トランプ2.0 対外援助の停止 縮む米国のソフトパワー

社説

毎日新聞 2025/7/23 東京朝刊 857文字
閉鎖された米国際開発局(USAID)の本部=ワシントンで2025年4月25日、松井聡撮影

 「米国第一」のトランプ政権を象徴している。世界が抱える深刻な人道問題への取り組みが後退するのは避けられない。

 米政府が、対外援助を担う国際開発局(USAID)を閉鎖し、国務省に一部業務を移管した。従来の事業の約8割が廃止されるという。

Advertisement
ワシントンの米国務省前で、拍手の中、見送られる女性職員(中央)ら=2025年7月11日、ロイター

 国務省は人道分野などを担当する職員ら1350人以上を解雇した。ルビオ長官は、政権の政策と一致する事業に絞ると述べた。

 離脱する国連機関などのリストを8月までに作成する。すでにパレスチナ支援機関への資金提供を打ち切った。援助外交が停滞し、支援が途絶えれば影響は甚大だ。

 トランプ大統領は、長年にわたる資金拠出に見合うだけの利益が得られていないと言う。だが、守られてきた米国の国益は大きい。

 途上国の貧困を減らして生活を安定させることで、紛争を回避し地域に平和をもたらした。貢献は国際社会で高く評価されている。

 自由経済や民主主義を広げ、友好国を増やし、敵対する勢力を抑止してきた。米国を安全にする戦略的投資と言われるゆえんだ。

 そうした事実を無視し、ひたすらコストカットに向かうなら、積み上げてきた資産はすり減り、世界の信頼を損なうだけだ。外交力を推進する米国のソフトパワーは大きく減退するだろう。

 とはいえ、トランプ大統領に翻意を期待することはできまい。その穴をどう埋めるか。国際社会は動き出す必要がある。

 世界では、約8億人が貧困下にあり、7億人超が飢餓に苦しむ。とりわけ懸念されるのが、避難民への対応だ。紛争などにより1億人強が故郷を追われている。

 世界各地で排斥運動が起き、人道的な危機に直面している。国連を重視し、政府開発援助(ODA)に積極的な主要国間の協力は欠かせない。

 資金は限られており、国連機関の簡素化や業務の効率化も急がれる。加盟国からの分担金だけでなく、幅広い市民レベルによる資金調達のあり方も検討されている。

 国連を通じて資金を受ける非政府組織(NGO)には、信頼を得るための改革努力が求められる。

 こうした取り組みを日本は先頭に立って後押しすべきだ。

関連記事: