「私はただのジョニー」と語るジョナサン・アイブ氏が「シリコンバレーは奉仕の心を失った」とIT業界に警鐘を鳴らす理由(ITmedia PC USER)

 OpenAIが5月21日、Appleの元チーフ・デザイン・オフィサー(最高デザイン責任者)だったジョナサン・アイブ卿(以降、アイブ氏)のスタートアップ企業「io」を65億ドルで買収すると発表し、テクノロジー業界に大きな衝撃を与えた。 【写真】最もアイブ氏らしいデザインと言われている「iPhone 5c」のパッケージ  アイブ氏とその55人のチームがOpenAIに合流し、次世代AI搭載デバイスの設計を担当することになる。OpenAIのサム・アルトマンCEOは「世界最高のデザイナー」とアイブ氏を絶賛し、2026年に最初の製品を発表予定だと明かしている。  くしくも、その少し前にサンフランシスコのMoscone Centerに同じアイブ氏がインタビューという形で登壇した。金融インフラ企業Stripeが主催する「Stripe Sessions 2025」での出来事で、アイブ氏は2日目のセッション「A conversation with Sir Jony Ive KBE」に登壇した。  2025年のStripe Sessionsは初日にMeta創業者のマーク・ザッカーバーグ氏も登場する豪華さだった。YouTubeで公開されたアイブ氏のセッションは、テクノロジー業界における「デザイン」の重要性について示唆に富む内容だったので、記事としてまとめてみたい。

 Stripe Sessions 2025の2日目の目玉セッションは、Stripeの共同創業者兼CEOのパトリック・コリソン氏によるアイブ氏の公開インタビューという体裁で行われた。  コリソン氏は冒頭、「パーソナルコンピュータの父」と呼ばれるアラン・ケイ氏の「テクノロジー業界はポップカルチャー」という言葉を引用し、IT産業は歴史から学ばず先人たちのアイデアを理解していないという批判を取り上げた。だからこそ、現在のIT業界の基礎を築いたアイブ氏から、その背後にあった考えを聞こうというのがセッションの狙いだった。  今のテクノロジー業界に問題意識を抱えているアイブ氏は、まず彼がどのようにしてこの業界に関わったかを振り返った。  ロンドンに生まれ、英国の美術大学で工業デザインを学んだアイブ氏。テクノロジーについては知識がなかった。そんなアイブ氏とIT業界の最初の接点はMacとの出会いだった。  「美術学校に居たとき、Macを発見しました。最終学年でした。もっと早く出会えていたらと思います」と、アイブ氏はこの製品を見て、もっと早く気が付くべきだったあることに気が付いたという。  「それは私たちが作るものは、私たちが何者であるかの証だということです。私たちが作るものは、私たちの価値観を表したものであり、美しく、簡潔に、私たちの関心事を描写しているのです。Macを見たときに、これを強く感じ、衝撃を受けました」(アイブ氏)  アイブ氏は、Macのあらゆるディテールにそれを強く感じて心を打たれたという。「これを作ったのは独創的な考え方、明確な価値観を持った人々、人や文化に対して一家言ある人々だということが製品を通してはっきりと分かりました」と語る。  「世の中の製品の多くはコスト効率が良いという理由で作られています。価格と締め切りを重視して安く作り、あまり売れなかったと帳簿を見ながら後悔する製品です。一方で、それとは異なる製品もあります。我々の種(人類)を前進させるべくデザインされたと感じる製品です。  Macは明らかに後者で、作った人たちの『明確な価値観、決意、そしてそれらの価値観を形にしようという勇気』に深く感動したのです」とアイブ氏。  それを作った人々に会いたくなり、カリフォルニアを訪れたという。この訪問がきっかけで、アイブ氏は1992年から2019年まで27年間、同社のデザイン部門で中心的な役割を果たすことになった。  当時はAppleだけでなくシリコンバレー全体に「人類に奉仕するためにここにいる」という強い目的意識や価値観を感じたという。これに対して、現在のシリコンバレー企業の多くは「お金と権力」が目的になっているように見えるとアイブ氏は懸念を示す。  コリソン氏も、かつてテクノロジー業界にあった奉仕の感覚が失われ、業界の「北極星」となるべき創造の中心が歪んでしまったと懸念を示した。

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