もある。
首から下が動かず
「社会から取り残されていくよう」。コロナの後遺症で寝たきりの状態が続く山田幸奈さん(19)=長野県岡谷市=は、苦しい胸の内を明かした。
感染したのは令和4年秋。高校2年の時だった。高熱、咳(せき)などの症状とともに肺炎を併発し、入院。退院後も頭痛、倦怠感(けんたいかん)、脱毛、味覚・嗅覚障害などが持続し、首から下を自力で動かせなくなった。
移動、食事、排泄(はいせつ)、入浴など一人で当たり前にできていたことが、誰かの手を借りなければできない。味も匂いも、感じ取れない。未来がふさがれたような思いがした。
「コロナ後遺症」と診断されたものの、治療を求めて受診した病院で「コロナ感染でこんな状態にはならないはず」などといわれたことも。苦しさが募った。
ユーチューブで発信
それでも、医療機関を探し、懸命に介護してくる家族、温かい言葉をくれる友人らに励まされ、前を向こうと思った。通っていた高校の協力を得て、オンラインで授業を受けるように。顎の動きで文字入力できる機器を使って懸命に学習。週に数日、車いすで登校するようにもなった。傍らにはいつも、母親の笑子さん(48)がいてくれた。
根をつめれば、極度の疲労に襲われる。それでも、同級生らと学ぶことは希望だった。卒業研究では「介護する側とされる側の気持ち」のテーマでレポートをまとめた。
昨春、高校を卒業。同じように後遺症で苦しむ人たちに「一人じゃないと伝えたい」と、ユーチューブで発信を行うようにもなった。
一方で、症状に改善はみられない。不安と闘う日々は変わらない。
「『コロナはもう終わった』という人もいる。でも、感染者は今も出ていて、後遺症と闘う人もいる。私たちをどうか忘れないでほしい」と訴えた。
診断書出ないケースも
「全国コロナ後遺症患者と家族の会」の伊藤みか代表(仮名)によれば、コロナ後遺症患者を巡る環境は厳しい。近隣に受診できる医療機関がなく、途方に暮れる人は多いという。
昨年、コロナ後遺症を診る医療機関への診療報酬上の特例措置が終了。コロナ後遺症外来の閉鎖が相次ぎ、厳しさは増している。
症状を理解してもらえない苦しみもある。すがる思いで駆け込んだ医療機関で「気持ちの問題」「甘え」などと突き放され、さらに追い詰められる患者も。診断書を書いてもらえず、経済的支援や福祉支援にたどりつけないケースも存在する。
仕事をすることも、学校に行くこともままならず、困窮、孤立に陥る患者も多い。伊藤代表は「政府はコロナ後遺症の理解促進に努め、現状に即した法整備をしてほしい」と求めた。
「リスク知り、対策つなげて」
コロナ後遺症について世界保健機関(WHO)は、少なくとも2カ月以上症状が持続するものなどと定義するが、詳しい原因は依然不明だ。
約8千人のコロナ後遺症患者を診療してきた「ヒラハタクリニック」(東京)の平畑光一院長によると、患者に現れる症状は、倦怠感(けんたいかん)▽思考力の低下▽頭痛-など多様。論文では200種類以上の症状があるとされ、受け持つ患者の多くは、10種類以上の症状を併せ持つ。
症状が数年に渡って持続する人、感染時は軽症だったのに重い後遺症が出る人も多い。「寝たきりに近い状態に陥った若い人、子供もいる」と平畑氏。診療を希望する患者は今も絶えない。特効薬は開発されておらず、対症療法しかないのも現状だ。
後遺症予防には、感染から2~3カ月ほどは無理をしないことが重要といい、抗ウイルス薬や鼻うがいの使用も有効に働く可能性が高いという。
平畑氏は「国内のコロナ後遺症患者は約500万人に上るともいわれている。感染による後遺症のリスクを知り、予防に向けた取り組みにつなげてほしい」と語った。(三宅陽子)