画期的な最新技術により「太陽コロナ」の活動を鮮明に撮影
まるで生きているようなリアルさ。
太陽の外層大気のもっとも外側に位置するコロナを目にすることはほとんどありません。その姿を確認できるのは、皆既日食のときくらいです。
今回、新たな補償光学システムによって大気のゆらぎによる光波面の乱れを補正し、そんな謎に満ちた太陽の外層大気に広がる細かなプラズマの姿を鮮明に捉えることに成功しました。
アメリカ国立太陽天文台(NSO)とニュージャージー工科大学の研究チームは、コロナの新たな画像や映像と共に、この新システムを公開しています。
まるで生きているような太陽表面の様子を撮影
Nature Astronomyに発表された研究結果は、プロミネンス(暗く細長い糸状の隆起)の繊細な構造や、針のように細くて短時間で消えるプラズマ噴流のスピキュール、さらには磁力線に沿って冷却されたプラズマが太陽表面へ降り注ぐコロナレインを捉えています。
Image: Gizmodo / YouTubeコロナレイン最新技術で解像度が飛躍的に増加
研究チームの撮像技術における飛躍的進歩は、コロナ補償光学と呼ばれる技術に支えられています。
カリフォルニア州にある口径1.6mのGoode Solar Telescope(グード太陽望遠鏡)に搭載された「Cona(コナ)」という愛称を持つ新しいシステムは、1秒間に2,200回もミラーを微調整することで、地球の大気の乱れによって生じる歪みを補正しています。この卓越した技術は、望遠鏡の揺れを相殺し、驚くほど鮮明なコロナの画像を生成します。
NSOの補償光学研究者であり、研究の主執筆者を務めたDirk Schmidt氏は、NSOのプレスリリースの中で次のように語っています。
「この技術の進歩によって、状況は一変します。解像度が10倍になることで、多くの発見がもたらされます」
太陽望遠鏡の補償光学は、これまで主に太陽の表面を観測するために使用されてきたといいます。より暗いコロナの観測は長年困難とされ、約80年もの間、コロナの構造を捉えようとすると1,000kmのスケールでぼやけてしまっていたそうです。
しかし今回、Conaはついにその壁を打ち破り、グード太陽望遠鏡の理論上の限界である63kmまで解像度を上げることができました。
Image: Schmidt et al./NJIT/NSO/AURA/NSFプロミネンスチームが撮影した新たな映像には、プロミネンスがねじれながらリアルタイムで形を変える様子(上のGIF動画参照)や、表面でちらつくスピキュール、さらに20km未満の細い糸状のコロナレインが捉えられています。太陽までの距離、太陽の他の領域と比較したコロナの淡さ、そして乱れた地球大気を補正する労力を考えると、この鮮明さは快挙といえるでしょう。
コロナ補償光学で太陽の謎に迫る
ニュージャージー工科大学太陽地球研究センターの物理学者で、研究論文の共著者でもあるPhilip Goode氏は、新技術の可能性についてこう述べています。
「世界中の天文台で採用される可能性が高いこの革新的技術は、地上からの太陽天文学を根本から変革させる可能性があります。コロナ補償光学の運用が始まったことで、太陽物理学は新たな時代に突入しました。今後数十年で多くの新たな発見が期待されます」
今回の観測結果は、コロナが太陽表面と比較して何百万度も高温になる理由など、長年の謎を解く手がかりを提供してくれるといいます。
研究チームは、このコロナ補償光学技術をハワイにある口径4mのダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡に導入する計画を立てており、今後はさらに太陽大気のより詳細な情報が明らかになる可能性があるとのことです。