米国が弾薬不足対応でFMS優先条項を行使、欧州に武器納入遅延を通知
Reutersは16日「米国当局はイランとの戦争が武器備蓄を消費し続けているため、一部の欧州当局にFMS契約の武器納入が遅れる可能性が高いと伝えた」「今回の決定によりバルト海地域やスカンジナビア諸国を含む複数の欧州諸国が影響を受ける」と報じた。
参考:Exclusive: US to delay weapons deliveries to some European countries due to Iran war, sources say 参考:Estonia Says US Warns of Arms Sales Challenges Amid Gulf Crisis
米軍は対イラン戦=エピック・フューリー作戦中にパトリオット迎撃ミサイルを最低でも800発以上、トマホークを最低でも850発以上、JASSM-ERを最低でも1,000発以上消耗し、国防総省はFY2027予算説明資料の中で大量の弾薬調達(SM-3 Block IIA×136発、PAC-3 MSE×3,203発、THAADミサイル×857発、トマホーク×785発、PrSM×1,134発、JASSM-ER×821発など)に必要な資金を要求しているが、この数量は産業界が1年間に供給できる生産量を大幅に上回っている。
出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jonathan Sunderman/Released
国防総省はLockheed Martin、RTX、BAE Systems、Honeywell Aerospaceなどと生産能力の強化に関する枠組みを締結し、各種弾薬の生産量を2倍~4倍に引き上げる予定だが、これを実現するには各サプライヤーの生産能力を強化していく必要があり、強化された生産能力の目標達成も7年後=2033年頃の話だ。
つまり「FY2027で各種弾薬の発注に巨額の資金を供給すれば産業界の設備投資を後押しするかもしれないが、FY2027で発注した各種弾薬が初納品されるのは数年後(最低でも2年~3年後)、発注分の全納入が完了するのもそこから数年かかる」という意味で、米国は自国の弾薬不足に対応するため対外有償軍事援助の権利(自国の安全保障に影響を及ぼす事情があれば合意された武器取引の条件から逸脱することができる)を行使するつもりらしい。
出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Caleb Schellenberg
Reutersは16日「米国当局はイランとの戦争が武器備蓄を消費し続けているため、一部の欧州当局に対して契約した武器納入が遅れる可能性が高いと伝えた」「今回の決定によりバルト海地域やスカンジナビア諸国を含む複数の欧州諸国が影響を受ける」「Reutersの取材にエストニアとリトアニアは『イラン戦争の影響で米国製装備品の納入に遅れが生じる可能性がある』と通知されたと回答した」「今回の影響を受ける国の中にはロシアと国境を接している国もあり、攻撃と防御の両方に使用できる弾薬を含む様々な種類の弾薬が納入遅延の影響を受ける」と報じた。
おそらく、PAC-3 MSE、トマホーク Block V、JASSM-ER、AIM-120D-3/C-8、AIM-9X BlockII、Mk.81~Mk.84、JDAMといった弾薬類が影響を受けると思われるが、エストニアとリトアニアが影響を受けるのでHIMARSの弾薬も影響を受ける可能性が高く、スイスの件で明らかになったように「FMS契約に署名してしまうと米国の立場が絶対的で何の保証もない」「契約解除で支払った資金がどれぐらい戻って来るかもトランプ大統領の善意次第」「一方的に支払いを停止しても他のFMS契約向けに支払った資金を勝手に流用される」「納入遅延で生じる取得コストの上昇分も請求される」ため、一度署名してしまうと逃げられない構造だ。
出典:Lockheed Martin
ちなみに、ポーランドのディフェンスメディア=Defence24は「米国のスイスへの対応」と「米国が非公式にポーランド軍のパトリオット部隊を中東に配備し、納入済みのPAC-3 MSEを移転できないか打診してきたこと」を受けて「ポーランドへの要請はパトリオットシステムと迎撃ミサイルの不足を示唆している」「米国は十分なパトリオットシステムや迎撃ミサイルを確保するまでポーランド納入を遅らせるかもしれない」と懸念していたが、恐らく懸念は現実のものになるだろう。
そして日本もトマホーク遅延の影響から無関係でいられない可能性がある。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin