加藤財務相が米財務長官と会談:識者はこうみる

加藤勝信財務相は米国時間4月24日、ベッセント米財務長官との会談後に会見し、「為替水準の目標や、それに対する管理する枠組みとか、そういった話はまったくなかった」と語った。市場関係者に見方を聞いた。2024年10月、都内で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

[東京 25日 ロイター] - 加藤勝信財務相は米国時間24日、ベッセント米財務長官との会談後に会見し、「為替水準の目標や、それに対する管理する枠組みとか、そういった話はまったくなかった」と語った。為替レートは市場で決定され、過度な変動や無秩序な動きは経済・金融に悪影響とする国際合意を再確認したとし、「引き続き緊密かつ建設的に協議を続けていくことで一致した」と述べた。

市場関係者に見方を聞いた。

◎無難で想定内、米金利上昇の理由に注目

<みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>

そもそも米国の関税措置を巡る交渉で為替問題がテーマになるというのは、マーケットとメディアが作り上げた論調。そのもとになったのは、米大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長が昨年11月に出した論文だが、為替に対する言及は論文中の一部に過ぎず、ミラン氏本人も交渉で為替問題は中心的な議題にならないとの考えを示していた。日米財務相の会談が無難な結果に終わったことは想定内だった。

今後、自動車部品や半導体への関税措置を米国が発動すれば、再びマーケットのセンチメントは傷つくだろうが、株式市場や債券市場が荒れれば米国政府も再考するとの見方も多い。もっとも、4月以降の金融市場の急変動について、米金利が上昇した理由は明らかになっていない。一説には中国による保有米国債の売却という話もあるが、ノルウェーなど欧州の年金が関わっているという話も根強くある。そのような動きが事実であれば、そう簡単にドル安基調は修正されないだろう。

◎円安是正求めにくいタイミング、日本に有利

<ニッセイ基礎研究所 主席エコノミスト 上野剛志氏>

無難に通過した。一昨日までは協調介入で強制的に為替水準を修正するとか、日銀に利上げを求めていくとか、関税協議で為替条項を盛り込むような強硬策への警戒もあったが、いったんは杞憂(きゆう)に終わった。

足元ではベッセント米財務長官自身がドル安になることを警戒している側面もある。米国債売りをはじめとするトリプル安の中で、ドル安を誘導すればさらに混乱を招きかねない。円安是正を求めにくいタイミングだった点では、日本側に有利だった。

とはいえ、トランプ米大統領は日本の円安を中国の人民元安と並べて通貨安誘導してきたという思い込みが強い。そうした見方を変える兆しもなく、警戒感そのものは今後も残る。

来週予定される赤沢亮正経済再生担当相とベッセント長官との関税協議が不調だと、改めて矛先が為替に向かう懸念も拭えない。

◎円高思惑一服で投機の巻き戻しも

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏>

ベッセント米財務長官が事前に貿易交渉で特定の為替目標は念頭にないと語っていたこともあって安心感はあったが、それが確認できた。ソロス・ファンド出身のベッセント長官は人為的な為替管理には否定的とみられ、特定の通貨ペアに対して一定の方向感や特定のレベルを目指すような合意はもともとないとは思っていたが、それが確認でき、円安是正要求の思惑はいったん沈静化した。

市場が決めるレートを尊重する従来のG7(主要7カ国)のスタンスを踏襲するもので、円安が進んでも、ファンダメンタルズにのっとった動きなら目くじらを立てないということだろう。

一時139円台まで進んだ円高は、実需や投資家などのリアルマネーが裏付けになったものではなく、投機筋が円買い投機を過去最大に膨らませたことが主因。日米貿易協議に絡む円高ストーリーが一服し、対中国などトランプ関税の税率引き下げや米国内でのトランプ減税の議論開始などが重なれば、ドル/円はすぐ150円台を回復する可能性がある。

◎米国側の本音明かされず、日銀は米関税見極め姿勢維持

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

日米財務相会談では、加藤勝信財務相からは為替について具体的な話はなかったとされた一方で、米国側からの発信はなく、本音は明かされなかった。これを受けて、ドル/円の反応は薄い。ただ、トランプ米大統領が通貨安に対して物言いをしている以上、一切何もなかったというのは考えにくい。今後出てくる情報に引き続き注意が必要だろう。

ドル安/円高の流れをより実現するためには、米連邦準備理事会(FRB)の利下げと日銀による利上げがセットになることが必要となる。FRBについては、昨日の高官らの発言を踏まえると、6月の利下げに向けて軸足を移している印象だ。

日銀については、現状では米関税の影響を見極めるスタンスを維持するとみている。4月30日ー5月1日の金融政策決定会合で公表される展望リポートは実質GDP、CPIの見通しはいずれも下方修正されるとみられており、すぐに利上げに向けて動かないだろう。

このため、日銀が利上げに前向きな姿勢にならない限り、円金利は上昇圧力がかかりにくい。一方、利下げ期待から米金利は低下圧力がかかりやすく、円金利も影響を受けやすいとみている。

◎ドル安言える環境でない、日経3万5000円台の値固めに

<マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆氏>

日米財務相会談は、全く材料にならなかった。為替の水準に言及しないことはベッセント米財務長官が事前に言っていたため、形式的な会談となった。

そもそも、米金融市場がトリプル安になると高関税の猶予を発表したり、米連邦準備理事会(FRB)議長を批判して市場が動揺すると火消しに動いた経緯がある。ドルや米債が売られる状況となれば、手のひら返しすることが分かった。

ドル不安になりやすい市場環境の中で、ドル安誘導を言えるわけがないし、対円でだけドル安にしたところで、米貿易赤字の解消には遠い。

もっとも、現在の米政権は経済理論で動いておらず、政治の側面も交えて二転三転していることが不確実性を生んでおり、安心はできない。日本では大型連休も控えており、しばらく本格上昇の基調には戻りにくく、3万5000円台での値固めになるのではないか。

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