1人暮らしの在宅勤務、「丸1日、人と接触なしの日」が3割……店員とも話さず 58万人を分析、Scienceで論文発表:Innovative Tech

2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2

 ニューヨーク連邦準備銀行などに所属する研究者らが発表した論文「Home alone: Remote work, isolation, and mental health」は、リモートワークが労働者の孤立を深め、メンタルヘルスに悪影響を及ぼしている実態を明らかにした研究報告だ。

1人暮らしで在宅勤務する人のイラスト(絵:おね

 研究チームは、調査結果が精神的に不調な人が自ら在宅勤務を選びやすいといった個人の事情に左右されないよう、リモートワークがしやすい職業(ソフトウェアエンジニアなど)と物理的な出社が必要な職業(看護師など)を比較する手法をとった。

 2011年から24年にかけてのデータ(パンデミックのピーク期にあたる20~21年は除外)をもとに、58万8322人の米国人を対象に分析し、リモートワークの拡大がもたらした変化を調べた。

 分析の結果、リモートワークがしやすい職業の人は、そうでない人に比べて仕事中に1人で過ごす時間が1日あたり1.2時間(58%)増えていた。また、1日を完全に1人で過ごす日や、店員や同僚とのちょっとした会話すら全くない日も大幅に増加していた。

 こうした孤独の増加は1人暮らしの人々に集中していた。1人暮らしの人は、同居している人に比べて、丸1日を1人で過ごす日の増加が10倍、1日中誰とも接触しない日の増加が13倍も大きかった。仕事後に友人と過ごす時間の減少も3倍大きい。

 実態として、一人暮らしの人が在宅勤務した日のうち、45.9%は終日完全に1人で、31.1%は店や施設での何気ない接触すらなく(カフェの店員とのちょっとした雑談もなく、同僚からの挨拶もなく、食料品店ですれ違う人からの微笑みもない)過ごされていた。

在宅勤務ができる職種の人は、コロナ後に一日中ひとりで過ごす日や誰とも接触しない日が増え、逆に平日夜に友人と過ごす時間は減った。こうした変化は、ひとり暮らしの人(薄い青)のほうが全体(濃い青)より大きい

 孤立化と同時に、メンタルヘルスの悪化も浮き彫りになった。一般的な心理的ストレスの指標が悪化しただけでなく、気分の落ち込みやうつ状態を感じる頻度が21.7%増加していた。それに伴い、心療内科などの専門家を受診する割合や、抗うつ薬・抗不安薬といった処方薬を利用する割合も高まっている。

コロナ前は、在宅勤務ができる職種(青)の人のほうが、できない職種(グレー)の人よりも精神的な不調が少なかった。しかしコロナ後は在宅可能な職種で不調が増えた

 これは単に時間に余裕ができて病院に行きやすくなっただけ、というわけではない。身体の定期健診や、別の病気の薬(コレステロールを下げる薬など)の利用は増えておらず、実際に精神的な不調そのものが増えていることが確認された。この精神的苦痛の悪化の度合いも、一人暮らしの人は家族と同居している人の約2倍に達していた。

Source and Image Credits: Natalia Emanuel et al. ,Home alone: Remote work, isolation, and mental health.Science392,eaec7671(2026).DOI:10.1126/science.aec7671

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 P2Pソフトの開発は、どこまでが違法なのか――日本ソフトウェア科学会が9月14日、東京工業大学で開いたチュートリアル「P2Pコンピューティング-基盤技術と社会的側面-」のパネルディスカッションで、技術者5人と法学者がP2P技術の法律的側面について話した。

 参加したのは、ネット上の契約や著作権法に詳しい成蹊大学法学部の塩澤一洋助教授、産業技術総合研究所グリッド研究センター・セキュアプログラミングチーム長の高木浩光氏、同センターの首藤一幸氏、科学技術振興機構の阿部洋丈研究員、NTTサービスインテグレーション基盤研究所の亀井聡氏、デジタルドリームの近藤治社長。

左から首藤一幸氏、高木浩光氏、阿部洋丈研究員、亀井聡氏、近藤治社長、塩澤一洋助教授

 阿部研究員は、P2P技術を利用した匿名プロキシ「Aerie」を開発。ソースの公開を予定していたが、「2ちゃんねるの名誉毀損訴訟や、Winny開発者逮捕事件などをきっかけに、ソース公開を思いとどまった」(阿部研究員)。

 Winny開発者の逮捕は、P2P技術の研究を萎縮させると懸念されている。Winny開発者の初公判でも弁護側はこの点を強調し、「有罪になれば日本のP2P技術開発を遅らせる」と主張した。

 実際、阿部研究員のように、ソフトのソース公開を凍結させたケースもある。「ここまで膨らんできたP2Pムーブメントが一気にしぼんだという感覚はある」(高木氏)。

 しかし「研究者は意外とたくましい」と亀井氏は言う。「P2Pが危険視され始めて以来、同様の技術の研究タイトルには“P2P”の代わりに“グリッド”や“オーバーレイ”と付けてしのいでいる」(亀井氏)。また、阿部研究員も、「Aerieのソース公開はやめたが、論文の執筆や研究は続けている」(阿部氏)。危険な技術であっても、研究室で研究し、論文を執筆するだけなら問題はない。

 技術者の間では、Winny開発者逮捕はそれほど大きなブレーキにはなっていないというのが大方の見方のようだ。

 Winny事件を受け、どんなソフトなら開発OKで、どんなソフトがダメなのか、ガイドラインが欲しいという技術者も多い。

 塩澤助教授は「ソフト開発時、社会的に認容される形で作るのが重要」と言う。特に、合法・違法両方に使えるソフトを開発した場合は、違法利用を防ぐための対策をとる義務が技術者にはあるという。

 「原子力発電所でも包丁でも、悪いことに使える可能性を持ったものを作った人は、間違いが起きないように高度の注意を払う義務がある」(塩澤助教授)。

 例えばWinnyは、高度な匿名性を保てるため著作権法違反に使われやすいほか、削除のコントロール機能がないため、一度流出してしまったファイルは回収不能。「児童ポルノや個人情報など問題のあるコンテンツが流通しても、止めようがない」(高木氏)。塩澤助教授は、Winny開発者がこういった危険性を認識しながら対策をとっていなかったとすれば、注意義務を果たしていなかったと言えるのでは、とした。

 Winny開発者は、Winny開発は技術的な実験だっと主張しているが、「研究対象と、実装して世の中に出すものは分けるべき。この境界を中途半端にしたままだったWinny開発者が目の敵にされるのは仕方がない」(塩澤助教授)。

 また塩澤助教授は、技術者が新技術を世に出す前にやっておけばいいこととして「特許を取ること」を挙げた。日本では特許に対する信頼が比較的厚く、特許を取っておけば世論を味方につけやすいため、罪にも問われにくくなるのではないかとの考えだ。

 著作権法とP2Pの相性は決して悪くないはずだと塩澤助教授は言う。

 「著作権法は、著作物を作る人、使う人双方の利益のバランスを取ることで、文化の発展に寄与することが目的。P2Pも、著作物を効率的にシェアすることで、文化の発展に寄与するもの」(塩澤助教授)。

 ただ、現在の著作権法は、著作者の権利の保護に傾きすぎてバランスを崩しており、文化の発展に寄与するという目的に反するものになりつつあるとも指摘する。

釣り合っているべき天秤がバランスを崩しているのが現状

 また、塩澤助教授はパネルディスカッション前の講演で、Winny開発者の無罪の可能性についても話した。

 著作権法違反ほう助の罪で起訴されている開発者だが、(1)ほう助の故意の立証が可能か、(2)被ほう助者(著作権法違反の実行犯)が誰か認識している必要がないか、(3)罪刑法定主義に抵触しないか――という3点で、無罪の可能性があるという。

 (1)は既に、公判での争点になっている。初公判で検察側は、開発者のネット掲示板上での発言などを引き合いに、「著作権法違反行為を増長させることを意図し、確信犯的に行っていた」と故意を主張。これに対し弁護側は「技術的な実験にすぎない」と否定した。今後の公判でも故意の有無をめぐって争われることになりそうだ。

 (2)について、「例えば教唆罪の場合は、教唆者は被教唆者を認識している必要がある。ほう助の場合も、被ほう助者を認識している必要があるのではないか」と指摘した。

 (3)については、刑法第8条「この編の規定は、他の法令の罪についても適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りではない」が根拠となる。

 刑法8条の「特別の規定」に、著作権法違反の罰則規定(著作権法第119条以下)があたると解釈。それ以外の行為(ソフト開発を含む)は刑法の適用対象外になり、罪には問われないという考え方だ。しかし「今回の裁判では、裁判所がこれを罪刑法定主義違反と判断をすることはまずないだろう」(塩澤助教授)。

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